「英雄庭園」構想にトランプ政権が約57億円計上。庭園建設に芸術団体向けの予算を転用し批判の声

トランプ政権が提出した減税・歳出法案に「アメリカの英雄たちの国立庭園」の建設費として約57億円が盛り込まれている。2026年の独立250周年に向けて250体の等身大彫像を設置する計画だが、財源には芸術文化団体向け助成金が転用されており批判も強い。

制作される彫像の1人として、初代大統領のジョージ・ワシントンが挙がっている。Photo: Noam Galai/Getty Images
制作される彫像の1人として、初代大統領のジョージ・ワシントンが挙がっている。Photo: Noam Galai/Getty Images

ドナルド・トランプ大統領が打ち出した看板政策が盛り込まれた大規模な減税・歳出法案がこのほど上院で可決された。この法案のなかには、アメリカの英雄たちの国立庭園(National Garden of American Heroes)に彫像を建設する費用4000万ドル(約57億4100万円)が含まれている。

ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル(美しく大きな法案)」と呼ばれるこの法案によれば、彫像建設にかかる費用は「2025年度の全米人文科学基金(NEH)から配分され」、複数の大統領令に基づき「2028年度まで利用可能」とされている。

アメリカの英雄たちの国立庭園の建設は、2026年に迎えるアメリカ独立250周年に向けてトランプ大統領が掲げた優先事項のひとつであり、建設計画は第1次トランプ政権時代に発表されている

NEHが4月に発表した声明によれば、この庭園には「アメリカの文化、科学、経済、政治の発展に貢献した偉人250人」の等身大の彫像が設置されるという。また、「アメリカ人が国の英雄について学び、称えるための公共空間を創出する」ことを目的としていると、声明には記されている。

彫像を制作する芸術家には、1体につき最大20万ドル(約2870万円)の予算が与えられ、大理石、花崗岩、青銅、銅、あるいは真鍮を使って制作しなければならない。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、英雄の像は「写実的」に描くようトランプ大統領が指示しており、モダニズムや抽象的なデザインは認めていないという。

制作される彫像の対象として、大統領令13978号には候補者244人が記されており、政治・歴史分野からはジョージ・ワシントンやアレクサンダー・グラハム・ベル、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが、文化・芸術分野からはコービー・ブライアントやハンナ・アーレント、アンセル・アダムスなど、多岐にわたる重要人物が含まれている。

この法案は、庭園の建設費以外にも富裕層への不釣り合いな税制優遇、公的医療保険(メディケイド)や補助的栄養支援プログラム(SNAP)といった低所得者層を支援する制度の大幅削減、出入国管理・税関執行機関に対する450億ドル(約6兆4600億円)の予算増額、再生エネルギー税額控除の変更、国税庁の権限縮小といった点で批判を受けていた。また、米議会予算局によれば、この政策変更により今後10年間で財政赤字は3兆3000億ドル(約474兆円)膨らむという

この庭園の財源には、アメリカ国内の芸術文化団体への配分が予定されていたものの、トランプ政権によって廃止された連邦政府助成金が充てられ、なかには6万ドル(約860万円)相当のNEH研究員制度・教員表彰制度が含まれている。ちなみに、ワシントンD.C.を拠点とする芸術アドボカシー団体「Arts Action Fund」によれば、2025年度の全米芸術基金の総予算は2億1010万ドル(約301億円)、NEHの総予算は2億10万ドル(約287億円)だという。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい