AIスロップ時代に「未来」を描くこと──リアム・ヤング「In Other Worlds」【EDITOR’S NOTES】
「スペキュラティブ・アーキテクト」としてSF的な未来像を描いてきた建築家・映像作家リアム・ヤングの大規模個展が、ロンドンのバービカン・センターで開催されている。生成AIによってSF的なイメージを容易に生み出せるようになったいま、「未来」を描こうとすることはいかなる意味をもつのか。

誰もが生成AIを使えば無数のイメージを生み出せるようになったいま、私たちが考える「未来」のイメージはどのような価値をもつのだろうか。ロンドンのバービカン・センターで開催されているリアム・ヤング(Liam Young)「In Other Worlds」は、そんな問いを引き受ける展覧会だった。
オーストラリア出身の建築家であり映像作家のリアム・ヤングは、かつてBBCから「未来をデザインする男(the man designing our futures)」と評されたとおり、まさに「未来」を描くことを仕事にしてきた。シンクタンク「Tomorrow's Thoughts Today」を主宰するほか、リサーチスタジオ「Unknown Fields Division」を共同設立し、ロサンゼルスの建築大学、The Southern California Institute of Architecture(SCI-Arc)では「フィクション・アンド・エンターテインメント」と題した修士課程を創設。一貫して建築とスペキュラティブ・フィクションをつなぐような活動を展開している。その作品の特徴は、巨大SF映画のようなスケールでありうる未来を細部までつくりこみ、鑑賞者をオルタナティブな世界の内側に立たせることにある。

ヤングにとってイギリス初の大規模個展となる今回の展覧会は3つのパートから構成されており、鑑賞者はバービカン・センターの中を移動しながらその世界に入り込んでいく。なかでも目を引くのは、本展のために新たに制作された《World Machine》だ。幅12メートルの投影に、実写とCGが融合し、再生可能エネルギーの発電網とAIのデータセンターが地表を覆い、地球そのものが演算する一つの「機械」へと変貌していく近未来が描かれる。AIの加速がもたらす惑星規模の風景——それはまさに、いま私たちが立っている地点の延長線上にある。
メイン会場となるエリアには、ヤングの代表作が展示される。全人類を一つの超高密度都市に集め、残りの地表を原野へと還す《Planet City》。ヴェネチア建築ビエンナーレで発表された、惑星規模の炭素除去インフラを集団的事業として描く《The Great Endeavour》。そして先住民の活動家ナターシャ・ワンガニーンと協働し、5万年というスケールでオーストラリアの変容をたどる《After the End》。さらに展示会場はバービカン・センターの地下駐車場へと続いていき、7面のLEDにドキュメンタリー連作《Future Present》が映像作品《Emissary》とともに展開される。リチウム鉱山からデータセンターまで、現実世界の風景を下敷きとしながら、リサ・ジョイ、SF作家のキム・スタンリー・ロビンソンや陳楸帆(チェン・チウファン)、AI研究者ケイト・クロフォードなど豪華なコラボレーターを招くことで、作品世界に厚みが生まれている。

SF作家やAI研究者との交流からもわかるように、ヤングは近年の生成AIブーム以前から積極的にデジタル・テクノロジーを取り入れ、ここにはない世界を描いてきた。そしてそれは単に未来的な風景ではなく、未来を想像することで気候危機や社会格差など現代社会が抱える問題を浮き彫りにするものでもあった。これまでヤングがつくってきた作品世界に没入できる空間をつくることで、本展は彼の問題意識をわかりやすく伝えていると言えるだろう。
しかし現地を訪れると、彼の描く風景がどこか古臭く見えてしまったことも事実だ。
というのも、この数年で急速に生成AIが発展したことで、かつてはSF超大作のように見えた彼の世界が、極めて「生成AI的」に見えてしまったのである。荒涼な大地の上に建つ巨大建築物、宇宙服のように未来的な服装に身を包んで活動する人々、霧がかかり薄暗いディストピア的な景色──それらが未来的なイメージとして人口に膾炙した結果、本来はヤングが独自の文脈のもとに組み上げてきた未来像が、SNS上に氾濫する「AIスロップ(AIによって粗製乱造されたコンテンツ)」が参照する視覚言語の原型のひとつとなってしまったのだろう(試しにChatGPTで「ディストピア的な未来の都市風景を描いて」などと打ち込めば、ヤングの劣化コピーのようなビジュアルが得られるはずだ)。

それはヤングの想像力が陳腐なわけではなく、現代の生成AIモデルがさまざまな建築家やアーティストの作品を学習してつくられているからでもある。加えて2025年にオンライン動画編集プラットフォーム「Kapwing」が実施した調査によって、画像・映像生成ツール「Midjourney」で最も参照された建築家がザハ・ハディドであることが明らかになるなど、未来的な建築・風景はもはや「リアム・ヤング風」「ザハ・ハディド風」といったプロンプトで安易に呼び出されるものになってしまっている。
もちろん、ヤングは精緻な実地調査や科学者・SF作家・先住民との対話を通じて作品をつくっているのであり、表層的なイメージだけを参照したAIスロップとは大きく異なっている。他方で、皮肉にも、アーティストではない私たちでさえ生成AIによって気軽にヤングのようなイメージを召喚できるようになったのも事実だ。かつてヤング自身が「未来は水のように私たちに降りかかるのではない。私たちに起こる何かではなく、創造の行為だ」と語ったように、生成AIによる大量の「未来」的なイメージが降り注いでくるいまこそ、ただ情報に流されるのではなく自らの意志を発動することが重要になっているのだとこの展覧会は教えてくれる。
リアム・ヤング「In Other Worlds」
会期:2026年5月21日(木)〜9月6日(日)
場所:バービカン・センター(Silk St, Barbican, London EC2Y 8DS)
時間:11:00〜19:00(火・水)、10:00〜21:00(木・金・土)、10:00〜19:00(日)
休館日:月曜