今週末に見たいアートイベントTOP5: 日米著名コレクションで学ぶ「鑑賞のつぼ」、新旧作で見せる長島有里枝の「現在」

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》1602年頃、油彩/カンヴァス、 サンディエゴ美術館  Ⓒ San Diego Museum of Art
西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館(国立西洋美術館)より、フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》1602年頃、油彩/カンヴァス、 サンディエゴ美術館  Ⓒ San Diego Museum of Art

1. 西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館(国立西洋美術館)

マリー=ガブリエル・カペ《自画像》1783年頃、油彩/カンヴァス、 国立西洋美術館
フランシスコ・デ・スルバラン《聖母子と聖ヨハネ》1658年、油彩/カンヴァス、 サンディエゴ美術館 Ⓒ The San Diego Museum of Art
フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》1602年頃、油彩/カンヴァス、 サンディエゴ美術館  Ⓒ The San Diego Museum of Art
フランシスコ・デ・スルバラン《神の仔羊》1635–40年頃、油彩/カンヴァス、 サンディエゴ美術館 Ⓒ The San Diego Museum of Art

日米の著名コレクション対決で学ぶ「鑑賞のつぼ」

サンディエゴ美術館は、アメリカ西海岸で最初期に構築された充実した西洋古典絵画のコレクションを有し、国立西洋美術館は東アジアにおいて唯一の体系的な西洋絵画のコレクションを誇る。本展では、「作品をどのように見ると楽しめるか」という観点から、ルネサンスから19世紀末までの600年にわたる西洋美術の歴史を両館の所蔵品88点で紹介する。

関連する作品がペアや小グループごとに展示されており、比較して鑑賞することで、様々な角度から絵画が持つストーリーを深掘りできる内容となっている。例えば、18世紀末から19世紀初頭にかけて、フランスでは数多くの女性芸術家が活躍した。国立西洋美術館所蔵のマリー=ガブリエル・カペの《自画像》では、ボリュームを強調した巻き髪や淡いブルーのリボンとドレスがロココの雅なファッションを伝える一方、サンディエゴ美術館蔵のマリー=ギユミーヌ・ブノワの《婦人の肖像》は、ギリシャ彫刻を思わせる薄手の白いシュミーズドレスの上にショールをまとい、より簡潔な新古典主義の時代の到来を伝える対比が見られる。両美術館の個性的なコレクションが競演する貴重な機会となる展覧会だ。

西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館
会期:3月11日(火)~6月8日(日)
場所:国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)
時間:9:30~17:30(金土は20:00まで)
休館日:月曜(5月5日、5月6日は除く)5月7日


2. 玉山拓郎「Intervenes / Light and Table / Sound as Time / Hole」(ANOMALY)

「Anything will slip off / If cut diagonally」展示風景、ANOMALY、東京、2021 撮影: 大町晃平
「玉山拓郎:FLOOR」展示風景、豊田市美術館、愛知、2025 撮影: 大町晃平

2会場で展開する玉山の新たな実験

玉山拓郎は、日用品や家具といったファウンド・オブジェクトを用いたスカルプチャー、重力のズレを模倣した展示構成、映像や音響、そして鮮烈な照明や暗闇によって絵画的空間を創出するなど、最小の変化によって空間体験そのものをダイナミックに変えるアーティストだ。

豊田市美術館で現在開催中の玉山の個展「FLOOR」(5月18日)は、5つある展示室全体を貫く「巨大なただ一つの物体」のみを展示するという、前例のない壮観な展覧会となっている。この「FLOOR」と呼応する形で開催される本展は、アーティストが能動的に展覧会を構成するのではなく、周囲の環境や作品、そして関わる人といった状況をそのまま取り入れることで、展覧会の成立を試みる。より偶発的な操作と他者の意思によって形作られることで、両会場の展示と反響しあう、玉山の創作における新たな実験となっている。

玉山拓郎「Intervenes / Light and Table / Sound as Time / Hole」
会期:3月15日(土)~4月12日(土)
場所:ANOMALY(東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F)
時間:12:00~18:00
休館日:日月祝


3. 吉田志穂|ハルシネーション(Yumiko Chiba Associates)

©Shiho Yoshida / Courtesy of Yumiko Chiba Associates
©Shiho Yoshida / Courtesy of Yumiko Chiba Associates
©Shiho Yoshida / Courtesy of Yumiko Chiba Associates

