重力と色彩による即興パズル──セル・セルパスが廃棄物から生む彫刻
彫刻や絵画など多彩なメディアを横断するアメリカ人アーティスト、セル・セルパス。路上の廃棄物を収集し、釘や接着剤を使わず重力のみで組み上げる特異な立体作品で知られる彼女が、ラフィク・グレイスとの二人展のために来日した。コンセプチュアルな解釈をすり抜ける、野生的な制作プロセスと独自の美学とは?

彫刻にペインティング、パフォーマンスから詩まで、さまざまなメディアを横断しながら独自の表現を追求するアメリカ人アーティスト、セル・セルパス。エジプト出身のアーティスト、ラフィク・グレイスとの二人展「clockwork」が、タカ・イシイギャラリー京橋で4月25日まで開催中だ。
多様な形態の作品を制作するセルパスだが、特に有名なのは彫刻だろう。サイトスペシフィックな作品を制作することも多い彼女は、これまでも展覧会の会場となったさまざまな都市で、路上に廃棄された日用品や電化製品を収集して立体作品をつくりあげてきた。「clockwork」でも神奈川県川崎市の高架下など日本で収集された物品が、彼女の手によって新たな形へと再構成されている。
路上で偶然出会う対象を独自の美学でパズルのように組み合わせる彼女の創作は、どのように生み出されているのか。来日したセルパスから返ってきた返答は、コンセプチュアルな意味づけをすり抜ける、あまりにフィジカルで野生的な「ハント」への衝動だった。
──今回写真作品を展示しているラフィク・グレイスとのコラボレーションは2回目ですよね。
ラフィクとはきょうだいみたいな関係で、すごく気が合うし、インスピレーションも与えてくれるんです。2023年にニューヨークのスイス・インスティテュートで展覧会「Hall」を開催したときにも、作品のいくつかで彼とコラボレーションしました。私がホラー映画『リング』に登場する貞子のような髪型をしてパリの森の中を駆け回ってゴミを集めたりする、滅茶苦茶なファッション誌のような写真を展示したんです。立体作品を一切置かなかったので、彫刻を期待して来た観客からは不評でしたね(笑)。
──今回の展覧会のインスピレーションについて教えてください。
発端は日本の街で見かけた作業用トラックでした。ふたりで街を歩いていたとき、木製パネルとロープで大量のゴミを積む様子に惹かれたんです。当初はギャラリーをパネルで囲むアイデアもありましたが、全体とのバランスを鑑みて最終的にその案はなくなりました。とはいえ、彼とは常に共鳴しあいながら空間を作っています。
ハントの衝動と彫刻の原点
──そもそも、拾得物や不用品を使った彫刻作品をつくるようになったきっかけは何だったのでしょうか。
私が最初に夢中になって制作していたのは、布を使った作品でした。ニューヨークでファッション関係の仕事をしていた頃で、女性史博物館やファッションブランドのVAQUERA(ヴァケラ)のような場所で働く友人やスタイリストから不要になった服をもらって使っていたんです。破れたTシャツやバンダナ、ファーの切れ端などを、道で拾ってきた椅子に巻き付けていくといったように。私にとっては素材となる服が興味の対象であり、拾得物はあくまでそれを支える裏方だったんです。
──そこから、なぜ廃棄物ばかり使うようになったのでしょうか?
マイアミで開催される予定だったペインティングの展示内容がすごく酷かったから、というのが正直な答えになるかもしれません(笑)。2017年のアート・バーゼル・マイアミの期間中に初めての個展を開催することになった時、布作品の素材となる服を使い果たしてしまったんですよね。そこで「よし、とりあえず絵を描いてみよう」と思い立ち、1週間のうちに6枚の絵を描き上げたのですが、友人からは「初めての個展でこれは出せない」とゾッとされてしまって。
──お金を出して材料を買うことはしなかったのですか。
その友人はリサイクルショップで材料を買ってこいと言いましたが、私にとって作品作りはそういうプロセスではないんです。友人たちの善意と私のちょっとした収集癖との関係性の上に成り立っていたものだから。
ちょうどその時、近所の人が家から追い出されたと耳にして、芝生の上に出されていた家財道具を見に行ったんです。そのすべてを気に入りました。マイアミの湿気で少し湿っていて、カラーパレットも揃っていて。それを全部ギャラリーに持ち込んで、エナジードリンクを何本も飲みながら、一晩中拾ったオブジェをねじったり曲げたりして組み合わせる彫刻の展覧会を初めて作り上げました。その手法にすっかり夢中になったんです。ちなみにペインティングのほうもその後1年で完売したので、そう悪い作品でもなかったはずなんですけどね!
──なぜ廃棄物なのでしょうか?何かメッセージやこだわりがあるのでしょうか?
単に管理業務が面倒だからです(笑)。お金を出して材料を買うと、見積もりや経費精算などの事務作業が発生しますよね。考えるだけでぞっとします。
それに、ハンティングのスリルも好きなんです。新しい場所に来ると、みんな、どこにゴミを捨てるんだろうと考えます。スイスでは粗大ゴミの回収スケジュールを利用して一晩で集めきりましたし、日本では川崎市に何度か足を運び、橋のある場所に行けばいいんだと気づきました。人がどうやって物を捨てるかに関しては、私はエキスパートなので。

