ペース大規模再編の舞台裏──「拡大路線の代償」をグリムシャー自ら認める

スタッフ及び所属アーティストの大幅削減でアート界に衝撃を与えたペース・ギャラリー。関係者への取材から、混乱に包まれた社内の様子とともに、CEOマーク・グリムシャーが自ら進めてきた拡大路線への反省が浮かび上がった。

Pace Gallery
ニューヨークのペース旗艦店。Photo: Cindy Ord/Getty Images

6月4日木曜日の早朝、携帯電話が次々と鳴り始めた。ペースギャラリーのスタッフやアート界の知人たちが、「大丈夫?」「何が起きているの?」など短いメッセージを送り合っていた。

というのも、ニューヨーク・タイムズが日付が変わった直後に、ペースが約50人の従業員を解雇し、所属アーティスト約50人との契約を打ち切る準備を進めていると報じたのだ。多くのペース社員にとってそれは初耳であり、タイミングも最悪だった。4日の午前9時にはペースの全社員向けのタウンホール・ミーティングが予定されていたが、同紙の記事は、ギャラリー側の想定より早く公開された。公開直後に記事を読んだ社員たちは不安を抱えたまま眠りにつき、果たして自分の職が残っているのか不安に苛まれて目を覚ました。

「みんな、何が起きているのか知りたがっていました」と、現在もペースに在籍するある社員は筆者に語った。「でも、私を含め、誰も何も知らなかったんです」

四半期ごとのタウンホールは、ギャラリー内部ではおなじみの行事だ。通常は、チェルシーにある広大な本社ビル4階のキッチンで対面で開催され、社員のためにベーグルが用意される。CEOのマーク・グリムシャーがしばしば長時間にわたって話し、事前に提出された質問に答える。しかし、昨年第4四半期以降このタウンホールは開催されておらず、木曜日の集まりは火曜日に通知されたが、それまでに何度となく延期されたため社員たちは不安を募らせていた。そして今回の会合は、これまでとはまったく異なるものになった。

開始直前になって対面形式は中止され、Zoom会議に切り替えられた。郊外区から出勤しようとしていた社員たちは、家を出ようとしたところで予定変更を知らされ、引き返してオンライン会議に参加することになった。通常配布される社員向け質問フォームも届かず、会議は30分にも満たず終了した。長時間の議論に慣れた会社にとって、それはあまりにも唐突だった。

「現況へと導いたのは自分の責任」

Pace CEOのマーク・グリムシャー。Photo: Suzie Howell
Pace CEOのマーク・グリムシャー。Photo: Suzie Howell

複数の関係者によると、グリムシャーは会議の大半を、この状況に至った経緯の説明に費やしたという。

ギャラリーは大きくなりすぎた。コストは上がりすぎた。このビジネスモデルはもはや機能しない。

そしてさらに意外だったのは、その後に続いた発言だった。関係者によれば、彼はアート市場の状況だけを責めるのではなく、ペースを現在の状況へと導いた多くの判断が自身によるものだと認め、その責任の多くを自らに求めたのだという。

この10年で同ギャラリーは、メガギャラリー時代を象徴する存在のひとつとなり、国際展開を進め、アーティストを増やし、新たな拠点を開設し、永続的な成長を前提とした事業体制を築いてきた。だが今、そのトップは、まさにそのモデル全体を見直す必要があると主張している。

現職の社員のひとりは「誰もが気づいていた問題でした」と語り、こう続ける。「自分自身の役割を認めずに、この話を進めることはできなかったと思います」

その後実施された人員削減は、事業のほぼあらゆる部門に及んだ。事情を知る関係者によれば、営業、広報、アート・リソース、オペレーションなど各部門で、ほぼ均等に削減が行われたという。解雇された中には長年ペースに勤務していた者もいれば、比較的最近入社した者もおり、ある関係者は、特定部門だけが集中的に対象になったようには見えなかったと話した。

筆者は複数の元社員に電話やテキストメッセージで連絡を取ったが、返答は得られなかった。多くは、退職条件の交渉がまだ完了していないことや、この2年間で大規模な人員削減やギャラリー閉鎖が相次いだアート市場で新たな職を探している最中であることから、公に発言することを避けているようだった。

ロンドン拠点の縮小も発表

Zoom会議の後、チェルシー本社に到着した社員たちにとって、不透明な状況は続いていた。誰が解雇されたのか、依然として把握していない者も多かった。午前中を通じて、人々はデスクやオフィス、会議室を行き来しながら何が起きたのかを探ろうとしていた。退職条件に関する面談へと姿を消す社員もいた。同僚たちはひそかにテキストメッセージを確認し、部屋の隅で小声で話しながら、誰が残り、誰が去るのかを把握しようとしていた。ある社員は「重苦しい空気でした」と振り返る。

一方で、会社に残った社員たちはすぐに別の現実にも直面した。ペースはこれまでも複数回にわたり人員削減を行っていたため、彼らはその後に何が起きるかを知っていた。仕事そのものが消えることはほとんどない。その代わり、業務は残った社員たちに再配分されるのだ。

