Paceが「事業モデル」見直し──所属作家50人とスタッフ50人削減

世界7カ所に拠点を構えるメガギャラリー、Paceが、スタッフ約50人をレイオフし、所属アーティストおよそ50人との契約を終了する。所属作家の数は85人前後に絞り込まれる見通しだ。

Pace CEOのマーク・グリムシャー。Photo: Suzie Howell
Pace CEOのマーク・グリムシャー。Photo: Suzie Howell

世界7カ所に拠点を構えるメガギャラリー、Paceが、スタッフ約50人を解雇し、所属アーティストおよそ50人との契約を終了すると発表した。これにより、所属作家の数は約85人に絞り込まれる見通しだ。US版ARTnewsに寄せた声明で、CEOのマーク・グリムシャーは、今後もグローバルなギャラリーとして活動を続けながら、「各地域のアートシーンに根差したプログラムを展開する」と述べ、こうに続けた。

「ギャラリーはビジネスモデルを見直す必要があります。私たちはいま、ルーツに立ち返り、どのような使命のもとで活動してきたのかを改めて明確にしなければなりません。過去から学びながら未来へ向かう姿勢を実践し、若いアーティストを、その精神的支柱となってきた先達と結びつけていきます。新進気鋭の作家から、すでに確固たる地位を築いた物故作家のエステートまで、世代を超えた約80人の作家に注力していく考えです」

この人員削減は、ニューヨーク・タイムズ紙が最初に報じた。同紙の取材に対し、グリムシャーは現在のギャラリー業界について、次のように語っている。

「現在のギャラリーというシステムは肥大化が進み、商業主義的で、人間味のない企業のような存在になってしまいました。業界内の人々は、そのことをよく理解していると思います。だからこそ、この状況に適応するには、何かしらの行動を起こさなければならないし、抜本的な変化を加えなければなりません」

「運営維持費にシビアに向き合う」

取り扱いが終了したアーティストの詳細は明らかになっておらず、ギャラリー側も契約を終了した作家の一覧を公表していない。今回の再編により、所属アーティストはおよそ30%削減され、スタッフ数も現在の約250人から200人規模へ縮小される見込みだ。

本稿執筆時点で、ギャラリーのウェブサイトのアーティスト一覧から名前が確認できなくなっているのは、キース・コヴェントリー(Keith Coventry)、チームラボ、ジョン・ジェラード(John Gerrard)、グレン・カイノ(Glenn Kaino)らだ。このうちカイノはニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、Paceの財務状況をめぐる業界内の噂を以前から耳にしていたため、今回のニュースに驚きはなかったと語った。さらに、Paceが描いていたアート界の理想像について、「絵に描いた餅に終わった」と述べている。

Paceの規模縮小の背景には、ここ数年続くアート市場の縮小がある。経済的・地政学的不確実性、高金利、トランプ大統領による関税戦争などが重なり、ギャラリーを取り巻く環境は厳しさを増している。2025年には、グリムシャーのように現在のギャラリーシステムに批判的な姿勢を示していたBLUMをはじめ、複数の有力ギャラリーが閉鎖に追い込まれている。

グリムシャーはUS版ARTnewsに対して、今回の削減は市場の冷え込みに対する単なる防衛策ではないと説明している。狙いは、ギャラリーの運営コストが膨らみ、その負担を支えるために作品価格の上昇圧力が強まるという悪循環を断ち切ることにある。他のギャラリーが作品価格を引き上げるなか、Paceは強気な値上げを避けてきたという。だが、巨額の維持管理費を抱えるギャラリーへの重圧は増すばかりだ。グリムシャーはこう続ける。

「運営費や事業の維持管理費に対して厳しく向き合わなければ、膨張したコストそのものが原因となり、負のループに引きずり込まれることになります。そこに目を向けず、激しい競争と近視眼的な思考にビジネス戦略を委ねてしまうと、そこから抜け出せなくなってしまいます」

拠点ごとに合わせたプログラムを強化

こうした問題意識は、マークだけのものではない。Paceの創業者アーネ・グリムシャーも、事業拡大を常に求められ、複数都市に拠点を構え、膨大な数のアーティストを抱え込む「メガギャラリー」モデルの構造的な欠陥を、長年にわたって批判してきた。

