2021年のアート業界とNFT~ナイトフランク「ウェルス・リポート」解説から

英不動産コンサルティング会社ナイトフランクが、富裕層の動向についてまとめる「ウェルス・リポート」の最新2022年版が3月に発表された。2021年の富裕層市場について調査したもので、図やグラフを用いて分析・解説している。各ジャンルの専門家が同年の市況を概説しているうち、アートとNFTについて書いた部分を翻訳して紹介する。なお、アートに関連する部分だけを、ANJ編集部が抜粋・編集・翻訳したpdf資料はこちら

Knight Frank

アート業界

ベロニカ・ルカソワ著(アート・マーケット・リサーチ<AMR>)

──2021年のアートオークション市場の動きは?

2021年のサザビーズの売上高は過去最高の73億ドル、クリスティーズは71億ドルと、5年ぶりの高水準となった。ナイトフランクの「All Art Index(オール・アート・インデックス)」によると、平均売上高は2020年から13%上昇し、ごく少数の作品が記録的な金額で取引される現象が見られた。

落札額上位のロットの多くを占めたのが、ハリー&リンダ・マックロー夫妻の離婚で放出されたコレクションで、サザビーズでのオークションは総額6億7600万ドルに達した。ジャクソン・ポロックの《Number 17(ナンバー17)》が6120万ドル、サイ・トゥオンブリーの《Untitled(無題)》が5890万ドルなど、有名アーティストの作品は落札価格がいくつも更新されている。

──誰が買ったのか?

NFT(非代替性トークン)によるデジタル・アート作品が、主要オークションハウスのポータルサイトを通じて新たな購買者を獲得した。クリスティーズによると、NFTアートに投資した人の75%は新たなコレクターで、平均年齢は42歳だった。

中でも注目されたのはアジアからの入札者だ。シンガポールを拠点とするNFT投資ファンド、メタパースの創業者で、メタコバンの別名で知られるビグネシュ・スンダレサンは、ビープルのNFTアート作品《Everydays: The First 5000 Days(エブリデイズ:最初の5000日)》を3月に6900万ドルで落札している。

一方、このオークションで敗れたジャスティン・サンは、11月にマックロー・コレクションのセールでアルベルト・ジャコメッティの《鼻》を7800万ドルで落札した。彼はこの購入について、暗号資産コミュニティ内で、金融、文化、芸術の融合を促進する活動の一環だと説明した。

──特に注目すべき落札は?

アート界が沸き立ったのは、フリーダ・カーロの《Diego y yo (ディエゴと私)》落札のニュースだ。1949年に完成した自画像で、カーロの夫で派手な女性遍歴でも知られるメキシコの国民的画家、ディエゴ・リベラの姿も描かれている。以前オークションに出品されたのは30年前だった。今回、ラテンアメリカのアートとして過去最高額の3490万ドルで落札され、カーロ作品が初めてリベラ作品をオークションで上回った。

──2022年の傾向は?

2021年は、私たちの予測通り中国のアート市場の価値が上昇した。SNSを利用して評判を高めている非常に現代的なアーティストたちが市場を牽引(けんいん)しており、この傾向は続くと思われる。フィリップスは、アジア最大のオークション会社であるポーリー・インターナショナル・オークションとの提携を継続し、サザビーズはオンラインのプラットフォームを拡大することでアジアの参加者を増やそうとしている。

また、クリスティーズは今後2年間で香港と上海に新しいセールルームを開設して需要に応じる予定だ。アジアの収集家の間でもNFTは人気が高く、2022年には、美術品とともにコレクターズ・アイテムの取引が引き続き増加すると見られる。(翻訳:清水玲奈)

暗号資産狂想曲

やっぱりNFTアートがよくわからない? アート・マーケット・リサーチ(AMR)のセバスチャン・ダシーが、よくある疑問にお答えする。

──なぜ、NFTに興味を持つ必要がある?

