意向に沿わない人材を排除か。トランプ政権、全米人文科学基金の評議委員を大量解任

アメリカの文化機関に助成金を支給する全米人文科学基金(NEH)の諮問委員22人が10月1日に解任された。政府機関がシャットダウンしている最中に実施されたこの措置によって委員会に残されたのはわずか4人の白人男性。多様性配慮を義務づける設立法に反する可能性がある。

ワシントンD.C.にある全米人文科学基金のビル。Photo: Kayla Bartkowski/Getty Images
ワシントンD.C.にある全米人文科学基金のビル。Photo: Kayla Bartkowski/Getty Images

10月1日、トランプ政権は全米人文科学基金(NEH)の評議委員の大半を解任し、26人中わずか4人を残す異例の措置を取った。NEHは1965年の設立以来、アメリカの博物館や史跡、大学、図書館やそれらの関連組織に対して60億ドル(約8998億円)以上の助成金を支給してきた。なお、解任された日はアメリカ政府が7年ぶりに政府機関をシャットダウンした日でもあり、混乱のなかでの実施となった。

NEH評議会は、大統領により任命された26名の学者や有識者で構成され、助成金や政策、資金配分の決定について、NEH議長に助言する役割を担う。評議会には最低14名の出席が必要で、任命時には上院の承認を受けなければならない。また、設立法では「女性、マイノリティ、障がい者が公平に起用されるよう十分な配慮をすること」が大統領に義務づけられている

今回の解任について報じたワシントン・ポスト紙の記事によれば、「ドナルド・J・トランプの代理として、NEH評議委員としての職務の即時終了を通達する」と記された書簡が、ホワイトハウスの大統領人事室から送付されたという。評議会のウェブサイトも更新され、解任された22人の名前はすでに削除されている。残ったのは、ラッセル・A・バーマン、キーガン・F・キャラナン、ウィリアム・イングリッシュ、そしてマシュー・ローズの4人で、いずれも白人男性だ。解任された評議委員には、トランプ大統領によって任命された人物も含まれていた

ワシントン・ポスト紙が入手した会議資料によれば、評議委員たちは、10月中旬に開催される会議に出席する予定だったという。その会議では、全米人文科学メダルの候補者の選定、3件の単独応募助成金の審査、そしてトランプ政権が推進する「アメリカの英雄たちの国立庭園」計画に関する像の提案が行われる予定だった。

ホワイトハウスの広報担当者はワシントン・ポスト紙に対し、トランプ大統領が解任を決定したのは「自身のビジョンにより近い考えを持つ人材を評議会に配置したいと考えたため」と説明している。

NEHに対する圧力は以前から続いている。4月には政府効率化省(DOGE)が、過去に給付した助成金の取り消しを通知。その後、一部は連邦裁判所の差し止め命令により復活した。さらに6月には職員の約3分の2が解雇され、2026年度予算案ではNEHそのものの廃止も提案された。こうした措置に対して連邦裁判所は相次いで差し止め命令を出しており、トランプ政権によるNEHへの介入を違法とみなしている

一方、政権の文化政策への介入はNEHにとどまらない。トランプ政権はもうひとつの連邦助成機関である全米芸術基金(NEA)にも規制を強め、「ジェンダー・イデオロギー」を推進するプロジェクトへの資金提供を禁じた。しかしこの措置は、9月に連邦裁判所によって憲法修正第1条に基づく表現の自由の侵害と判断された。(翻訳:編集部)

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