フランス下院、略奪美術品の返還法案を可決──全会一致も「植民地主義」不在に批判

フランス下院は、略奪美術品の返還を促進する法案を可決した。一方で「植民地主義」の文言を盛り込まなかったことをめぐり、歴史認識を巡る議論が続いている。

2022年、ベナンの首都コトヌーの大統領府で開催された、返還された略奪文化財と現代アートの展覧会。Photo: Pius Utomi Ekpei/AFP via Getty Images
2022年、ベナンの首都コトヌーの大統領府で開催された、返還された略奪文化財と現代アートの展覧会。Photo: Pius Utomi Ekpei/AFP via Getty Images

4月14日、フランス下院は、植民地時代に略奪された美術品の返還を促進する法案を全会一致で可決した。この法案は1月に上院でも可決されており、今回の採決を経て夏までに成立する見通しだ。これにより、エマニュエル・マクロン大統領が約10年前に掲げた「アフリカの文化遺産を同大陸に返還する」という公約が、実現に近づく。

議員たちは、フランスの植民地支配という過去と向き合い、19〜20世紀にかけて不当かつ暴力的に略奪された文化財を返還する数十年来の道のりにおいて、この法案が可決されたことは前進であるという点において一致した。しかし、与野党双方の代表者がこの法案を「不完全」だと指摘し、激しい議論が交わされるなど、この問題が依然として政治的な火種を抱え続けている現実もまた浮き彫りとなった。

返還促進の前進と、なお残る政治的対立

法案可決にあたって中心的な論争となっているのは、植民地時代に略奪された美術品の返還を目的としているにもかかわらず、法案の文面には「植民地主義」という言葉が含まれていない点だ。代わりに、1815〜1972年の間に略奪された美術品について、正式な要求を行った国に対しては、簡略化された返還手続きが適用されると定められている。この表現は、極右勢力に対する配慮によるものだとみられている。実際、極右議員のフローレンス・ジュベールが議会で語ったように、彼らは当時のフランスの役割に対する「後悔」や「自国を罪に問う言説」に強く反対する立場を示している。彼女はまた、この法案が美術品返還要求の「パンドラの箱」を開けることになり、貴重な所蔵品がフランス国民から奪われる可能性があるという批判にも賛同している。

議論は白熱し、「エッフェル塔がアルジェリアの鉄で作られたという主張もある。いっそエッフェル塔も返還してはどうか」と発言する極右議員もいた。これに対し、左派議員ロドリゴ・アレナスは次のように応じた。

「フランスがニューヨーク港から自由の女神像の返還を求めていないのと同じで、エッフェル塔の返還を求めている国などどこにもありません」

和解を掲げる「謝罪なき返還」

この法案は、フランスの過去に対する正式な謝罪を示すものではない。ただし、過去の行為を修復し、現在も不信感を抱く旧植民地との関係改善の意思を示す狙いがある。

フランスの文化相カトリーヌ・ペガールは、法案の趣旨説明で、「美術品の返還は、和解と協力の精神のもとで、人々の距離を縮めることにつながります」と述べた。

しかし、左派の下院議員ソフィー・タイエ=ポリアンは、法案の文面から「植民地主義」という言葉を省くことは、その効力を弱めるだけでなく、植民地支配を支えてきた人種差別的な論理が残りかねないと繰り返し警告した。タイエ=ポリアンは、「罪悪感」を喚起することが目的なのではなく、文面に植民地主義を明記するのは歴史的厳密さの問題だと主張し、こう述べている。「明記を拒むことは歴史を曖昧にすることであり、それ自体がすでに過去への理解を拒むことにほかなりません」

一方、フランスの美術史家ベネディクト・サヴォワはUS版ARTnewsに、この全会一致の採決は「意識の根本的な変化を示すものであり、その意味で真の歴史的金字塔と言えます」と語った。サヴォワは、マクロン大統領の依頼を受け、フェルヴィン・サールとともに2018年、フランスの美術館に収蔵されるアフリカ文化財に関する報告書を発表している。この報告書は、アフリカの芸術的遺産の90〜95%が大陸外にあると推計し、今回の議会でも法案を支える根拠としてたびたび言及された。

個別対応から包括制度へ

サヴォワとサールが手がけた報告書は、略奪された美術品の返還を後押しし、ベナン、セネガル、コートジボワールへの返還にもつながった。ただし、いずれのケースでも個別の法律が必要だった。この煩雑さを解消するために構想されたのが、3つの包括的な法制度だ。ナチスによる略奪美術品と人間の遺骸を対象とする最初の2法は2023年に成立したが、3つ目の法案はより大きな論争を呼んだ。フランスの植民地支配がもたらした被害を、法律の中でどこまで明確に認めるかをめぐって議論が紛糾し、審議は遅れていた。

もっとも、左派の有力議員のなかにも、植民地などの歴史背景には踏み込まずに法整備を優先すべきだとする意見もある。対象となる物品が盗まれたものであり、返還の必要性をどう判断するかという実務的な論点に議論を集中させるべきだという考えだ。

提出された法案によれば、来歴調査は2つの委員会によって行われるという。調査結果に基づいて、他国から返還要求があった美術品の扱いを判断し、最終的には政府が承認する仕組みだ。一方は科学分野の専門家と要請国の代表者、もう一方は美術関係者、政府担当者、立法関係者で構成される。

法案作成に携わった左派の上院議員、ピエール・ウズリアスは、「法律に『植民地主義』という言葉を盛り込むことに反対しています。なぜなら、歴史家として、歴史を記述し、植民地主義に関する公式見解を定義するのは議会の役割ではないと考えるからです」と語る。彼はさらに、そうした文言が組み込まれることで、法の適用範囲が狭まってしまう懸念もあると付け加えた。サヴォワも、この最後の見解に同意し、こう語っている。

「表現の自由を妨げるものは何であれ問題ですが、議会での議論において植民地主義という言葉がこの法律に関連して使われているのを私たちは目にしていますから、これが何を意味しているのかは容易に理解できます。おそらく、正式な植民地ではなかった国々を排除せずに、門戸を開くという意図があったのだと思います。この法律がすべてを解決するわけではなく、決して完璧なものではありません。しかし、安定した枠組みが構築されることで、今後の着実な前進につながるはずです」

(翻訳:編集部)

from ARTnews

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