見るからに簡素だったり、漫画のようだったりするNFTアートは、年配者を寄せ付けない若者文化のように感じられるかもしれない。ほんの1年前までは無名だったビーブルの作品が、現存作家としては3番目に高価値という事実は、混乱にさらに拍車をかける。

とはいえ、作品にこんな高値がつくアーティストは、ほんの一握りだ。NFTアーティストたちは、現在活躍している伝統的なアーティストと同じように、地道な労力を重ねて名声を得てきた。実際のところ、暗号資産をめぐる論争かまびすしい中、NFTアーティストがきちんと認められるためには、仕事に対する真摯(しんし)な姿勢がことさら重要だ。

──オークション会社はなぜNFTに関心を示すのか?

大手オークションハウスは、eコマースへの進出でもトップランナーだった。サザビーズは早くも2002年にイーベイと初提携し、クリスティーズは2006年に自社プラットフォーム、クリスティーズ・ライブ(Christie’s LIVE)を立ち上げた。すぐに他のオークション会社も追随した。大手オークション会社はこのように、以前から先進的な販売方法を採り入れてきた。世界的なパンデミックが実店舗での販売を難しくしたため、ミレニアル世代や、より若い世代のコレクターを引きつけるための主戦場は、急速にオンラインに移行した。時間制オークションでいまや日常的に100万ドルの大台に乗せているNFTアートやコレクターズ・アイテムは、顧客が繰り返し購入するのにぴったりの最新コンテンツなのだ。

──NFTは万人向けか?

収集環境はこの10年で劇的に変わった。価格の上昇に伴って、刺激的かつ予測不能なアート市場は、芸術愛好家に限らず多くの人を魅了してきた。NFTマーケットは仮想空間であるため追跡が難しく、人に知られずにいたい購入者に人気がある。しかし、逆もまた然りで、すでに生活の大部分をネット上で共有している若い世代は、NFTコレクターとして世間に認められ名を挙げることを歓迎している。サザビーズの新しいメタバースは、他のNFTマーケットプレイスにヒントを得て、コレクターが公開プロフィールを作り、購入品リストや収集傾向を詳述することを推奨している。

──NFTはアートか?

NFTの最初期の参入者は、アーティストがNFTで作品を「制作」することを支援する必要性を理解していた。作品制作と、販売用に出品リストを作ること、双方の作業を簡素化するため、マーケットプレイスが設立された。ユーザーがターゲット層を見付ける手伝いをしているイーベイの手法をまねて、NFTマーケットプレイスも、クリエイターが作品を売りやすくするための選択肢を与えている。単一作品のNFTにするか、あるいは複数のエディションものにするか、というのもその一つ。

2021年3月には、ツイッターの共同創業者で元CEOのジャック・ドーシーによる史上初のツイートが、290万ドルで落札されて衆目を集めた。同年6月には、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の生みの親であるティム・バーナーズ・リー卿が書いたオリジナルのソースコードが、NFTとともに540万ドルで売られた。

一方、多くの人は複数のエディションを作ることを選んでいる。例えばラーバ・ラブズ(Larva Labs)が発行した1万点のキャラクター画像、クリプトパンクス(CryptoPunks)は現在、1点につき数百万ドルで取引されている。こうしたエディションもののNFTはコレクターズ・アイテムとして知られ、これまでのところ単一NFTよりも人気があるようだ。

──NFTは投資なのか?

とあるボットが、昨年11月、クリプトパンクスのNFTが過去最大の5億3200万ドルで取引されたとツイートした。だが、よく調べてみると、謎めいた買い手は実際には、そのクリプトパンクスを自分から購入していたことが明らかになった。本当の目的は定かではないが、こうした手に負えないやり方こそが、まさに、新しい収集カテゴリーであるNFTに終焉(しゅうえん)をもたらすと懐疑派は考えている。

他の暗号資産熱狂者たちは、ずっと真摯にNFT事業に取り組んでいるようだ。ビープルの作品の転売で約100倍の利益(660万ドル)を得たと伝えられる、投資家でコレクターのパブロ・ロドリゲス・フレイルや、暗号資産の億万長者ジャスティン・サンは、メタバースとアート界の溝を埋めようとしている。物理的なアート作品とデジタル作品の混合展示を通して促した両者の対話が、いまは一流アーティストだけが享受している、ある種の文化資本を将来、NFTに与えることになるかもしれないと、二人は考えている。(翻訳:野澤朋代)

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