イギリス田園地帯に佇むヘンリー・ムーアのギャラリーが再オープン──教育機能も拡充
20世紀を代表する彫刻家、ヘンリー・ムーアが40年以上にわたって暮らし、制作の拠点としたのが「ヘンリー・ムーア スタジオズ&ガーデンズ」だ。イギリスののどかな田園風景に囲まれたこの施設で最大の展示ギャラリーが、このほど大規模な改修を経て再オープンする。

パブリックアートの巨匠として名高いイギリス人彫刻家ヘンリー・ムーア(1898-1986)は、具象と抽象を融合させた独自の有機的でなめらかな作品で知られる。そのブロンズや石材の彫刻は日本でも人気が高く、世界有数のコレクションを誇る箱根の彫刻の森美術館をはじめ、各地の美術館や街中などに設置されている。
第2次世界大戦中の1940年、ムーアと妻のイリーナはドイツ軍による空襲を逃れるため、ロンドンからハートフォードシャーの田園地帯にあるペリー・グリーンに居を移した。当初は一時的な疎開のつもりだったが、結局はそこが終の住処かつ制作の拠点となった。
こぢんまりとした邸宅や屋外彫刻が置かれた庭園、そしてムーアがスタジオとして使っていた複数の建物は現在、1977年に設立されたヘンリー・ムーア財団の運営する「ヘンリー・ムーア スタジオズ&ガーデンズ」として公開されている。ホグランズ(Hoglands)と名付けられたムーアの邸宅は生前のままの状態で残され、蔵書のほか、アフリカの彫像や工芸品の数々からイッカクの角、ピカソの版画作品までが並ぶ。
巨大な彫刻を背景に羊が牧草を食む牧歌的な風景の中には、ムーアがさまざまな目的で使用したスタジオが点在する。そのうちシープ・フィールド・バーンと呼ばれる納屋は1999年にギャラリースペースへと改装されたが、敷地内で最も大きいこの建物は、マットブラックの塗装が施された外壁と相まって重厚な存在感を放っていた。
それを新たに改修したのが、ロンドンを拠点とする建築設計事務所DSDHAだ。英ガーディアン紙が伝えるところによると、同事務所のディレクター、デイヴィッド・ヒルズはこのプロジェクトについて次のように話している。
「改修にあたっての重要なポイントは、ムーアがここを使っていた頃の雰囲気を再現しつつ、現代の来場者が抱く期待を考慮して、それらを両立させることでした」
DSDHAによる改修では、従来の建物をそれより大きなシェル(外殻)ですっぽり覆う方法が用いられ、北側と東側が増床された。片側の屋根が以前より低い位置まで伸ばされたことで、建物の面積は拡大したにもかかわらずボリューム感が抑えられ、景観に溶け込むだけでなく、単調な印象が和らげられている。
それに加え、リニューアル後はエネルギー効率が飛躍的に高まった。羊毛の断熱材、トリプルガラスの窓、気密性の高い外壁と屋根一体型ソーラーパネルや地中熱ヒートポンプなどの利用により、建物の規模が約2倍になったのに対し、エネルギー消費量は半分で済むという。
改修されたギャラリーの一部は、ムーアの生涯と作品の世界をたどる常設展示スペースとして使われる。また、ムーアの特定の側面を深く掘り下げる企画展が開催されるほか、彼が情熱を注いだ美術教育のための新しいスペースとしても活用される予定だ。
このシープ・フィールド・バーンの再オープンを記念して、「The Shelter Drawings 1940-1941(シェルター・ドローイングス 1940-1941)が4月1日から10月25日まで開催される。「シェルター・ドローイングス」は、空襲を避けるために地下鉄構内の防空壕に逃げてきたロンドン市民を描いた貴重なものだ。