米最高裁、トランプの「相互関税」を違憲と判断。アート市場にも及んだ経済不確実性に転機
米最高裁は、6対3の多数で、国際緊急経済権限法に基づく大規模関税は「大統領権限を逸脱していた」と結論づけた。輸送費や資材コストの上昇、取引停滞など、アート業界にも影響を及ぼしてきた政策の見直しが進む可能性がある。
ドナルド・トランプ大統領による大規模な関税措置をめぐり、世界的に不確実性と混乱が広がった2025年、アート市場にも動揺が広がった。しかし、それから1年以上が経った現在、米連邦最高裁判所は、9人の判事のうち6対3の多数で、主要な貿易相手国であるカナダ、メキシコ、中国に対する関税を導入する大統領令の大半を無効とする判決を下した。
ジョン・ロバーツ・ジュニア首席判事が執筆した多数派の意見によれば、裁判所は、トランプが1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて広範な関税を導入したことは、権限を逸脱にあたると判断したという。
NBCニュースによると、そこには「大統領は、金額、期間、範囲に制限のない関税を一方的に課すという異例の権限を主張している」と記されている。さらに裁判所は、IEEPAを関税に適用できると議会が明確に認めた法律は存在しないと指摘。そのため、「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えるものではない」と結論づけた。
この判断を支持したのは、ロバーツのほか、ソニア・ソトマイヨール、エレナ・ケーガン、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン、ニール・ゴーサッチ、エイミー・コニー・バレットの6判事。一方、クラレンス・トーマス、ブレット・カバノー、サミュエル・アリトの3判事は反対意見を表明した。
今回の判決は、すべての関税を撤廃するものではなく、別の法律に基づいて導入された鉄鋼・アルミニウムへの関税は引き続き有効だ。しかし、国別に課されたトランプの関税、いわゆる「相互関税」は無効となった。これには、世界の多くの国に一律で課された10%の関税や、フェンタニル流入対策の不十分さを理由に2025年2月にカナダ、中国、メキシコに課された25%の関税が含まれる。
NBCニュースによると、これらの関税を支払った企業は、米財務省に払い戻しを求めることができる可能性がある。少数意見の中でブレット・カバノー判事は、この判断に基づき、すでに輸入業者から徴収された数十億ドル(数千億円規模)を政府がどのように返還するのかについて懸念を示した。米税関・国境警備局は昨年12月、トランプの関税による歳入を約1300億ドル(約20兆円)と推計しているが、トランプ自身は約3兆ドル(約450兆円)に近い数字を強調していた。
今回の訴訟は、ジョー・バイデン政権下で提起された、数十億ドル規模の学生ローン債務免除をめぐる案件と類似している。最高裁は当時、全国規模の影響を持つ政策には議会の明確な承認が必要とする「重大問題の原則(major questions doctrine)」を理由に、この提案を阻止した。トランプの関税も、同様の法理に基づいて違憲と判断された。
美術品の原作や骨董品自体は関税の対象外とされてきたものの、アート関係者は、画材、輸送、配送、イベント備品など、作品の制作、展示、販売に関わる各種コストの上昇に直面したと報告している。また昨秋、ギャラリー関係者はUS版ARTnewsに対し、昨年春から夏にかけての関税による経済的不確実性が売上に悪影響を及ぼしたと語っており、特にカナダのコレクターが関税を理由に、アメリカのギャラリーから購入を控えるケースが見られたという。
ディーラーのジャック・シェインマンは昨年9月、US版ARTnewsにこう懸念を示していた。
「カナダの顧客は多いのですが、原則としてこちらには来なくなっています。こうした状況はいずれ影響として跳ね返ってきます。私たちにはコントロールできないことなので、不安を感じています」
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