ドイツ古城で「錬金術の道具」を発見──15~16世紀の蒸留フラスコが示す実験の痕跡
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
ドイツ・ザクセン州のグナンシュタイン城で、陶製の蒸留器が出土した。15~16世紀の城内実験を示す貴重な発見として注目されている。

ドイツ・ザクセン州にあるロマネスク様式の城、グナンシュタイン城で、設備工事に伴う発掘調査中に実験用とみられる陶製の蒸留フラスコが出土したとAncient originsが伝えた。
グナンシュタイン城は13世紀初頭、ザクセン地方を支配していた辺境伯に仕えた有力な一族によって築かれた。15世紀以降はアインジーデル家が500年以上にわたって所有し、城の拡張や改修を進めた。第2次世界大戦後には同家の財産没収により国有化され、現在は博物館として一般公開されている。円形の防御塔や宮殿棟、礼拝堂など、13世紀当初のロマネスク様式の構造が数多く残されており、考古学的にも重要な文化財となっている。
今回の発掘調査を担当したのはザクセン州考古学局(Landesamt für Archäologie Sachsen)だ。調査は新たな設備室の設置工事に伴うもので、城の西側に位置する、すでに撤去された前廊部分の周辺で実施された。その結果、過去に地盤が撹乱されていたにもかかわらず、調査チームは約30平方メートルに及ぶ近世のレンガ舗装を確認した。さらに16世紀初頭のものとみられる、部分的に緑釉が施された床タイルなどの遺物も発見された。
なかでも研究者たちの関心を集めたのは、3本の小さな脚を持ち、細長い首部が上方へ伸びる特徴的な陶器だった。外側には部分的に緑釉、内側には黄釉が施されている。研究者らはこれを日常的な台所用品ではなく、錬金術や初期化学の実験に用いられた蒸留フラスコであると特定した。
蒸留フラスコは、液体を加熱して蒸発させた後、その蒸気を冷却して回収するための器具だ。今回の出土品は、15~16世紀頃に行われていた蒸留技術の一端を示す貴重な考古資料と考えられている。

錬金術とは、古代から近世にかけて世界各地で発展した、物質の変成や生命の探究、宇宙の理解を目指す学問・技術・哲学・神秘思想の総合体系を指す。とりわけ西洋の錬金術では、卑金属を金へ変換し、不老長寿をもたらすとされた「賢者の石」の探究が大きな目標のひとつだった。
もっとも、中世から近世にかけての錬金術は単なる神秘思想ではなく、実践的な実験活動としての側面も強かった。錬金術師たちはさまざまな試行錯誤を重ね、その過程で初期化学や冶金学、医学の発展に大きく貢献したと考えられている。
グナンシュタイン城のあるザクセン地方では鉱業や冶金業が盛んで、硫酸や硝酸などの鉱酸を製造するために蒸留技術が広く用いられていた。これらの酸は金属加工や鉱石の品位試験に欠かせないものだった。また、薬草や種子、樹脂から精油や有効成分を抽出し、薬用チンキ(生薬を溶剤に浸して有効成分を抽出した液剤)を製造する際にも蒸留が活用されていた。
中世の蒸留技術が生み出した代表的な産物のひとつが、ラテン語で「命の水」を意味するアクア・ヴィタエ(aqua vitae)だ。これはワインを蒸留して得られる高濃度アルコールで、当時は薬効を持つ貴重な薬品として扱われていた。こうした繊細な蒸留作業には、酸性の調合物と反応したり腐食したりする金属製容器よりも、ガラスや陶器製の容器が好まれた。そのため、グナンシュタイン城で発見されたような陶製の蒸留器は、当時の実験や薬品製造の現場で重要な役割を果たしていたと考えられる。
ザクセン州考古学局によると、今回見つかった蒸留フラスコの容器内部からは分析可能な残留物が検出されなかったため、具体的な用途を特定することはできなかったという。同局は公式サイトで「この容器を用いた蒸留の方法については推測するしかありません」と説明している。
それでも、このような特殊な実験器具が城内から出土した事実は、グナンシュタイン城で何らかの科学的・実験的活動が行われていた可能性を示している。中世の城における日常生活や技術活動の実態を知るうえで、今回の発見は新たな手がかりとなりそうだ。

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