全米人文科学基金の職員100人が解雇。トランプ政権による文化機関の「解体」に労働組合が警鐘

トランプ政権による人員削減の一環で、全米人文科学基金(NEH)の職員約100人が解雇され、削減された予算は国の英雄の彫刻庭園に転用される。2026年度の連邦予算案にはNEHを含む文化機関の廃止計画が盛り込まれており、文化研究支援の存続が危機に瀕している。

人文科学分野に貢献した研究者や研究機関に授与されるNational Humanities Medal。Photo: Courtesy of Wikimedia Commons
人文科学分野に貢献した研究者や研究機関に授与されるNational Humanities Medal。Photo: Courtesy of Wikimedia Commons

「人員削減」の一環としてトランプ政権は、全米人文科学基金(NEH)の職員およそ100人の解雇を発表したと、USAトゥデイが報じた。この発表を受け、同組織の職員の約3分の2が職を失っており、同機関に残る職員は60人に満たないと推定されている。この解雇に対して、NEHの職員が加盟している労働組合、米行政府職員連合第3403支部は次のような声明を発表した。

「健全な運営を継続するために必要な計画が立てられる前に、大規模な機関再編が進められている。こうした急激な変化は、国内の文化遺産の研究、保存、そしてそれらを読み解くためにNEHからの支援を頼りにしている機関や個人が存亡の危機に立たされることを意味している」

1965年に設立されたNEHは、博物館や史跡、大学、図書館、および関連組織に対し、これまでに60億ドル(約8654億円)以上の助成金を交付してきた。

政府効率化省(DOGE)による予算削減により、NEHに対する2025年度の資金提供は停止されている。DOGEはNEHの総予算2億1000万ドル(約303億円)から6500万ドル(約94億円)を削減し、職員の65%の解雇を試みた。削減された予算は、ドナルド・トランプ大統領が画策している国の英雄の彫刻庭園をはじめとする取り組みに再分配されている

6月5日の訴訟により人員削減は一時的に回避されていたが、組織再編が新たに実施された。この組織再編に際してNEHの労働組合は、アート・ニュースペーパーに対してこう語った

「ジョージ・ワシントンの著作の出版やマーク・トウェインの遺品の修復、公民教育の支援に使われていた助成金が、彫刻の制作に再分配されるなんて常軌を逸しています。NEHの職員には、歴史的人物がこの国に与えた影響について解釈する専門知識は備わっていますが、芸術作品の制作は職務の範囲を大きく外れています。歴史とは石に刻めるほど単純なものではないのです」

複数の組織がNEHを提訴しており、一部が同組織の「解体」と表現する解雇の流れに歯止めを掛けようとしている。2026年度の連邦予算案には、NEH、全米芸術基金、博物館・図書館サービス機構を廃止する計画盛り込まれていることから、文化機関の状況はさらに悪化する恐れがある。

ロイター通信が実施した政府機関の離職状況の調査によれば、DOGEが設立されてから連邦政府職員は約12%削減されており、連邦職員230万人のうち26万人が解雇されている。

連邦機関の大規模な組織再編は、トランプ大統領とDOGEの元責任者であるイーロン・マスクとの間で確執が続いているなか進行している。マスクはワシントン・ポスト紙に対し「連邦官僚制の状況は私が認識していたよりもはるかに深刻だった」と語っている。(翻訳:編集部)

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