重力で組み上げるパズル
──素材を探すとき、頭の中に何かコンセプチュアルなアイデアや、素材の背後にあるストーリーを読み取るような意識はあるのでしょうか。
完全に視覚的な判断で、人類学的なリサーチなどは一切しません。重要なのは、パズルのピースのように穴や隙間にガチッと入り込むかどうか。私の作品は釘も接着剤も使わず、すべて重力だけで支え合っているんです。
──視覚的な基準として、特にこだわっている部分はありますか。
カラーパレット(色合い)がすごく重要です。今回の展示にあるような緑色や、車のパーツを使った彫刻など、自分が作るすべての彫刻にポップな色が入っていないと、なんだか変な感じがして。これは完全に私の個人的な嗜好であり、美学的な趣味の問題です。シック(chic)じゃなきゃダメなんですよね。
なので、パーツを集めるときは、まさに絵のパレットを作っているような感覚になります。それはフォルムのパレットであり、見た目のパレットでもあります。形状として完璧に組み合わさる美しいものを70個集めたとしても、その中で色がついているものが2つしかないならば、私は完成させません。そんなものは作りたくないから。

理論ではなくプロセスに魅せられている
──アートの世界に入ったきっかけは何ですか。強いメッセージがあって、それを伝えるためのメディアがたまたまアートだったのでしょうか。
私は色々なことに才能を発揮する方法を学んできましたが、最初から「物作り」にはすごく自信があったんです。できるだけたくさん作りたいと思っています。素晴らしい運動にもなるし、実践として本当に満たされるからです。私の制作は身体的で、キネティック(動的)なものです。本当はダンスを習ったり、楽器を学んだりすべきだったのかもしれませんが、これが私にとってすごく落ち着く、大好きな行為なんです。
なので、作品に込めた強いメッセージ性については、そこまで多くはありません。シナリオや物語を考えるのは好きですし、最近はそういう要素を増やすようにもしています。でも基本的には、理論ではなく形式的なプロセスから生まれる自分自身の作品を展示する機会だと思っています。
──彫刻だけでなく、本展にあるようなペインティングなど、複数のメディアを横断して制作されていますね。
何をしてもすぐ飽きちゃうんですよね。もともとは都市計画を学んでいたのですが飽きてしまい、コロンビア大学で視覚芸術に転部したんです。コラージュやパフォーマンス、彫刻などに日替わりで取り組まなければならなくなり、パフォーマンスに組み込んだドローイングを絵画の課題として出し、さらにそれを彫刻の課題として提出したりして作業量を半分に減らしていました(笑)。
でもそれは怠けたいというよりも、一度にたくさんのことを行い、自分にできることすべてをページに書き出して捉えたかったから。私の作品の多くは今でも即興的なプロセスから生まれています。
──制作のプロセスにおいて、最も興奮するのはどの瞬間ですか。
作品を制作している時間がすべてですね。もちろん、捨てられたソファを汗と泥まみれになりながら運ぶときは、嫌になることもあります。でも一歩下がって見て「これ最高じゃない?」「手伝ってくれたみんな、どう思う?」と聞く瞬間がたまらないんです。展示されたあとのことは、あまり気にしていません。
──次に取り組むプロジェクトはどのように決めているのでしょうか。また、アーティストとして具体的な目標や目指している到達点はありますか。
過去にやったことの繰り返しよりも、自分の表現を広げてくれるような、挑戦的なプロジェクトを選ぶようにしています。つまり、現場で制作する機会だったり、新しい力学やプロセスを開拓してくれるコラボレーションを重視することが多いですね。あとはそれぞれの環境の中で、素材やメディアの幅をどこまで押し広げられるかも考えます。もちろん、何ができるかという点において、予算もとても重要な要素になりますが。

セル・セルパス&ラフィク・グレイス「clockwork」
会期:2026年3月21日(土)~4月25日(土)
場所:タカ・イシイギャラリー 京橋(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 3F)
https://www.takaishiigallery.com/jp/archives/37427/







