古代楽器はどんな響き? MITとボストン美術館が失われた音の再現に挑む

博物館に展示された古代楽器の音は、ほとんど知られていない。MITボストン美術館の研究チームはCTスキャンと音響解析を用い、演奏可能な複製を制作して古代の音の再現に挑んでいる。

複製されたホイッスルを演奏する研究者たち。写真左からネイト・スティール、マーク・ラウ、ジャレッド・カッツ、ベンジャミン・サバティーニ、ジン・ウー・リー。Photo: Hanley Valentin/MIT SHASS
複製されたホイッスルを演奏する研究者たち。写真左からネイト・スティール、マーク・ラウ、ジャレッド・カッツ、ベンジャミン・サバティーニ、ジン・ウー・リー。Photo: Hanley Valentin/MIT SHASS

古代の楽器を博物館などで目にすることはあっても、実際にどんな音が鳴るのか耳にする機会は多くない。しかし、そんな状況はもうすぐ改善されるだろう。マサチューセッツ工科大学(MIT)とボストン美術館が協働し、聴くことのできない楽器を実際に鳴らすことを目指す研究プロジェクトを進めているという。

このプロジェクトは、MITの上級研究員ベンジャミン・サバティーニが、古代楽器の形状と音を正確に再現する研究に関心を持ったことから始まったという。サバティーニはその構想を同校教授エラン・エゴジーに相談し、ボストン美術館に収蔵されている古代楽器の再現を目指す共同研究を提案した。そこで紹介されたのが、音楽テクノロジーと電気工学を専門とするマーク・ラウだった。さらに二人は、ボストン美術館の楽器部門キュレーター、ジャレッド・カッツに協力を依頼し、三者による研究プロジェクトが始動した。

「一番もどかしいのは、展示空間に音声サンプルがないことが多い点です。聴いてみたいし、実際に演奏もしてみたい」とラウは語る。カッツも古代の音楽文化を専門としており、3Dスキャンを用いて演奏可能な複製品を制作する技術を研究・開発してきた。さらに、CTスキャナーを使って古代楽器の内部構造を詳しく調べたいという思いを以前から抱いていたという。

カッツが所属するボストン美術館には、1450点を超える楽器のコレクションがあり、最古のものは紀元前約1550年までさかのぼる。研究チームは現在、ボストン美術館のコレクションから約30点の楽器をスキャンしており、プロジェクト期間中には将来の研究のため、少なくとも100点を記録することを目標としている。得られたスキャンデータは、楽器の形状と音の特徴の関係を分析しながら、複製の制作やソフトウェア上での音響再現に活用される。

スキャンされたパラカス・ホイッスル。Photo: Courtesy of MIT SHASS
古代に作られたパラカス・ホイッスル。Photo: Courtesy of MIT SHASS
Photo: Courtesy of MIT SHASS

研究チームはCTスキャナーを用い、楽器の内部と外部の寸法を詳細に計測している。さらに非破壊振動検査や音響測定を行い、その結果をコンピューター上のシミュレーションと組み合わせることで、音をデジタル上で忠実に再現したという。

具体的には、音や圧力を電気信号に変換するトランスデューサーを内蔵した小型のインパクトハンマーで楽器に一定の力を加え、その振動をレーザー・ドップラー振動計で測定する。こうして得られたデータをもとに、3Dプリントした模型から石膏型を作り、泥状の原料を流し込んで実際に演奏できる複製品を制作した。紀元前600〜175年ごろのペルーの土器遺物「パラカス・ホイッスル」の複製品は、昨年11月のイベントで披露されている。

研究内容の解説動画。動画終盤には復元された笛の実演もある。

このプロジェクトは単なる音響研究にとどまらない。「楽器の素材を通じて、またその音を通じて、製作者のことを理解したい」とサバティーニが語るように、これは古代文化の探求でもある。MITの学部生もこのプロジェクトに参加しており、材料科学・工学専攻のヴィクトリア・ファムは、500〜900年ごろにベラクルスで作られた、多球体構造の笛(*1)の有限要素モデリング(コンピューター上で構造や振動を数値解析する手法)を行っている。彼女の研究結果は今後、学会発表や論文として公開される予定だ。

*1 オカリナが複数つながったような笛

ボストン美術館のカッツは、演奏可能な複製品を通じたアウトリーチや地域との関わりにも可能性を見出しており、研究プロジェクトの目標にも掲げられている。また、古代楽器は視覚的にも美しいが、本来は演奏され、音を奏でるために作られたものだと彼は語り、こう続ける。

「私たちは、古代に作られた楽器を保存しながら、本来意図されていた形でその音を聴き、体験できる方法を見つけたいと考えています。科学と芸術が融合することで楽器への新たな理解が生まれ、長いあいだ演奏されてこなかった遺物をよみがえらせることができます」

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