現代における「写真」とはなにか

写真家、吉田志穂の新作個展。吉田は、第11回shiseido art egg入選(2017)、第46回木村伊兵衛写真賞(2020-21年度)など数々の賞を受賞してきた。デジタル、アナログ双方のスマートフォンを含むカメラや、複数の出力装置や技術、デジタルな画像情報の操作、ネガなどのアナログな画像操作を幾重にも組み合わせ、変形し、増幅させることで、現代において写真とはいかなるメディアなのかを探っている。

本展のタイトル「ハルシネーション(Hallucination)」は、AIが「もっともらしいが事実とは異なる情報を生成する現象」を指す。会場には新旧作を交えて展示され、客観的な実在や事実から出発するはずの写真が、亡霊的、幻影的諸相と交差する空間となっている。

吉田志穂|ハルシネーション
会期:3月15日(土)~5月10日(土)
場所:Yumiko Chiba Associates(東京都港区六本木6-4-1 六本木ヒルズ ハリウッドビューティープラザ 3F)
時間:12:00~19:00
休館日:日月祝、5月2日~6日


4. 「スペクトラム スペクトラム」(銀座メゾンエルメス フォーラム)

7作家が紡ぐ新たな幻想の物語

ブリュッセルと東京にある2つのエルメス・ギャラリーの協働によるグループ展。本展は、ブリュッセルにあるラ・ヴェリエールで開催された展覧会「Spektrum」を鏡のように映し出しながら、東京の銀座メゾンエルメス フォーラムで、新たなナラティブの構造を重ね合わせる対話の中で生み出された。

タイトルである「スペクトラム」とは、ドイツ語表記によるスペクトルで、物理的な現象の分布や範囲を表すと同時に、亡霊や幻視といった超自然的な存在を意味するなど、広い射程とグラデーションを持つ言葉だ。本展では、エマニュエル・カステランの巨大なキャンバス作品によって立ち上がる舞台や映画のセットのような空間に、川端健太郎のオブジェ、ユーモアに満ちた水の亡霊を路上にしかける題府基之の写真など、7人のアーティストによる物語が紡ぎ出される。ほか出品作家は津田道子、ヨハネス・ナ―ゲル、マリー・ローランサン、ヴァルター・スウェネン。

スペクトラム スペクトラム
会期:3月20日(木祝)~6月29日(日)
場所:銀座メゾンエルメス フォーラム(中央区銀座5-4-1‐8・9F)
時間:11:00~19:00(入場は30分前まで)
休館日:水曜


5. 長島有里枝 ガレージセール(MAHO KUBOTA GALLERY)

©︎Yurie Nagashima
長島有里枝 Idol collage (Self-portrait with Aya) 2016-2025 C-print, gelatin silver print, pencil
長島有里枝 Idol collage on Bull thistle 2017-2025 C-print, gelatin silver print, pencil
長島有里枝 G lying on so-fa 2019 写真乳剤、板

長島有里枝の「今」が詰まった個展

長島有里枝による2020年以来3回目となる個展。長島は、会期中に会場を自身のスタジオとして公開し、アーティストや来場者とともにパフォーマンスやイベントを開催した2023年の個展「長島有里枝 ケアの学校」(港まちポットラックビル、名古屋)など、近年の活動は作品制作にとどまらず多岐に渡っている。

本展では、愛猫・愛犬を捉えた新作のモノクロプリントや彫刻をはじめ、日常生活や家事の場面を切り取った「家庭について/about home」のシリーズやアメリカの各地でカメラにおさめた植物のシリーズ「wild flowers」 など、これまでに発表してきた作品に長島の手焼きプリントのコラージュや鉛筆のドローイングを加えて再構成し、新たな作品として展示する。長島は本展にあたって「手を動かして制作をしたかった」と語っており、新作のモノクロプリントは自身が暗室に入ってプリントした。本展で見られるセルフポートレイト、静物、動物、風景—これらは長島にとってかけがえのないテーマであると同時に、18世紀の女性アーティストたちが社会的な制約の中で選ばざるを得なかった数少ないモチーフでもあった。本展を通じて、長島がこれらのテーマにどのように向き合い、新たな表現へと昇華させているのかを見ていただきたい。

長島有里枝 ガレージセール
会期:3月21日(金)~4月26日(土)
場所:MAHO KUBOTA GALLERY(東京都渋谷区神宮前2丁目4-7)
時間:12:00~19:00
休館日:日月祝

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