米アーティストの57%は「経済的不安がある」──2618人を対象にした最新調査が明かす実態
メロン財団とシカゴ大学が実施した全米調査により、アーティストの生活実態が明らかになった。複数の仕事を掛け持ちし、経済的不安を抱えながら活動を続ける姿が浮き彫りになった。
アメリカに拠点を置くアーティストが、どのようにして生計を立てているかを明らかにした調査結果がこのほど発表された。2618人のアーティストを対象に実施されたこの調査は、メロン財団とシカゴ大学の全国世論研究センター(NORC)によって行われた。
102ページに及ぶ調査報告書には、アーティストの仕事や収入、健康状態、幸福度といった生活に関する指標のほか、年齢、婚姻状況、性別、人種などの基本的なデモグラフィック情報がまとめられている。調査対象は、舞台芸術、ビジュアルアート、執筆、工芸、その他芸術の5分野で活動するアーティストに分類され、さらに37の専門分野に細分化された。また、活動の目的は、楽しみ、収入、文化継承、アクティビズム、その他といったカテゴリーに整理されている。なお、デザインのみを行い、他の芸術活動を行っていないと回答した人々は調査対象外となった。
食費・医療費の支払いに不安
調査では、アーティストの労働時間や兼業状況といった要素をもとに、アーティストを4つのタイプに分類している。具体的には、教育活動を主とする人々、文化継承を担う人々、3つ以上の仕事を掛け持ちする人々、そして自営業として活動する人々といった類型が確認された。これらの分類は、主な芸術活動に費やす時間や職業、芸術関連収入など、多様な変数を踏まえて、アーティストの労働実態を立体的に把握するための手がかりを提供している。
この調査は、アーティストの働き方や生計の立て方が多様であることを示すだけでなく、アーティストの定義を広げている。芸術活動のみで収入を得る人がいる一方、創作の資金を確保するために、他の仕事を掛け持つ人も少なくない。調査によれば、アーティストの34%が完全に自営業(*1)として働いており、主要な収入源となっている仕事に限ってみると自営業として従事する割合は50%に達する。また、過去1年間で3つ以上の仕事を掛け持っていた人は11%にのぼる。さらに、アーティストの個人的な背景も多様で、28%が家族の健康上の問題に対して無償ケアを提供し、8%は従軍経験があるという。
(*1)ここでいう「自営業」は、芸術活動による収入に限定されず、自身が営む他の業務からの収入も含む。
調査はまた、多くのアーティストが経済的な不安を抱えて生活している実態も浮き彫りにした。例えば、アーティストの57%は食費、住居費、公共料金、医療費の支払いのいずれかに不安を感じていると回答した。より具体的には、22%が食費、32%が医療費の支払いに懸念を抱いている。こうした状況を踏まえ、報告書の筆頭著者であるNORC上級研究員のグウェンドリン・ラグは次のように述べている。
「私たちのコミュニティに大きく貢献しているにもかかわらず、アーティストや文化伝承者に関する情報は非常に限られており、全体像を把握することはできていませんでした。この調査結果が公表されたことで、アーティストたちはどういった生活をして、どんな仕事についているのか、そしてどういった課題に直面しているのか、初めて明確になりました。これにより、アーティストのニーズに応えられるプログラムや政策の策定の基盤が築かれたと言えるでしょう」
この調査報告書は、全米人文科学基金(NEH)や全米芸術基金(NEA)の助成金終了、スミソニアン協会の美術館への検閲、大規模な文化機関での大量解雇など、アメリカの芸術分野が揺らぐさなかに発表された。こうした状況において、報告書は、アーティストがどのような生活を送り、どのような支援や投資、公共政策、組織づくりが必要なのかを検討するための基盤を提供するものとなっている。(翻訳:編集部)
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