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アジアの秋のオークションはロスコが50億円で最高額。草間は8億円、奈良は6億円

アート市場の低迷が続く中、11月上旬に香港のサザビーズと上海のクリスティーズで近現代アートのイブニングセールが開催された。アメリカ大統領選挙後初のオークションということで注目された2都市の売上げは、やや温度差のある結果となった。

マーク・ロスコの作品として初めてアジアのオークションに出品された《Untitled (Yellow and Blue)》(1954)。Photo: Courtesy of Sotheby's

ロスコが最高額、ウォーホル作品は不落札

11月11日、サザビーズ香港の近現代アート・イブニングセールが、ランドマーク・チャーターにある新メゾンで開催された。予想落札総額3億7780万から5億900万香港ドル(直近の為替レートで約76億〜102億円、以下同)のところ、結果はこの範囲に収まる4億950万香港ドル(約82億円)。出品27点中5点が不落札となり、落札率は81.5%だった。

不落札作品には、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーン作品《キャンベル・スープII》(1969)のアーティストプルーフ(10枚組)も含まれる。同作品の予想額は450万から650万香港ドル(約9000万~1億3000万円)と見られていた。

一方、落札最高額となったのは、マーク・ロスコの《Untitled(Yellow and Blue)》(1954)で、2億2500万から2億7500万香港ドル(約45億〜55億円)の予想額に対し、2億5250万香港ドル(約50億円)で決着した。これは長辺約240cmの大型作品で、歴代の所有者にはアメリカの銀行家ポール・メロンや、フランスのラグジュアリー・コングロマリット、ケリング創業者のフランソワ・ピノーがいる。

《Untitled(Yellow and Blue)》は、2015年5月にサザビーズ・ニューヨークで行われたイブニングセールで4650万ドル(約72億円)で落札され、その後マレーシアの金融詐欺師、ジョー・ロウの手に渡った。ロウは、マレーシアの政府系投資会社1MDBによる資金流用事件の主犯格とされる人物だ。今回は保証付き(*1)かつ取り消し不能入札の扱いで出品され、アートアドバイザリー会社パティ・ウォン&アソシエイツが個人コレクターの代理でオークションに参加し、2人の電話入札者に競り勝っている。


*1 作品を出品してもらいやすくするため、オークションハウスが一定の金額で購入することを事前に出品者に保証すること。
25年以上個人蔵だった草間彌生の《Hat(帽子)》(1980)。Photo: Courtesy of Sotheby’s

草間彌生による大型のアクリル画《Hat(帽子)》(1980)も高額を付け、予想落札額3800万から5500万香港ドル(約7億6000万〜11億円)のところ、4380万香港ドル(約8億8000万円)で落札されている。草間作品の最大規模かつ最も貴重なコレクションを所有する精神科医、高橋龍太郎が出品したもので、保証付き+取り消し不能入札のプレミアムロットだった。

ジョージ・コンドの油彩画《Red, White and Black(赤、白、黒)》(2014)も保証付き+取り消し不能入札だったが、落札額は2500万から3500万香港ドル(約5億〜7億円)の予想を下回る2040万香港ドル(約4億円)にとどまった。また、草間彌生の《Nets – Infinity(無限の網)》は、予想落札額1100万から1400万香港ドル(約2億2000万〜2億8000万円)をわずかに下回る1000万香港ドル強(約2億円)で落札されている。

シー・フー(石虎)による三連画《Heaven(天国)》(2017)の落札額は、同作家のオークション新記録となった。Photo: Courtesy of Sotheby’s

一方、予想を上回ったのは、シー・フー(石虎)が紙に描いた三連画《Heaven(天国)》(2017)だ。120万~220万香港ドル(約2400万~4400万円)の予想に対し、780万香港ドル(約1億5600万円)で落札され、シー・フー作品の落札最高額を樹立。また、オークションデビューとなるマリア・クレインの《Gravity(重力)》(2023)も、予想額100万から150万香港ドル(約2000万~3000万円)を大きく上回る400万香港ドル強(約8000万円)で落札された。

当初予定されていたザオ・ウーキー(趙無極)の《02.01.65》(1965)が出品取り下げになったことから、1億香港ドルを超えた作品はロスコのみという結果に終わった。ウーキーの《02.01.65》は162 × 200 cmの油彩画で、8000万から1億2000万香港ドル(約16億~24億円)と、この夜のオークションで2番目に高い予想落札額が見込まれていた。また、ウーキーの別の絵画《Sans titre(無題)》(1950)は、550万から800万香港ドル(約1億1000万~1億6000万円)の予想落札額で出品されたが、不落札となっている。

上海のクリスティーズ、最高額はザオ・ウーキー

一方、11月7日にクリスティーズが上海で開催した20世紀・21世紀美術イブニングセールの落札総額は1億5080万元(約32億円)。28ロット中3ロットに入札者がなく、落札率は89.3%だった。

ザオ・ウーキー《30.09.65》(1965)。Photo: Courtesy of Christie’s

このオークションで最高落札額を出したのは、ザオ・ウーキーの抽象画《30.09.65》(1965)で、予想額4500万から6500万元(約9億5000万~13億7000万円)のところ、6460万元(約13億6000万円)で決着した。前回オークションに登場したのは2021年10月に行われたサザビーズ香港のモダンイブニングセールで、今回と同じアジアの匿名コレクターによる出品だった。このときの予想落札額は今回を大きく上回る7000万から1億香港ドル(約14億~20億円)だったが、買い手が付かなかった。

それに次いで高額だったのは奈良美智による無題の絵画作品(2007)で、予想落札額が3000万から5000万元(約6億3000万~10億5000万円)のところ、3050万元(約6億4000万円)で落札された。また、草間の《PUMPKIN [TOWHT] BLUE(かぼちゃ [TOWHT] ブルー)》(2005)は、1000万から1500万元(約2億1000万~3億1500万円)の予想額に対し、1540万元(約3億2300万円)で落札。ニコラ・パーティの静物画は、予想額700万から1000万元(約1億4700万~2億1000万円)のところ、820万元(約1億7200万円)で落札されている。

予想最高落札額を上回る落札は合計9点で、上記の草間作品のほか、サンユー(常玉)の水墨による肖像画《Femme au chapeau rouge(赤い帽子の女)》が、予想落札額80万〜180万元(約1680万~3780万円)を大きく上回る420万元(約8820万円)で落札されたほか、1960年代にマルク・シャガールが紙に描いた作品2点が、予想の4倍を超える落札額となった。また、メフディ・ガディアンルーの絵画《In the Empire of Sun(太陽の帝国にて)》、リー・チェン(李真)のブロンズ彫刻《Sky(空)》、シュエ・ソン(薛松)の《The Dao from Nature Series —— A Blaze of Purple and Red(自然からの道シリーズ——紫と赤の炎)》、ヴォイチェフ・コヴァジークの《Apollo and Daphne(アポロとダフネ)》、ジュ・ティン(鞠婷)の《Ambre 060920(琥珀 060920)》が、いずれも100万元(2100万円)を超える価格で落札されている。

2019年に発見された月隕石。Photo: Courtesy of Christie’s

珍しいところでは、個人コレクターから月隕石の破片(Tisserlitine 001)が出品されている。約41 × 36 cmで6ミリほどの厚さがある長方形に近い破片は、「地球上にある2番目に大きな月の隕石から切り取られた」もので、重さは約2キログラム。しかし、この月隕石のへの関心はそれほど高まらず、落札額は200万~300万元(約4200万~6300万円)の予想を下回る180万元(約3780万円)足らずに終わった。(翻訳:清水玲奈)

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