美術市場の資金洗浄リスク、EUが評価引き下げへ──「秘密を重んじる文化」を捜査当局は警戒

欧州委員会が、美術品取引に伴う資金洗浄やテロ資金供与のリスク評価を引き下げる方針だ。犯罪との関連を示す証拠が限られるとする一方、捜査当局は市場の不透明さを警戒。業界団体との見解の違いが浮かび上がっている。

ベルギー・ブリュッセルにある欧州委員会本部。2025年撮影。Photo: Getti Images

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(European Commission)が、美術品・骨董品取引に伴うマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与のリスク評価を見直している。フィナンシャル・タイムズ(Financial Times、以下FT)によると、従来の「高い」から「中程度」へ引き下げる方針だ。ただし、評価はまだ確定していない。

報道の根拠となったのは、2026年1月29日にブリュッセルで開かれた、欧州委員会の「アート市場との対話に関する専門家分科会(Expert Sub-Group on Dialogue with the Art Market)」の公開議事録だ。

この会議では、EUの銀行・金融政策を担う金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局(Directorate-General for Financial Stability, Financial Services and Capital Markets Union、以下DG FISMA)が、資金洗浄とテロ資金供与に関する「2026年版超国家的リスク評価(Supranational Risk Assessment)」の主要な調査結果を説明した。これは、EU域内を横断して犯罪に悪用されるリスクを評価するもので、報告書は2026年中に公表される予定だ。

盗難事件が相次ぐ中での評価引き下げ

欧州では美術館を狙った盗難事件が相次いでいる。しかし、議事録によると、DG FISMAは、こうした盗難と資金洗浄やテロ資金供与との関連を示す「EU域内の証拠が限られている」として、美術品・骨董品に関連する脅威を4段階評価の「中程度(レベル2)」とした。

ただし、「脅威」と、市場の脆弱性も加味した「総合リスク」は異なる指標だ。2022年の前回評価では、脅威自体はすでにレベル2とされ、総合リスクが「高い」と判定されていた。今回、どの指標がどの程度変わるのかは、最終報告書で確認する必要がある。

また、「中程度」という評価は、対策が不要であることを意味しない。議事録は、リスクを軽減する措置や業界の意識向上が引き続き必要だとしている。取引の秘密保持や情報開示の少なさ、市場への参入のしやすさ、国・地域ごとに管轄が分かれていることなど、不正な資金の流れを助長する弱点も残っているという。

なかでも、美術品を再販売するセカンダリー市場(再販市場)は、資金洗浄に悪用されやすいと指摘された。その脅威についても「中程度(レベル2)」と評価されている。

こうした問題に対する規制の整備も進んでいる。2024年に採択された資金洗浄対策規則(Anti-Money Laundering Regulation)は、規制対象をEU規則で定義された「文化財」を扱う事業者に広げ、匿名性の高い取引を抑えるため、商品・サービスの現金決済に1万ユーロ(約178万円)の上限を設けた。これらの規定は原則として2027年7月10日から適用される。

DG FISMAは今回の評価に併せて、美術品取引のリスクを軽減し、規制当局による監督を強化するための提言も示した。美術品・骨董品市場の関係者との継続的な対話、啓発活動、対象を絞った研修プログラムの実施に加え、法令順守と適切な実務を促す指針・倫理規定の策定などが盛り込まれている。

一方、捜査当局からは、美術市場の不透明さを警戒する声も上がっている。EUの法執行協力機関である欧州刑事警察機構(Europol、ユーロポール)の組織犯罪部門を率いるジャン=イヴ・ゴリウは、FTの取材に対し、美術市場には「秘密を重んじる文化」があり、資金の出所の確認も甘いため、資金洗浄に悪用されやすいと指摘。こう続けた。

「美術品の盗難の背後には、ほぼ例外なく資金洗浄の仕組みがあると言ってよいと思います」

ただし、欧州委員会による評価引き下げについては、コメントを控えた。

業界団体は異なる見方を示している。議事録によると、英国骨董商協会(British Antique Dealers’ Association)は再評価を歓迎した。一方、古美術を扱う業界団体の国際古代美術商協会(International Association of Dealers in Ancient Art)は、EU域内の美術品や古美術品のうち、刑事事件に関連付けられたものはわずか0.3%に過ぎないとして「中程度」という評価でもなお高すぎるとの立場を示した。(翻訳:編集部)

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