「建設的で友好的」? スミソニアン長官とトランプ大統領が会談も、攻勢緩めず

ドナルド・トランプ大統領が、スミソニアン協会のロニー・G・バンチ三世長官と昼食会談を行った。同博物館群への批判を繰り返してきたトランプ政権とスミソニアンの間で対話の糸口が見える一方、その真意は不透明だ。

Lonnie G. Bunch III. Photo: Paras Griffin/Getty Images
スミソニアン協会の長官、ロニー・G・バンチ三世。Photo: Paras Griffin/Getty Images

ドナルド・トランプ大統領は8月28日(現地時間)、第二次政権発足時から頻繁に攻撃対象にしてきたスミソニアン協会の長官であるロニー・G・バンチ三世と昼食を共にしたとニューヨーク・タイムズが報じた。トランプ政権とスミソニアンが一定の意思疎通を図っていることを示唆する目的があると考えられるが、トランプは依然として、大統領令やホワイトハウスの声明、さらにはSNSを通じて、同協会の博物館群への批判を続けている

たとえば先週、ホワイトハウスはスミソニアン傘下の施設の所蔵作品リストを公開し、その内容を事実上否認する姿勢を示した。そこには、アメリカとメキシコ国境沿いの難民を描いた絵画や、トランプ大統領と度々衝突してきた国立アレルギー・感染症研究所の元所長、アンソニー・ファウチ博士の肖像画が含まれていたほか、黒人トランス女性を自由の女神として描いたアミ・シェラルド作品も挙げられていた。シェラルドはこの作品をナショナル・ポートレート・ギャラリーでの個展に出品する予定だったが、最終的に展覧会自体を中止。その背景には、同館が本作の展示に懸念を示したためと言われている。

こうしたリストは、今年初めに出された大統領令に続くものだ。トランプ大統領はその中で、スミソニアンは「分断を助長する人種中心のイデオロギーの影響下にある」と主張し、その是正を約束していた。さらに、自身のSNS、トゥルース・ソーシャル上では、スミソニアンを「完全に手に負えない(OUT OF CONTROL)」と批判している。

現時点ではスミソニアンのプログラムに大きな変更は見られないものの、大統領は弁護士に展示内容を精査するよう指示を出している。ただし、彼はスミソニアンの理事会メンバーではない。そのため、法的な権限を持つのかは不明だ。

ニューヨーク・タイムズの記事では、バンチとトランプが昼食で何を話し合ったのか明示されてはいないが、ホワイトハウスの報道官によれば、この会合は「建設的で友好的だった」という。一方のスミソニアン側はコメントを控えている。

これまでホワイトハウスは、バンチ長官に対して敵対的な態度を取ってきた。4月には、ホワイトハウスの広報部長が「ロニー・バンチは民主党の献金者であり、狂信的な党派主義者だ。彼は自らの惨めな著書の売上を伸ばすため、根拠のない嘘をでっちあげた。幸いにも、彼も彼のゴミのような本も、完全な失敗だ」と発言している。

バンチは、歴史を「不快な真実も含めて共有することが民主主義に不可欠」とする姿勢で知られる。彼が2019年に刊行した回顧録『A Fool’s Errand: Creating the National Museum of African American History and Culture in the Age of Bush, Obama and Trump(愚かなる使命──ブッシュ、オバマ、トランプ時代におけるアフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の創設)』では、トランプの言動を批判している。オランダの奴隷貿易における役割を紹介する展示に対して、トランプ大統領が「オランダ人は私のことを愛している」と発言したとして、バンチは、「人類史における最大級の犯罪に対する彼の反応に、私は深く失望した」と綴っている。

from ARTnews

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