女性アーティストの国際展「Women to Watch」日本展が開幕。米田知子、宮永愛子ら5人が参加【国際女性デー】
3月8日の国際女性デーを前に、ワシントンD.C.のNational Museum of Women in the Arts(NMWA/米国女性美術館)が展開する国際プログラム「Women to Watch」の公式連動展覧会が東京・表参道でスタートした。本展には、米田知子、宮永愛子ら5人の女性アーティストが参加。「本」をテーマにした多様な表現が紹介されている。

ワシントンD.C.のNational Museum of Women in the Arts(NMWA/米国女性美術館)は、女性アーティストの可視化とジェンダー平等の推進を目的に1987年に開館した美術館。現在は、約1000人以上の作家による7000点以上の作品を所蔵している。同館の活動を支える国際委員会はフランス、カナダ、ペルーなど8カ国に広がり、日本委員会もその一員として2021年に発足した。
「Women to Watch」は、NMWAが2008年から3年に一度、各国の女性アーティストを世界に向けて紹介する国際展覧会シリーズだ。2027年に予定されている第8回のテーマは「A Book Arts Revolution」。紙や印刷の革新的な活用や彫刻的アプローチなど、多様な手法を通して「本」と「アート」の関係を再考する。
この展覧会シリーズに連携する企画展が、現在、東京・表参道のAND COLLECTION Contemporary Artで一般社団法人NMWA日本委員会により開催されている(3月29日まで)。日本委員会による「Women to Watch」への参加は今回で2度目。国立新美術館学芸課長の神谷幸江が本展のキュレーターを務め、NMWA展のテーマを踏襲し、入江早耶、風間サチコ、宮永愛子、村上華子、米田知子の5人を紹介する。4月初旬にはこの中から日本代表として1人が選出され、2027年4月11日から8月15日までNMWAで開催される「Women to Watch」展に参加する。

なぜ「女性だけの展覧会」が今も貴重なのか
3月4日に行われたプレス内覧会で神谷は、個人的な出来事や公の歴史が記されてきた「本」は、人間に知識の密度の高い体験を与える媒体だと語り、今回選出された5人のアーティストは、その本をさまざまな解釈で作品に取り入れていると説明した。また神谷は同展について、「分断が広がる今の世界では、他者に目を向ける機会が少なくなっている。展覧会を通して、他者の視点、特に女性の立場から見える社会を知るきっかけになってほしい」と述べた。
続いて行われた出展作家を交えたトークでは、現在はパリを拠点に活動する村上華子が、「なぜ今も『女性だけの展覧会』が社会的に貴重なものとされているのでしょうか」と問いかけ、次のように続けた。
「私は日本の美術大学で学びましたが、学生の8割が女性であるのに対して、教授陣の8割は男性。女性の先生に教わることはありませんでした。卒業しても女性のアーティストは少なく、人生のロールモデルがいませんでした。ですが、パリではアート界にいまだに残る男性優位な状況を是正しようという動きが少しずつ出てきています。今回の展覧会を通して、この状況を変えていこうとする人々や、それを応援する人々の存在を知り、さらに励まされました」
また1990年代から活動を続ける米田知子は、「カメラマンのジェンダーバランスは男性に偏っており、過去に女性に対するハラスメントを目にしたこともありますし、私自身受けたこともあります」と語り、NMWAの活動を通じて女性が作品制作しやすい環境が広がっていくことへの期待を述べた。
以下、5人の出品作品を紹介する。
風間サチコ

現代社会の出来事に対する疑問を徹底的にリサーチし、それをモチーフに木版画作品を制作している風間は、2022年のリボーン・アートフェスティバル参加時に取材した宮城県石巻市と松島を題材とする版画2点を出品した。版画作品だが、作品の半分は版木そのものとなっており、近づくとその構造が見えてくる。風間は100年前の松島の絵葉書を入手し、現地を訪れた。しかし東日本大震災を経た松島では、コンクリートの高い防波堤によって景色が遮られていた。第三者の視点では防波堤の存在は残念に思えるが、そこに暮らす人々にとっては命を守る大切なものでもある。その新たな風景を山水画として捉え直そうと試みたという。
村上華子

村上は、現代の生活に欠かせない写真というメディアはどこから来たのかという問いをテーマにリサーチを重ね、3点の作品を制作した。壁面には古い印画紙を用いた平面作品が展示され、会場にはダゲレオタイプの発案者ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールの著書がめくられる音がかすかに流れる。床に置かれた作品は、写真の撮影と現像を世界で初めて成功したニセフォール・ニエプスが、自らの発明の内容を記した『ヘリオグラフィー覚書』の表紙と裏表紙をプリントしたもの。プリントは来場者が自由に持ち帰ることができる。ニエプスは特許を取得せず、写真の技術を公開した。この作品は、「写真」というアイデアが人々の手によって広く伝播していったことを示している。
宮永愛子

ガラスやナフタリンなど可塑性のある素材を使い、移ろいゆく世界の痕跡や時間の流れを可視化してきた宮永は、長年の潮汐記録を結晶のようにガラスの本に焼き付けた《Strata》を展示した。至近距離で見るとガラスの気泡の中に数字が焼き込まれているのが確認できるが、数字に焦点を合わせると気泡は見えず、逆に気泡を見ようとすると数字は見えなくなる。この自身の視覚の曖昧さに気づいたとき、人は自分自身と向き合うことになると宮永は話す。
米田知子

米田は写真を通して被写体に宿る歴史の痕跡を捉え、その背後にある記憶の層に接近してきた。今回は代表作である、20世紀の知識人の眼鏡を撮影したシリーズから、藤田嗣治、マハトマ・ガンジー、ジャン=ポール・サルトルの3点を展示している。それぞれの眼鏡のレンズ越しに写るテキストは、彼らの人生を読み解く手がかりとなるもの。タイトルにその内容が記されているので確認してみてほしい。
入江早耶

印刷された図像を消しゴムで消し、その際に生まれる消しカスから図像の二次元イメージを立体として再構成するというユニークな手法で制作を行う入江。そこには、現実をもう一度捉え直し、作り直すという創造が持ち得る力が示唆されている。今回はアメリカ・インディアナ州の野鳥図鑑を素材に使用。鳥が消されたページと、消したカスから立体的に再生された鳥が、1つの額縁の中に収められている。
A Book Arts Revolution
会期:3月4日(水)〜3月29日(日)
場所:AND COLLECTION Contemporary Art(東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ本館 B2F)
時間:11:00〜20:00
休館日:なし