ギャラリーが急激な拡大路線を見直す決断を下した背景には、ベルリンやアジアにおける小規模で機動的な拠点運営、そしてアーネ・グリムシャーが立ち上げたプロジェクトスペース「125ニューベリー」の存在があった。マーク・グリムシャーによれば、ベルリンと東京の拠点は、単なるニューヨークの分館としてではなく、現地のオーディエンスやコレクターコミュニティに合わせたプログラムを展開してきたという。

そして、ギャラリーとしてはこの運営方針をさらに推し進める予定だ。その狙いとして、グローバルなネットワークの一部であり続けながらも、各拠点がより強い地域的アイデンティティを確立することにある。同時に所属する作家達と、数十年にわたりギャラリーのアイデンティティを形作ってきた物故作家のエステートとのつながりを、より明確にすることも目指している。グリムシャーは、この変化を、世代を超えて共有される芸術的系譜や影響関係に焦点を当てるものと位置づけている。

グリムシャーは、今回の変革を、ギャラリーがこれまで重ねてきた拡大と実験の長い歴史を否定するものと捉えるべきではないと主張する。「私たちが常に模索を続けてきたことを、単に組織が肥大化し企業化していく現象と混同してはなりません」と述べ、その探求心こそが「100%、父の遺産です」と表現した。問題は野心の有無ではなく、メガギャラリーというモデルを維持するために必要となる巨額の維持管理費なのだという。

競争ではなく協働へシフト

US版ARTnewsが2023年に報じたように、Paceは2022年から2023年にかけての約12カ月間に、キャリアや知名度の異なる10人以上のアーティストと新たに契約を結んだ。近年も新規契約の動きは続いており、今年5月にはコンスタンティン・ブランクーシのエステートのグローバル代表に就任し、3月にはアーティストのアニカ・イが所属作家として加わった。グリムシャーは、ギャラリーが今後も新しいアーティストの取り扱いを続けること、そして年間約900万ドル(約14億4000万円)の賃料がかかるとされる、チェルシーのウエスト25丁目の改装されたばかりの旗艦施設を維持することを強調した。

Paceは規模を縮小する一方で、他者との協働には積極的な姿勢を見せている。2025年には、ディーラーのエマニュエル・ディ・ドナおよびデヴィッド・シュレイダーと提携し、新たに「ペース・ディ・ドナ・シュレイダー・ギャラリー(PDS)」を立ち上げた。このコラボレーションは今後も継続され、今月開催されるアート・バーゼルで本格的に披露される予定だ。当時、グリムシャーはUS版ARTnewsの取材に対して、次のように語っていた。

「競争への執着は、私たちを利益率が低く、維持費ばかりがかさむ軍拡競争へと駆り立ててしまいました。それはアーティストにとってもクライアントにとっても、何の利益にもなりません。その代わりに、Pace、ディ・ドナ、そして長年の友人であるデヴィッドは、アート界のネットワークや人間関係を受け入れる協働モデルを先駆けて生み出しました。これこそが未来の姿です」

フェアの出展回数は見直し

今回の変革により、Paceが手がける展覧会の数やアートフェアへの出展数は減っていく見通しだ。グリムシャーは、「展示やプログラムの質を維持する」ためにも、展覧会などの回数は間違いなく減ると語っている。また、ギャラリーがあまりにも多くのプロジェクトやイベントを抱え込み、手を広げすぎていたとも認めた。

コロナ禍には、ギャラリーはアートフェアへの出展スケジュールを縮小すべきだという議論が起こった。その当時、自身もその主張をしていたのではないかと問われると、グリムシャーは自嘲気味にこう述べた。

「あれを主張していたのは私でした。それなのに、コロナ禍が明けると、当の本人は以前とまったく同じ生活に戻ってしまったのです。今になって、ようやくその約束を果たそうとしています」

Paceは、所属を外れたアーティストのリスト公開を拒んでいる。だが、US版ARTnewsが同ギャラリーの現在のラインナップを2026年2月時点のものと比較したところ、リチャード・アヴェドン、JR高松次郎といった作家の取り扱いが終了していることが確認された。(翻訳:編集部)

from ARTnews

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