トレイシー・エミン、「見えない障がい」への配慮呼びかけ──地下鉄アナウンスで席譲り促す
イギリスを代表する現代美術家トレイシー・エミンが、ロンドン交通局(TfL)の「優先席週間」に参加。自身のがん闘病経験を踏まえ、外見からは分からない障がいや健康状態への配慮を呼びかける駅アナウンスを担当した。

現在、ロンドンのテート・モダンで大規模回顧展「Tracey Emin: A Second Life」を開催中のトレイシー・エミンが、ロンドン交通局(TfL)で5月11日から17日まで開催されている「Priority Seating Week(優先席週間)」にあわせ、駅構内アナウンスを担当した。このアナウンスは、公共交通機関において外見からは分からない障がいや健康状態を抱える人々への配慮を呼びかけるもので、バンク、キャナリー・ワーフ、リバプール・ストリートをはじめとするロンドン中心部の地下鉄10駅と複数のバスターミナルで、期間中に放送される。
今年で8回目となるTfLの啓発週間は、ロンドン市民の13%以上が自身に障がいがあると認識していることを背景に実施されている。
エミン自身も2020年に膀胱がんと診断され、膀胱摘出後に腹部に人工肛門・人工膀胱(ストーマ)を設ける手術を受けた。現在もストーマ袋を使用して生活している。
TfLの声明で、エミンは自身の経験を踏まえて次のように語った。
「がんを経験し、ストーマを持ったことで、健康状態や障がいが、電車に立って乗るような場面にどれほど大きな影響を与えるかを身をもって知りました。誰もが健康上の問題や障がいを抱える可能性があります。そして、その多くは外見からは分かりません。そのため、本当に助けになるはずの『席を譲ってもらうこと』さえ見過ごされてしまうことがあります。ロンドンを移動する際には、もし自分に必要がなければ、ぜひ席を譲ってほしい。あなたの行動が、誰かの一日を大きく変えるかもしれません」
またTfLのカスタマー・ディレクター、エマ・ストレインは、今回のエミン起用について次のように述べている。
「ロンドン市民は親切で思いやりがあり、他者のために席を譲ることも少なくありません。しかし、移動中にもっと周囲へ目を向けることはできるはずです。障がいや健康状態の悪化は誰にでも起こりうるもので、その影響も人それぞれ異なります。そして多くの場合、外見からは分かりません。トレイシー・エミンの作品は長年、多くの人々の心に届いてきました。彼女の言葉が、周囲を見渡し、必要としている人に席を譲るきっかけになることを願っています」
TfLは2017年、外見からは分かりづらい障がいや疾患のある人が、支援や配慮を必要としていることを周囲に知らせるための「Please Offer Me a Seat(席を譲ってください)」バッジを導入した。これまでに約17万個が発行され、そのうち1つは現在、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)のデザイン・建築・デジタル部門コレクションに収蔵されている。日本でも、同様の目的を持つ「ヘルプマーク」が2014年に東京都で導入され、その後全国へ広がった。
期間中、エリザベス線のイーリング・ブロードウェイ、イルフォード、パディントン、ロムフォード、ウーリッジの各駅では、スタッフが「Please Offer Me a Seat(席を譲ってください)」や「Baby on Board(妊娠しています)」、「Babys on Board(双子以上を妊娠しています)」バッジを希望者へ配布している。