コロナ禍で米国の芸術産業がGDPの2倍も縮小
全米芸術基金(NEA)と米国商務省経済分析局(BEA)が先頃発表した報告書で、芸術産業がコロナ禍によって受けた影響が米国経済全体を大きく上回るものだったことが明らかになった。
報告書によると、2019年から20年にかけて、米国の芸術産業はGDP縮小率のほぼ2倍の割合で縮小。この間、新型コロナウイルス感染症の影響により、全米で美術館やギャラリー、娯楽施設が休業を余儀なくされ、140万人近い失業者が出た。
NEAによると、芸術関連業界は回復しつつあるものの、コロナ禍前のレベルには達していない。しかしNEAは、この分野が「規模と多様性」によって米国経済における重要な役割を維持したと述べ、その経済価値について前向きな見通しを示している。
報告書では、芸術・文化の35部門から経済データを集計。大方の予想通り、最大の打撃を受けたのは舞台芸術で、前年比73%減以上となり、米国経済において石油掘削や航空輸送と並ぶ落ち込みを記録した。これに続くのが映画産業で、映画製作が大幅に中断されたことで13万6000人の雇用が失われた。また、新たな芸術・文化施設の建設も前年比24.3%減となっている。
芸術産業全体の失業率は、2019年の3.7%から2020年には10.3%に増加したが、2021年は7.2%まで低下した。ただし、自営業者は統計の対象外となっている。
米国では1日あたりの新型コロナ新規感染者、入院患者数ともに減少傾向にあることから、芸術産業は今年、損失をある程度取り戻すと見込まれている。過去1年間の推移を見ると、舞台芸術部門の収益は第3四半期に倍増し、2020年には8億3400万ドルまで落ち込んでいたのが、2021年には17億ドルまで回復した。それでも、2019年の127億ドルにはほど遠い。
一方で、コロナ禍で拡大した分野もある。ほとんどの対面型イベントが中止となったため、オンラインによる出版やストリーミングに多額の投資が行われた。この分野の新規雇用は1万2000人に達し、収益は14.3%と大幅に増加。結果として、2020年の米国の芸術産業の市場規模は8767億ドルとなった。
NEAのロザリア・ジャクソン議長は声明で、次のように述べている。「米国全体の芸術・文化産業とその従事者は大きな打撃を受けたが、今回発表されたデータが示すように、この分野は米国経済において大きな役割を果たし続けている。NEAは芸術・文化分野の復活に重要なパートナーとして協力する意向であり、芸術は経済的価値だけでなく、個人やコミュニティの生活を改善し、健康や幸福、回復力の増進に貢献できるものと考えている」(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月23日に掲載されました。元記事はこちら。