木曜日以降、さらなる解雇が行われるとの未確認情報がアート界に広まったが、グリムシャーは6月10日(アメリカ現地時間)、フィナンシャル・タイムズに対して、ロンドンのハノーバー・スクエアにある8600平方フィート(約800平方メートル)の拠点を移転・縮小する計画を明らかにした。追加の人員削減の可能性について問われたペースの広報担当者は、今回の削減は「継続中のプロセス」であり、ヨーロッパのスタッフには「今週通知が行われた」と述べた。ロンドンでの追加削減については明言しなかったものの、グリムシャーはより「企業的でない(less corporate)」空間を求めているとし、「韓国、東京、ベルリンのギャラリーで、少人数のチームがどれほど効率的に機能しているかを見てきた。それこそが私たちの目指すモデルだ」と付け加えた。

所属アーティストたちの反応

アーティストたちにとって、先週のニュースはまた異なる形で受け止められた。何かが起きることを、以前から察知していた者も少なくなかった。

現在もペースに所属するあるアーティストにとって最も印象に残ったのは、決定そのものではなく、グリムシャーがメディアでそれをどう説明したかだった。あるアーティストはこう語る。

「彼が記者に話していたことは、私たちとの会話で語っていた内容と同じでした」

この指摘は重要だ。なぜならグリムシャーの説明は、アート界で称賛と懐疑の双方を呼んでいるからだ。彼がニューヨーク・タイムズ紙で展開した論理は明快だ。ギャラリー・システムは巨大化しすぎた。拡大そのものが目的化した。増大する固定費を賄うためには価格を引き上げる必要があり、そのためにはさらなる拡大が必要となり、結果として固定費はさらに膨らむ。この循環はやがて持続不可能になった。

筆者が個人的に話を聞いた多くのディーラーは、(Instagramのコメント欄だけを見ればそうは思えないかもしれないが)この分析に同意している。より難しい問題は、なぜこれほど長く手を打たなかったのかという点だ。そして依然として不安を抱く人々もいる。

現在もペースに所属する別のアーティストは、今回の人員削減は、長年にわたり囁かれてきたギャラリーの財務状況への憶測の末に起きたものだと語った。ペースの高額な賃料負担についての報道は、長年にわたりグリムシャーとギャラリーに対する批判材料となってきた。複数のメディアが報じてきたところでは、ペースは20年契約のもと月額70万ドルの賃料を支払っているとされるが、ギャラリー側は過去にその数字は不正確だとしている。昨年、ある関係者は筆者に対し、「チェルシー本社のコストはギャラリー全体の固定費の10%未満であり、以前の57丁目にあった7階建て本社と比べても総コスト増加は5%程度に過ぎない」と語っていた。さらに、ペースとサザビーズ(Sotheby’s)の潜在的な取引をめぐる報道もあった。昨年設立されたペース・ディ・ドンナ・シュレーダー(Pace Di Donna Schrader)も、ギャラリーの方向性をめぐる疑問を呼んだ。

このアーティストによれば、ギャラリー経営陣は今回の「モデル修正(model correction)」を、この10年でアート界が大きく変化したことと、それに合わせてペースも変わる必要があることの認識として説明したという。しかし、その後に何が起きるのかについて具体的な説明はほとんどなかった。その不確実性は今も残っている。再編を支持する人々でさえ、長年の拡大路線の後に進路修正を行う企業を見ているのか、それともより深刻な財務問題への対応を見ているのか、確信を持てずにいる。

「単に過剰なレバレッジを抱えていて、それを立て直しているだけなのか。それとも、実際には人々が思っていた以上に状況が悪かったのか」と、このアーティストは語る。その問いが、今回の一連の動き全体に影を落としている。

ペースが現在のモデルを構築したという批判

グリムシャーは、巨大化し、コストが膨らみ、企業化しすぎたモデルをペースは放棄すると主張しているが、批判者たちは、ペースこそがそのモデルを構築した当事者だと指摘するだろう。両方とも事実であり得る。少なくとも今のところ、ペースの社員、アーティスト、コレクターたちは、最も困難な局面はすでに過ぎ去ったと信じるよう求められている。

「これから先に、より良い未来が待っていることを願うだけです」と、現在もペースに所属するあるアーティストは語った。

ギャラリーの規模は小さくなるかもしれない。しかし、それを取り巻く疑問は小さくなっていない。

グリムシャーはニューヨークタイムズのインタビューで、最終的にペースは約80人のアーティストに注力する方針だと述べた。しかし現在、ギャラリーのウェブサイトには104人のアーティストとエステート(遺産管理団体)が掲載されている。もし80人という目標が維持されるのであれば、どのアーティストが契約解除の対象となったのか、その全容はまだ明らかになっていない。一般にはもちろん、おそらくは当のアーティスト本人たちにとっても。

この数字の不一致について質問されたペースの広報担当者は、次のように回答した。

「現在進行中のプロジェクトや既存の契約上の責務を複数のアーティストに対して履行しているため、引き続き協働を続けています」

編注:本記事は、フィナンシャル・タイムズ紙による追加報道を受け、ペースのロンドン拠点に関する情報を追記・更新した。

from ARTnews

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