あなたは「誰」を部屋に入れるか──価値観の受容と排除を問う参加型ゲームアートが公開
アーティスト兼ゲームデザイナーのダニエル・ブラスウェイト=シャーリーが参加型オンラインゲーム作品を公開した。扉の前に現れる他者の声に応答し、その受容の可否を判断するという体験を通じて、本作は価値観の差異と共存の条件を静かに問い直す。

アーティスト兼ゲームデザイナーのダニエル・ブラスウェイト=シャーリー(Danielle Brathwaite-Shirley)は、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーのコミッション作品として、5月21日にオンラインゲーム《I DIDN’T REALISE YOU THOUGHT LIKE THAT(君がそんなふうに考えているとは知らなかった)》を公開した。
展覧会から生まれたオンラインゲーム
1995年ロンドン生まれ、現在は同地とベルリンを拠点に活動しているブラスウェイト=シャーリーは、ブラック・トランス(黒人トランスジェンダー)の記録と記憶をテーマにした作品で国際的に注目を集めるアーティスト。マイノリティが置かれた状況を身体的に体感し考える、オーディエンス参加型のインスタレーションやゲーム作品を数多く手がけている。
本作は、2025年9月から2026年1月にかけてサーペンタイン・ノースで発表されたブラスウェイト=シャーリーによるマルチプレイヤー型ゲームインスタレーション《THE DELUSION》を起点としている。新作同様、サーペンタイン・ギャラリーによるコミッション作品である本作においてプレイヤーは、テーブルに手を置き、迷路状の構造の中でボールを進めるために協力しながら、「何が検閲されるべきか」といった問いについて考える。《I DIDN’T REALISE YOU THOUGHT LIKE THAT》では、その舞台をウェブとモバイル環境へと拡張し、世界中のプレイヤーが参加できるようになった。
今回の試みについて、サーペンタイン・ギャラリーはプレスリリースで、「ギャラリーの壁を越えてアートを届けるという、サーペンタインの継続的なコミットメントを示すものです。また、あらゆる背景を持つ学習者や未来のテクノロジストに向けて、テクノロジー・リテラシーへのアクセスを広げる『Beyond Code』の使命とも深く共鳴しています」と説明している。
終末後の世界で問われる自らの価値観

《I DIDN’T REALISE YOU THOUGHT LIKE THAT》の世界観は、ブラスウェイト=シャーリーによるグラフィックノベル『Below the Blue Line』に由来する。舞台となるのは、かつてオンライン上に投稿されたコメントが生命を持ち、それぞれの勢力が自らの「真実」や「正義」に固執する、ポスト・アポカリプティックな世界だ。
ゲームの中心にあるのは、一枚の「ドア」。そのドアに、1990年代初頭のビデオゲームを思わせる架空のキャラクターや陰謀論者、インフルエンサーたちが現れ、「我々の希望のために海外で殺人を犯している」「今の政権を憎んでいる」「愛がなければ生きていけない」など、それぞれの信条を語りながら入室を求めてくる。
こうした信条は、ニュースの見出し、ソーシャルメディアの投稿、宗教指導者や活動家との対話、さらにブラスウェイト=シャーリーが収集したブラック・トランス/クィア・コミュニティの証言アーカイブなどをもとに作られた。プレイヤーはさまざまなキャラクターと出会い、異なる視点に触れながら、相手を受け入れるか拒否するかを判断していく。そして最後には、その選択の積み重ねによって形成された世界が立ち現れる。
また、本作は「生きたアーカイブ」として構想されたオープンソース作品でもある。プレイヤーが投稿したコメントや、ワークショップ、少人数のグループインタビュー(フォーカスグループ)、その他コミュニティ活動から得られた内容をもとに、新たなキャラクターや会話が生成され、作品世界は継続的に更新されていく。
本作は専用URLから無料でプレイ可能。対応言語は英語のみ。強い言語表現や成人向けテーマが含まれる場合があるため、未成年者がプレイする際にはペアレンタルガイダンス(保護者による確認・指導)が推奨されている。