ハウザー&ワースへの対ロシア制裁違反訴追、全面棄却──争点はコレクターの「居住実態」

ジョージ・コンド作品の売却をめぐり、対ロシア制裁違反に問われていたハウザー&ワース。裁判所は、検察側の立証が不十分だったとして、同ギャラリーへの起訴を棄却した。

ハウザー&ワースの共同創業者、アイワン・ワース。Photo: Matt Cardy/Getty Images for Hauser & Wirth
ハウザー&ワースの共同創業者、アイワン・ワース。Photo: Matt Cardy/Getty Images for Hauser & Wirth

スイスを拠点とするメガギャラリー、ハウザー&ワースは、ロシア出身のコレクター、アレクサンダー・ポポフにジョージ・コンドの作品《Escape from Humanity》を売却し、対ロシア制裁に違反したとして起訴されていたが、ロンドンのサザーク刑事法院は、この刑事訴追を棄却した。インディペンデント紙によると、作品の提供時にポポフがロシアの通常居住者だったことを、検察側が十分に立証できなかったからだという。

英歳入関税庁(HMRC)による捜査を経て、イギリスの検査当局は2025年11月、同ギャラリーと、ロンドンを拠点とする美術品輸送会社アートレイ・ラウフヴェルガー・ソロモンズを刑事訴追した。イギリスの対ロシア制裁における高級品提供禁止をめぐる初の刑事訴追であり、同制裁規則に基づく初の法人訴追とみられていた。

インディペンデント紙によると、ハウザー&ワースの代理人は、配送会社DHLがアルメニアの住所を入力すべきところ、誤ってモスクワの住所を記載したと主張したという。また、ポポフ自身はイギリスの制裁対象に指定されておらず、不正行為を問われてもいない。ただし、今回の規制では、個別に制裁指定されていなくても、ロシアに通常居住する者への高級品の提供は禁止される。ポポフはすでにロシア国籍を放棄し、ボスニアとアルメニアに不動産を所有していることも強調した。一方、検察側は、ポポフ夫妻が過去に「ロシアを拠点とするコレクター」と紹介されていた点を指摘。双方の主張を踏まえ、裁判官は次のような判決を下している。

「作品がポポフの手に渡ったことは事実だが、検察は、彼が『ロシアと関係する者』であったことを証明できなかった。この立証の失敗は、すべての訴因にとって致命的である」

この判決を受け、ハウザー&ワースの広報担当者はUS版ARTnewsの取材に対してこう語る。

「訴えが全面的に棄却されたことを非常にうれしく思います。私たちは当初から今回の訴追に強く異議を唱え、不正行為はなかったと主張してきました。今後も制裁措置を含むすべての法令を遵守し、活動を続けてまいります。この件が無事に解決したことに安堵しています」

Photo: Courtesy Hauser and Wirth

イギリス政府は2022年3月、ロシアに対する経済制裁の一環として、高級車や高級衣料品、250ポンド(約5万円)を超える美術品などのロシアへの高級品輸出を禁止する一方、ロシアから輸入されるウォッカや美術品、骨董品などに追加関税を課した(規制の発効は同年4月)。米公共ラジオ放送(NPR)の当時の報道によると、イギリス政府は輸出禁止の目的について、「オリガルヒをはじめとする富裕層が高級品を入手できないようにするため」と説明していた。

こうした高級品の輸出禁止は、ロシアの富裕層を標的とする制裁の流れのなかで導入された。直前には、イギリス政府がロシアの富豪7人に対する制裁を発表しており、その対象には、ロマン・アブラモヴィッチやオレグ・デリパスカなど、世界有数のアートコレクターも含まれていた。

今回の訴訟の対象となった作品を手がけたコンドは、2025年11月にハウザー&ワースを離れ、スプルース・マガースとニューヨークを拠点とするスカルステッド・ギャラリーへ移籍していた。しかし、7月9日にはハウザー&ワースへの復帰が発表されている。同ギャラリーは、2025年にパリ市立近代美術館で開かれたコンドの回顧展を踏まえ、2027年にパリとアメリカ・カリフォルニア州パロアルトで、新作と過去作を組み合わせた大規模展を開催するという。スプルース・マガースとの契約は今後も継続される。(翻訳:編集部)

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