石原海は、映画監督兼アーティストだ。主な制作テーマは愛やジェンダー。政治や社会問題へも関心を向ける。大きな注目を集めたのは、東京藝術大学の卒業制作として制作された映画「忘却の先駆者」。記憶を失わなくなる薬の服用が義務付けられたオリンピック前の社会とアルツハイマーを患う母についての物語で、その後2019年にロッテルダム国際映画祭に正式出品された。近作の「重力の光」は、コロナ禍により留学先の英国から帰国し、引っ越した北九州で撮影したドキュメンタリー作品である。友人の親が牧師をする教会に約1年間通い、集う人たちによる聖書劇を主題にした。登場人物には、元生活困窮者もいる。社会にうまく適合できない状態にいる人や救いを求める人を肯定しようとする視線は、彼女の作品に共通した態度でもある。映画制作のほか、映像を基にしたインスタレーション作品も発表し、現代アートの領域でも高い評価を得ている。