ティモシー・シャラメが信じるアートの力【アートを愛するセレブたち Vol. 2】
異色の“純愛ホラー”作品『ボーンズ アンド オール』が2月17日に日本公開される俳優ティモシー・シャラメ。主演映画『君の名前で僕を呼んで』(2017)で一大センセーションを巻き起こした彼は、世界中のアーティストにインスピレーションを与える存在である一方、自らも社会により良い変化をもたらすべく、様々な活動を展開している。
名画にシャラメを「貼り付ける」謎のアカウントが話題
2018年、イギリスの音楽誌NMEで紹介された、とあるインスタグラムのアカウントが、世界中で今なお大きな注目を集めている。
「chalametinart」というこのアカウントのプロフィールには、「ティモシー・シャラメは、ダ・ヴィンチら古典芸術家たちのインスピレーションソースであった」と添えられており、ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》やミケランジェロの《ダビデ像》など、美術館でしかお目にかかることができない世界の名作に、フォトショップでシャラメの画像を加工したユーモア溢れる作品が並ぶ。この遊び心の効いたアプローチで、古典芸術により親しみを覚える若者が増える一方、作者に関してはいまだ「アノニマス(匿名)」のままだ。
2022年10月、イギリス版ヴォーグ誌で、同誌の106年の歴史上男性で初めてカバーを飾ったシャラメは、世界中のアーティストのインスピレーションソースとなっている。その一方で、ドラッグ中毒に陥っていく青年を演じた『ビューティフル・ボーイ』(2018)以降、ドラック依存症患者や性的マイノリティのコミュニティ「L.G.B.T. Center in New York」に出演料を全額寄付するなど、社会的弱者を支援する活動家としても知られている。
また、タリバンによる政権奪取によって起きたアフガニスタンの危機的な状況に対し、「現地で懸命に生きる声なき声に耳を傾け、その声を世界中に届けなければならない」と語ったシャラメは、2021年からデザイナーのハイダー・アッカーマンとのプロジェクトを開始。オリジナル・フーディーをデザインして販売し、その売り上げをすべてアフガニスタンの女性と子供の権利保護のために取り組むフランスの団体「Afganistan Libre」に寄付し、今なお混乱状態の中に生きる人々のため、その多彩な才能をいかんなく発揮し続けている。
アメリカ社会の分断を見つめる、JRとのコラボレーション
シャラメは、「In America」をテーマに掲げた2021年のメットガラにアッカーマンの衣装を纏って登場。同年ニューヨークのフリック美術館で、フランス人アーティストJRとのコラボレーションでインスタレーションとパフォーマンスを披露したことは記憶に新しい。
1983年パリ生まれの活動家、ストリートアーティストであるJRは、パリ郊外で起こった暴動をテーマにした《Portrait of a Generation》(2004)や、イスラエル・パレスチナ問題をユニークな手法で捉えた《Face 2 Face》(2007)、社会的に重要な役割を果たしながら、戦争、犯罪、政治・宗教的狂信の犠牲者となっている女性たちを題材にした「Women are Heroes」シリーズ(2010)のほか、著書『Can Art Change The World?(芸術は社会を変えることができるか?)』など、現代社会の闇にスポットを当て、広く問題提起する作風で知られており、過去にはTED賞(2011)を受賞。2013年には東京のワタリウム美術館で個展を開催している。
「アメリカ国旗が見せるのは、(パンデミックやトランプ政権のために起こった)2年間の孤独、怒り、恐怖、そして対立によって増幅されたアメリカ社会の分断と、そこに生きる家族や個々の存在」とJRが語った今回のコラボレーションを皮切りに、シャラメはアートから社会革命を起こしていくのかもしれない。