ペースら3者が共同セカンダリー・ギャラリー「PDS」を始動──競争依存の業界構造に一石
ペース、ディ・ドンナ・ギャラリーズ、そしてデイヴィッド・シュレーダーの3者が、セカンダリー市場に特化した共同ギャラリー「PDS」を設立する。競争ではなく協働にこそ未来があるという信念に基づいた新モデルで、アート市場の構造そのものに変革を迫る試みだ。
ペース、ディ・ドンナ・ギャラリーズ、そしてデイヴィッド・シュレーダーが、セカンダリー市場の販売に特化した新たな共同ギャラリーを立ち上げる。ブティック規模ながら、世界的な展開と確かな実力を備えた3人の重量級が展開する拠点となる。
「Pace Di Donna Schrader Galleries(PDS)」は2026年1月1日に事業を開始し、夏にはニューヨークのアッパーイーストサイドに正式なスペースをオープンする。秋には大規模な歴史的展覧会が予定されている。
今回の動きが注目されるのは、その規模ではなく「哲学」にある。3人の創設者は、未来は競争ではなく協働にあると判断した。たとえばペースのマーク・グリムシャーは、アート界の成長は真のイノベーションにかかっていると長らく主張してきた人物。彼らがいま賭けようとしているのは、旧来的なライバル争いを蒸し返すのではなく、それぞれの強みを「再結合」させることで前進が生まれるという考え方だ。
グリムシャーはUS版ARTnewsのメール取材にこう答えた。
「競争への過度な執着が、低利益率・高コストの『軍拡競争』を生み出し、それはアーティストにとってもクライアントにとっても利益になっていません。ペース、ディ・ドンナ、そしてシュレーダーは、アート界のネットワーク関係性を受け入れる協働モデルの先駆者です。これこそが未来なのです」
PDSは、業界の「構造的な問題」を「構造的に解決する策」として位置づけられている。JPモルガン・チェースでマネージング・ディレクターを務めたのち、10年にわたってサザビーズのプライベートセールス部門の変革を率いたシュレーダーは声明で、PDSを「古いアーキテクチャを超えてしまった市場に対する、戦略的かつ構造的な応答」であると語る。
ディ・ドンナは、1900年から1970年の欧米アーティストによる作品に特化したニューヨークでも屈指のセカンダリー市場専門ギャラリーのひとつであり、自らが培ってきたミュージアム級の審美眼をPDSにもたらすだろう。ペースは、世界各地の拠点、遺産管理における深いネットワーク、そして半世紀にわたる制度的な信頼性を提供する。
PDSは「合併」ではない。ディ・ドンナ・ギャラリーズのエマニュエル・ディ・ドンナが声明で述べたように、この共同ギャラリーは「オークション、プライベートセール、コレクション形成、ファイナンス、制度的な関係性を一つ屋根の下に統合する『全体的な体験』」を提供するものだ。
このモデルは興味深い可能性を提示する。もしかすると、これこそが市場上層部におけるイノベーションのかたちなのかもしれない。協働への「アレルギー」は、このセクターの弱点として長く指摘されてきた。もしPDSが成功すれば、そのパターンを覆すことになるだろう。(翻訳:編集部)
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