シュメール文明の幻の「白い雷神鳥の神殿」を発見──考古学者らの執念が結実
シュメール文明の都市ギルス(現代名テルロー)の発掘プロジェクトで、考古学研究者たちは最新技術やドローン撮影などを駆使し、これまで知られていなかった大型建造物が地中に埋もれているのを見つけた。場所は、タブレット・ヒルと呼ばれる遺跡で、19世紀の発掘調査や20世紀の紛争のために状態が非常に悪くなっていた。
2月17日にロンドンのイラク大使館で行われた記者会見で、プロジェクトチームは、ギルスが世界で最も早い時期に建設された都市の1つであることから、タブレット・ヒルを「文明の発祥地」であり、「ほとんど知られていないが、世界で最も重要な遺産の1つだ」と評している。人類史上最古の文明の1つに数えられるシュメールでは、紀元前3500年から2000年の間に文字が発明され、世界最初期の都市建設や法律の制定が行われた。
タブレット・ヒルでは昨秋、19世紀に行われた発掘調査で出た廃棄物の山から、泥レンガの壁やシュメールの楔形文字を記した200枚以上の石板が見つかった。ギルスの行政記録が詳細に記された貴重な石版は、バグダッドのイラク国立博物館で保管されている。
それに加え、古代都市ギルスの名前の由来となったシュメール神話のニンギルス神の聖域、エニンヌ神殿も発掘された。白い雷神鳥の神殿と呼ばれる聖域は、古代メソポタミアで最も重要視されるものの1つだが、従来この神殿は140年前に同地で発見された古文書で知られるだけだった。
今回の発見は、イラクの国家考古遺産委員会と大英博物館が、アメリカのゲティ財団の資金支援を得て、何年にもわたり続けている共同調査プロジェクトの成果の1つだ。プレス向けの声明によると、同プロジェクトの目的は、イラクで考古学を学ぶ学生や保存修復師の現場研修および遺跡管理を通じて、「初期の発掘と近年の略奪による遺跡の損傷に対処する」ことだという。
2月17日の記者会見で、ギルス・プロジェクトの責任者であるセバスチャン・レイ博士は、この発見でやっと自分の正当性が認められたとして次のように語った。
「2016年に調査を始めたときは、誰も私のことを信じてくれませんでした。国際会議の場でも、たいていは『そんなの作り話だ、時間の無駄だ、大英博物館や政府の予算を無駄にしている』と言われたものです。それでも、応援してくれる人や、このプロジェクトを信じてくれる人がいたから続けることができました。もちろん、調査研究や研修の側面もありましたから、たとえ神殿を発見できなかったとしても、かけがえのない体験になったと思います。神殿の発見はその体験に花を添えるものでしょう」(翻訳:石井佳子)
from ARTnews