荒川ナッシュ医、ヴェネチア・ビエンナーレ日本館の構想を語る──テーマは「赤ちゃんの声が聞こえる場所」
第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(5月9日〜11月22日)の日本館代表アーティスト、荒川ナッシュ医が3月21日に森美術館で開催された「アージェント・トーク052:荒川ナッシュ医―どんな日本館になるの?」に登壇し、展示構想について語った。

5月9日から11月22日まで開催される第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館アーティストに選ばれた荒川ナッシュ医が、3月21日に森美術館で開催された「アージェント・トーク052:荒川ナッシュ医―どんな日本館になるの?」で展示について語った。
展示タイトルは「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」。2024年に代理出産を経て双子をもうけた荒川ナッシュの育児経験に基づいた、「赤ちゃんの声が聞こえる場所」をテーマとする体験型インスタレーション作品だ。タイトルは、庭を象徴する「草」と時間や心に関わる「月」に由来し、ニューヨークでの学生時代に刺激を受けた「草月アートセンター」へのオマージュでもあるという。荒川ナッシュは、こう説明する。
「赤ちゃんは何も定まっていない状態です。国家などの枠組みにとらわれず、どんどん移動していきます。その動きを体現したい。赤ちゃんを介して、アイデンティティや制度をはみ出す自由さ、大人の責任、自身の過去について省察する展示になると思います」
本作を構想するにあたり、荒川ナッシュは、来年で竣工70周年を迎える建築家・吉阪隆正設計の日本館の「回遊性」に着目したという。
会場の内外には、ミラーレンズのサングラスをかけ、色とりどりのベビー服を着た、14種類の肌の色を持つ赤ちゃん人形約200体が配置される。人形は生後3〜4カ月の乳児と同程度の重さの約5キロで、来館者のうち希望者は1階ピロティエリアで人形を預かり、抱きかかえながら会場を巡る。ミラーレンズは、「来館者が、映し出された自身の顔を見ながら歩くため」の装置だ。
館内には荒川ナッシュの双子の声を用いたサウンドアートが響き、1995年に日本館代表として参加した崔在銀(チェ・ジェウン)の映像作品や、イサム・ノグチの作品、さらにそれに触発された子どもたちの作品も展示されることで、時代を超えた共鳴が生まれる。
展示の最後では、赤ちゃん人形を抱えた参加者に人形のおむつ替えが課される。おむつにはQRコードが印刷されており、これを読み取ると、占星術師でライターの石井ゆかりが執筆した「おむつの詩」が贈られる仕組みだ。詩は、1989年11月20日に国連総会で採択された「子どもの権利条約」など、荒川ナッシュが我が子に伝えたい57の日付にちなんで制作されている。なお、このアイデアはジャルディーニ会場におむつ交換スペースがないことから生まれたといい、期間中は、リアルなおむつ交換場所としても機能させるという。
さらに、「移動」や「制度をはみ出す」ことを象徴するかのように、隣接する韓国館との史上初の公式連携として、互いの作品が行き来する仕掛けやイベントの共同開催を予定している。
開催に先立ち、荒川ナッシュが主催するクラウドファンディングが4月12日まで実施されている。支援金は、作家・映像作家の中村佑子と社会学者の佐伯英子によるコラボレーション作品として、ヴェネチアでの展示やパフォーマンスの記録・公開を目的とした新作映像の制作に充てられる。
なお本展は、香港のCHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)館長兼チーフ・キュレーターの高橋瑞木と、シンガポール国立美術館シニア・キュレーター兼キュレトリアル&コレクション部門部長の堀川理沙が共同キュレーターを務める。
第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」
会期:5月9日(土)〜11月22日(日)
会場:日本館(ビエンナーレ会場 ジャルディーニ地区内)



