パリ最古の橋が洞窟に。JRが拡張現実や音響を駆使した没入型の巨大アート設営を開始

セーヌ川に架かるパリ最古の橋、ポン・ヌフにゴツゴツした岩山と洞窟が姿を現した。これはフランス人アーティストのJRによる巨大なインスタレーション作品で、6月に期間限定で無料公開され、来場者は内部を歩いて鑑賞できる。

パリのポンヌフ橋で6月6日から一般公開されるJRの作品、《La Caverne du Pont Neuf》の全景(2026年5月24日撮影)。Photo: Luc Castel/Getty Images

5月21日、パリに現存する最古の橋、ポン・ヌフを洞窟に変貌させるアートインスタレーション《La Caverne du Pont Neuf(ポン・ヌフの洞窟)》の設置が開始された。インフレータブルアート(ビニールや布を空気で膨らませた彫刻)を活用した作品を手がけたのは、フランスの写真家でストリートアーティストのJRだ。

このプロジェクトは、クリストとジャンヌ=クロードが1985年にポン・ヌフ橋全体をサンドベージュ色の布で包んだ伝説的作品、《The Pont Neuf Wrapped(包まれたポン・ヌフ)》へのオマージュとして企画された。当時この作品には4万1800平方メートルの布と13キロメートルのロープ、12トンのスチールケーブルが使われ、2週間の会期中に300万人が訪れている。

JRによる今回の構造物は、白、黒、グレーの写真プリントで洞窟外部の岩肌を質感豊かに再現したトロンプ・ルイユ(だまし絵)効果を生み出している。その着想源となったのは橋に用いられた石材を採掘する採石場で、洗練されたパリの優雅さと荒々しい自然の対比を通じて、過去と現在の対話を生み出すことが意図された。

また、全長120メートル、幅20メートル、高さ最大18メートルの「洞窟」の内部では、視覚や聴覚を刺激する没入型アートが無料で味わえる。音響制作には元ダフト・パンクのトーマ・バンガルテルが協力し、ARグラスやスマートフォンを使った拡張現実体験には、スナップ社(Snap Inc.)の技術が使われている。

インスタレーションの期間は6月6日から28日まで(無休)。24時間いつでも鑑賞可能で、洞窟に変貌した橋の景観はセーヌ河岸や近隣の橋、リバークルーズなどからも眺められる。

JR《La Caverne du Pont Neuf(ポン・ヌフの洞窟)》(2026) Photo: Éléa Jeanne Schmitter, ©2026 Atelier JR
JR《La Caverne du Pont Neuf(ポン・ヌフの洞窟)》(2026) Photo: Éléa Jeanne Schmitter, ©2026 Atelier JR
《La Caverne du Pont Neuf(ポン・ヌフの洞窟)》(2026)を設営中のJR。Photo: Éléa Jeanne Schmitter, ©2026 Atelier JR
《La Caverne du Pont Neuf(ポン・ヌフの洞窟)》(2026)設営の様子。Photo: Éléa Jeanne Schmitter, ©2026 Atelier JR
1985年に公開されたクリストとクリストとジャンヌ=クロードの《The Pont Neuf Wrapped(包まれたポン・ヌフ)》(1975-85)。Photo: Wolfgang Volz, ©1985 Christo and Jeanne-Claude Foundation

JRはプレスリリースで、「芸術の使命は人々に考えさせたり、慣れ親しんだものを再考させたりすることだというクリストとジャンヌ=クロードの考えに共感した」として、次のように述べている。

「公共空間におけるプロジェクトが引き起こす議論は、その芸術的実践と同じくらい価値のあるものです。芸術とは変容であり、私たちを取り巻く世界を見る視点を刷新する手段です。『ポン・ヌフの洞窟』という夢を通じて、私はパリでそれを実現したいと願っています」

設営が始まった5月21日、空気で膨らませて洞窟を形作る80枚の巨大なキャンバスが夜通しかけて広げられた。仏ル・モンド紙によると、この巨大な構造物の設計・制作には延べ800人が携わり、事前にオルリー空港の格納庫で実物大のテストが行われたという。

ポン・ヌフ橋を洞窟に変えるプロジェクトは、近年まれに見る大胆なパブリックアートだが、公的資金は一切投入されていない。費用は、パリ土木友好協会(L’Amicale des Ponts de Paris)の基金のほか、JRの作品の売却益と数社の民間企業スポンサーからの出資で賄われた。

あわせて読みたい