ルーブル美術館デ・カール館長が辞任。「リソース提供なしに変革は成し遂げられない」

前代未聞の宝飾品窃盗事件、施設の老朽化による漏水、職員のストライキによる休館や最近発覚した巨額のチケット詐欺など、ルーブル美術館では長期にわたり混乱が続いている。その館長を務めてきたローランス・デ・カールの辞任が発表された。

ローランス・デ・カール。Photo Bertrand Guay/AFP via Getty Images

フランス大統領府は2月24日、2021年からルーブル美術館の館長を務めていたローランス・デ・カールの辞任をマクロン大統領が正式に承認したことを発表した。大統領府の短い声明にはこう書かれている。

「ルーブル美術館館長職の辞職願が、ローランス・デ・カールから共和国大統領に提出された。国家元首である大統領はこれを受諾し、世界最大の美術館がセキュリティおよび近代化の重要プロジェクトと『ルーブル・ヌーヴェル・ルネサンス計画』を実行するため、冷静で強力な新しい推進力を必要としている時期における『責任ある行動』を受け入れた」

同声明はまた、マクロン大統領が「デ・カール氏の事績に感謝」するとともに、その「申し分のない精確な専門知識」を称賛したことを明らかにしている。

一方、同日に公表されたデ・カールの声明では、辞任について次のように述べられている。

「ルーブル美術館の館長を務めることは、その困難さ、そして成し遂げたことの両面で、私の職業人生における名誉でした。私は強い決意をもって全精力を注ぎ、ルーブルのために一分たりとも無駄にしたことはありません」

声明はさらにこう続く。

「この5年間、美術館を変革するために数多くの取り組みが実施されてきました。現場で日々、プロフェッショナリズムと情熱をもって奉仕する皆様の働きに敬意を表したいと思います。こうした取り組みは、『ルーブルの集団的な力』なしには実現できなかったでしょう」

セキュリティにインフラ、労働環境まで難題山積

デ・カールにとってこの1年は、数々の難問に見舞われた激動の年だった。昨年10月には、白昼堂々と貴重な宝飾品が盗まれている。美術品窃盗において史上最も大胆な事例の1つであるこの事件では、8800万ユーロ(約155億円)相当の王冠やジュエリーなど8点が盗難に遭った。そのうち、これまでに回収されたのは犯人が逃走途中で落としていったウジェニー皇后の王冠だけだ。ルーブル美術館は、落とされた際に受けた損傷の修復に着手したことを発表している。

窃盗事件に対する批判の高まりを受け、デ・カールは辞任を申し出たが、ダチ文化相は受け入れなかった。デ・カールはこのとき、ルーブル美術館の警備システムを「不十分」だと発言しているが、これは盗難事件の発生以前にも内部で指摘していたことだった。

しかし、世界一の来館者数を誇るルーブル美術館では、それ以外にも課題が山積していた。職員からは同館のインフラ老朽化を問題視する声が上がり、デ・カール自身も2025年1月の内部文書で「展示スペースの損傷が拡大しており、一部は非常に劣悪な状態にある」と記している。

漏水への対応を余儀なくされたことも一度ならずある。1回は初期ルネサンスの画家チマブーエの作品近くで起きたが、幸い間一髪のところで作品に影響はなかった。しかし別の漏水では、古代エジプト美術関連の所蔵文書が損傷したと報じられている。

こうした事態を受けてルーブル美術館では職員のストライキが繰り返されており、昨年は何日にもわたって美術館の一般公開を中止せざるを得なかった。12月のストでは、美術館の職員約400人(全体の約20%)がストライキに参加。3つの労働組合が、同館の「悪化する一方の労働環境」を非難する声明に署名した。組合によれば、そこには賃金面や人員不足の問題も含まれている。

こうした一連の混乱で、ルーブル美術館がメディアで否定的に取り上げられる機会が増加している。それに輪をかけるように、つい先月には、10年で約1000万ユーロ(約18億円)の損害が発生したチケット詐欺事件が明らかになった。この件では同館の上層部が、これだけ規模が大きい組織がこうした詐欺の被害に遭うのは「避けられないこと」と主張したことが報じられている。

これらの事件で批判が高まる中、ルーブル美術館は2月初め、7億から8億ユーロ(約1300億〜1500億円)規模にもなる大改修計画の国際コンペにおける最終審査を無期延期した。この計画では、常に発生するレオナルド・ダ・ヴィンチモナリザ》前の混雑緩和のため、約3000平方メートルの専用展示室の新設が予定されている。

いくつかの「ルーブル初」を実現したが……

デ・カールはオルセー美術館オランジュリー美術館の館長を経て、2021年にルーブル美術館初の女性館長に就任。その成果の代表的なものとしては、昨年開催されたジャック=ルイ・ダヴィッド回顧展が挙げられる。この展覧会は批評家から絶賛され、ニューヨーク・タイムズのジェイソン・ファラゴは「一世代に一度の展覧会」とまで書いている。また、ルーブルの歴代館長が解決できなかった恒久的な課題、《モナリザ》の混雑問題の解決に向けた措置を講じた点も見逃せない。

デ・カールはまた、20世紀と21世紀の作品が比較的少ないルーブル美術館のコレクションの近代化にも取り組んだ。最近では、ルーブル初の映像作品として、アルジェリア出身でパリを拠点に活動するモハメド・ブルイッサの作品を収蔵した。また、昨年には南アフリカ生まれの画家マルレーネ・デュマスの作品を取得。デュマスはルーブル美術館に作品が収蔵された初の女性現代アーティストとなり、現在、9点の作品が常設展示されている。

しかし、デ・カールの短い在任中、美術史に関心を持つ人にとっては計り知れない重要性を持つルーブル美術館が、他の老朽化した文化施設の多くと同じ問題を抱えているという認識が広まった。デ・カールも2月24日の声明でルーブルは「脆弱」だと表現し、次のように述べている。

「ルーブル美術館を率い、その未来を築くには、共通の目標の下にあらゆる努力とエネルギーを結集することが必要です。しかし現在、この方向性の明確さが欠けています。美術館が掲げる野心的な目標を達成するためのリソースを提供せずに、どうやって変革を成し遂げることができるでしょうか? この状況は変革の成功を妨げるものです。その一方で、ルーブル美術館は現状を受け入れることはできません。このような状況下では、私に委ねられた責任を十分に果たすことはもはや不可能であると考えるに至りました。これが、私が大統領に辞職願を提出した理由です」(翻訳:石井佳子)

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