バスキアの真の姿に迫る新ドキュメンタリーが製作開始。監督は、リゾの元クリエイティブ・ディレクター
伝説的アーティスト、ジャン=ミシェル・バスキアの新しい長編ドキュメンタリー『King Pleasure』の製作が今夏開始される。バスキアの遺族が全面協力するという本作について、関係者に話を聞いた。
バスキアの遺族が全面協力
『King Pleasure』を手がけるのは、『VAL』や『ペプシよ、戦闘機はどこに?~景品キャンペーンと法廷バトル~』の制作会社、ボードウォーク・ピクチャーズ。監督は、シンガー&ラッパーのリゾ(Lizzo)の元クリエイティブ・ディレクター、クイン・ウィルソンが務める。ウィルソンはこれまで、ダンサー兼俳優のディタ・フォン・ティース、シンガーソングライターのキング・プリンセス、コメディアンのジウェ(Ziwe)などの作品にも携わってきた。
このプロジェクトにはバスキアの遺族も全面協力し、アーカイブ資料やオリジナル作品の使用を許可しているという。そのため、これまで未公開だったホームムービーやノート、写真、アニメーション、インタビューなどがふんだんに盛り込まれる予定だ。
なお、『King Pleasure』はバスキアに関して製作準備中の最新プロジェクトで、バスキアに関しては、ステファン・ジェームズが主演を務める限定TVシリーズもある。
バスキアは、死後35年が経とうとしている今も話題に事欠かないアーティストだ。赤、黄、青などの線が入り混じる黒い頭がい骨を描いた無題の絵が、2017年には1億1000万ドル(約123億円)を超える価格で前澤友作によって落札され、昨年は、オーランド美術館がバスキア作品として展示した25点の絵が、FBIの強制捜査により偽物と判明するという事件も起きた。
バスキアは、70年代後半のニューヨークのグラフィティ・シーンで頭角を表し、アンディ・ウォーホルとも親交を持った。ホイットニー・ビエンナーレの最年少アーティストの1人になるなど時代の寵児となったが、1988年、ヘロインの過剰摂取により27歳の若さで亡くなった。
新作ドキュメンタリーのエグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねるバスキアの二人の妹、リサーン・バスキアとジェニーン・ヘリヴォーは、昨年、ニューヨークとロサンゼルスでバスキアの人生と作品を振り返る展覧会「Jean-Michel Basquiat: King Pleasure」をキュレーションし、200点あまりの作品を紹介した。また二人は、継母にあたるノラ・フィッツパトリックとともに、絵画、ドローイング、写真、VHS映画、アフリカ彫刻のコレクション、おもちゃといったバスキアの私物や思い出の品々を、何年もかけて調査してきた。
固定化されたバスキアのイメージを打ち砕け!
ボードウォーク・スタジオ社長のジョーダン・ウィンは、「ジャン=ミシェル・バスキアは稀代のアーティストであり、人々の想像力をかき立て刺激し続ける作品を多数遺しました」と語り、こう続けた。
「リサーンとジェニーンをはじめバスキアの遺族の皆さんが、貴重な資料の数々を私たちに提供してくれたことを光栄に思います。そして、バスキアの人生を、その内面の機微にまで分け入って描こうというビジョンを持つクイン(・ウィルソン)とのコラボレーションがとても楽しみです」
またウィルソンは、こう抱負を述べた。
「バスキアの家族が語ってくれた逸話や回想を通して、彼をより深く理解することができました。そこには、多作なアーティストだったバスキアについて、これまで語られてきたこととは異なる発見がありました。そして、未公開の作品や今まで知られていなかった考え方、ゆかりの品々を通して、この伝説的人物についての固定化された認識を打ち砕くような、新たな物語を発掘できたのです。ドキュメンタリーを通して、バスキアの人生の物語を正当に評価し、アーティストとしてだけでなく1人の人間としての姿に光を当てられることを楽しみにしています」
リサーン・バスキアとジェニーン・ヘリヴォーはこう付け加えた。
「ジャン=ミッシェルは、アートは世代を超えて生き続けること、そして自分の死後も、自らのアートが、私たち人間が生きること、その経験の真の意味を明らかにし続けることを理解していました。兄の人生をめぐっては、誤った言説も少なくありませんでした。今回のプロジェクトを通じて、私たちが心から愛した兄の遺産を再び世に送り出すことができるのを本当に嬉しく思います。ボードウォークやウィルソンが一丸となって、美しく、奥深く、力強い新しいドキュメンタリーで、兄の人生の物語をよみがえらせてくれることでしょう」(翻訳:清水玲奈)
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