雨漏り修復中の壁から古代ローマの墓が出土! 所有者のアーティストは「驚くべき偶然」と大喜び
フランス南東部の街ヴァンスに拠点を置くアーティスト、ジャン=シャルル・ブレの作業場から、古代ローマ時代に作られた墓跡が発見された。雨漏りの原因を探るために修理業者が漆喰の壁を剥がした際に発見されたこの遺跡によって、ブレは「次の作品のテーマを方向付けることができるかもしれない」と喜んでいる。
アーティストのジャン=シャルル・ブレが35年にわたって使用してきたフランス・ヴァンスのアトリエで雨漏りが発生し、修理業者が壁の漆喰を剥がして漏れの原因を探していたところ、古代ローマ時代に作られたモザイク画が発見された。
スタジオの壁を囲むように建てられたモザイク画は1〜2世紀頃に制作されたもので、古代ローマ帝国の支配下にあった当時、この地はヴァンティウムと呼ばれ、ローマ街道の中継地として重要な役割を果たしていた。当時建てられた建築物は主に旧市街に残っており、まれに遺物が出土することもあるという。
今年の夏に行われた修繕工事の最中に、ブレと業者はまず、ラテン語の碑文を発見した。そして残りの漆喰を削り落とすと、色あせた花弁の輪の模様が現れたという。
ブレが所属するオペラ・ギャラリーはこの発見を受けて、オックスフォード大学の教授、ロジャー・トムリンをはじめとする専門家に連絡をとった。「花弁の輪は、3つの墓碑銘の中央にそれぞれ掘られた装飾だと推測します」と語るトムリンによると、最初に出土した碑文には故人の名前が刻まれており、その後に墓を献呈した人(あるいは喪主)の名前が記されていた可能性があるという。墓には「CONIVGI」と書かれており、これはラテン語で妻もしくは夫を意味する。
また、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏のアルプ=マリティーム県で古代碑文学の博士号を取得したステファヌ・モラビトによると、この墓碑は西暦100年から300年の間に建てられたものだという。墓碑銘には「ヴァレリア・アプロニア」という人物の名前も記載されているが、墓に刻まれた名前と埋葬された人物が関係しているかは明らかになっていない。
モラビトは、「ヴァレリアという名は西ローマ世界で広く知られており、特に古代のマリティーム・アルプス地方で多く見られます。また、ヴァンスのこの地域では、過去数世紀にわたって10個ほどの碑文が出土しています」と説明する。
墓跡をブレの作業場から撤去する計画はないが、考古学者は周辺地域を調査し、さらなる古代の痕跡が見つかるかどうかを確認するという。
アトリエが採掘現場となったブレは、今後、どこで作業を続けるのだろうか。パリのオペラ・ギャラリーで開催されたグループ展「Transatlantic: Figurations of the 80s」に参加するなど、すでに多忙な1年を過ごしていた彼は、農業施設として使われなくなったこの建物を35年前に入手。敷地内には主な作業場となっている大きな中庭があるほか、聖職者が祭服を保管したり礼拝の準備をしたりするためにかつて使用されていた大きな部屋が1つと、小さな別館が2つ建てられている。ブレは、これらの建物は過去に礼拝堂として使われていたのではないかと推測している。
「この墓と暮らし始めたのは2年ぐらい前のことです。当初は科学や考古学に関する興味はまったくなく、漆喰の内側にあった文字は古代か中世初期のものなのではないかと思っていました。発見した当初は詩の断片かと思いました」
1956年にナントで生まれたブレは、1981年にベルナール・ラマルシュ=ヴァデルが主催した展覧会に作品を出展して注目を集めたベテランアーティストだ。1980年代に、抽象化された、あるいは粗く集約させた揺れの多い線を用いて人間を描くスタイルを確立したブレは、自身が収集する新聞やポスターでキャンバスを覆い尽くアプローチでも知られる。これには、「人々は他人にすべてをさらけ出すのではなく、断片的に開示するという意味が含まれている」という。ブレはこう続ける。
「私は、紙の層を塗り重ねたり剥がしたりして、覆い隠された人物の姿を明らかにし、変容させるという制作プロセスをとってきました。そんな私のアトリエから、こうした形で古代ローマ時代に作られた墓が発見されたことは驚くべき偶然だと言えます」
ヴァンスのような町では、古い家や町並みのなかで暮らすことになるが、「私は、新しさにはそれほど興味がなく、古代の形のが揺らぐことなく残り続けることに強い興味をもっています」とブレは語る。
ブレはこれまで、牧歌的な生活の美と知恵をテーマにした初期の牧歌詩集『Idylls of Theocritus』の影響を受けた作品を手がけてきたほか、フランス地中海沿岸に点在するエトルリア人の墓に触発された作品を制作し、アヴィニョンのランベール・コレクションで展示してきた。墓跡が今回発見された背景には、こうした絵画を保管していた倉庫が展覧会の準備のために空になったことも影響している。
運命的な出会いを古代ローマの墓跡と果たしたブレは、「今回の発見によって今後の作品のテーマを方向付けることができるかもしれません。テオクリトゥスの牧歌の次はローマを題材にしようと思います」と話している。(翻訳:編集部)
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