片山真理が初開催の森アートアワード2026グランプリを受賞──「この世界は、私たち自身の巨大なセルフポートレート」

日本の中堅アーティストを国際舞台へと押し出す「森アートアワード」が初開催され、4人のファイナリストの中からグランプリに片山真理が選出された。

Mari Katayama
初回の森アートアワードのグランプリを受賞した片山真理。Photo by H

日本の現代アーティストが次のグローバルなステージへと飛躍することを目的に創設された「森アートアワード」の第1回(2026年)グランプリに、アーティストの片山真理が選出された。片山には賞金1000万円が授与されるほか、森美術館との共催による記念展示の機会が提供される。また、ファイナリストの小泉明郎、目[mé] 山城知佳子には、それぞれ100万円が授与される。

森アートアワードは、2025年5月に森美術館名誉理事長、故・森佳子が設立した一般財団法人森現代芸術財団(Mori Contemporary Art Foundation/MoriCAF)が運営する隔年開催の表彰制度だ。財団設立の背景には、森の「⽇本には優れた才能のあるアーティストが数多くいるにもかかわらず、彼らが世界に紹介される機会がまだまだ限られている」という思いがあった。財団はアワードのほかに、海外在住のキュレーターを対象にしたレジデンスプログラムも始動している。

アワードは、若手よりも国内外で一定の評価を確立した中堅アーティストを対象に、過去2年間に発表された展覧会や作品をもとに日本国内の推薦委員が候補者を選出。その後、国際選考委員会による書類審査を経て4名のファイナリストが決定され、最終審査(プレゼンテーション等)によってグランプリが選ばれる。制作助成にとどまらず、国際的な評価プロセスと展示機会を一体化させることで、日本の作家を国際的な制度やネットワークへと接続することが狙いだ。

初回となる2026年は、片岡真実(森美術館 館長)、ラーナ・デヴェンポート(南オーストラリア州立美術館元館長)、グレン・ラウリィ(ニューヨーク近代美術館館長)、フランシス・モリス(テート・モダン元館長)、スハーニャ・ラフェル(Ⅿ+館長)、ユージン・タン(ナショナル・ギャラリー・シンガポール館長)の6人が国際選考委員を務めた(選考委員長は片岡)。

個々の関心領域をより広い世界へと接続する力を評価

初代グランプリに選ばれた片山真理は、自らの身体を模した手縫いのオブジェを用いたセルフポートレートを通じて、ジェンダーや身体、ケア、アイデンティティといったテーマを、個人的経験と社会的文脈の双方から問い直す実践を行ってきた。また、義足用の特注ハイヒールを制作・装着して作品制作や講演活動などをする取り組み「ハイヒール・プロジェクト」(2011、2022〜)を通じて、「選択」や「権利」に関する社会課題についても発信してきた。

近年は国内だけでなく国際的広がりも顕著で、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ(2019)やバンコク・アート・ビエンナーレ(2022)などの芸術祭から、フランス・ヨーロッパ写真美術館(2021)、フォト・アーセナル・ウィーン(2023)、テート・モダン(2023-2025)、ヴィクトリア&アルバート博物館(2025)などの芸術機関での展示を通じて、国際的な評価を着実に積み重ねてきた。また、2025年には作品集『Synthesis』刊行を記念したトークイベントをニューヨークやロンドン、パリで行っている。

2月26日に行われた授賞式で、片岡は、「扱っているテーマが個人的な問いであれ地球規模のものであれ、あるいはテクノロジーや地政学に根ざしたものであれ、個々の関心領域を超えてより広い世界へと接続する力があるかという点を重視しました」と選考基準を説明。その上で、グランプリに片山を選出した理由をこう述べた。

「片山さんは、フィルムを用いた写真や刺繍、縫製といった手仕事を通じて、自身の身体の境界を拡張する可能性を、力強く、かつポジティブに社会へ提示しています。審査対象となった過去2年の作品の中でも、とりわけ近作《tree of life》では、これまでセルフポートレートを中心に展開してきた表現からさらに発展し、身体が自然の空間へと溶け込んでいくような拡張が見られました。そこに、さらなる飛躍の可能性を感じました」

加えて、すでに国際的に評価されているさまざまな作家たちとの多角的な比較が可能なその実践は、国際的な文脈を形成していくうえでも重要であると語り、「彼女にしかできない力強いイメージメイキングと強固なコンセプチュアルな枠組みの融合によって、文化的・社会的な境界を越えていくことが期待される」と評価した。

一方、片山は、受賞の喜びを「歩みを止めなかった自分に、心から感謝しています。今も静かに、見えないところで前に進み続けている人たちに、努力は報われるのだと伝えたい。私にとってこのグランプリは賞そのものではなく、そのメッセージを届ける機会です」と表現し、こう続けた。

「私が作る手縫いのオブジェは、ときに音を響かせます。それは人の存在のエコーであり、どんな存在も、決して本当に消えることはないのだと教えてくれます。(中略)私たちは決してひとりではありません。私たちは、たくさんいるのです。世界そのものがリフレクションの舞台であり、この世界は、私たち自身の巨大なセルフポートレートです」

この言葉からも、片山真理の受賞は個人の達成にとどまらず、日本の現代美術を国際的な制度的議論へと接続する新たな試みの出発点といえるだろう。今後予定される記念展示と、その後のさらなる活動の広がりに期待が集まる。

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