投資リターンは「ほぼゼロ」でセルスルー率も悪化。2024年春期オークション結果は「今世紀最悪」

このほど発表された報告書によると、アート市場の2024年スプリングオークションは、「総合的に見て今世紀最悪の結果」だったという。リピートセールスに着目した手法などで分析された結果の要旨をお伝えする。

最新の報告書によると、この春クリスティーズ、サザビーズ、フィリップスで行われたオークションの結果は「これ以上ないほどのひどさ」だったという。

JPメイ&MAモーゼス・アートマーケット・コンサルタンシー(JP Mei & MA Moses Art Market Consultancy)のベテランアナリスト、マイケル・モーゼスとジャンピン・メイがこのほど発表した報告書によると、今年の春期オークションの結果は、今世紀になって最悪だったという。モーゼスはニューヨーク大学のスターン・スクール・オブ・ビジネスで教授を務めた経歴があり、メイは現在、北京の長江商学院で教授をしている。

「振るわなかった2024年春期オークション:利益面ではこれ以上ないほどのひどさ(How Bad Was the Spring 2024 Auction Season? Financially as Bad as It Gets)」と題されたこの報告書では、過去24年間にクリスティーズサザビーズフィリップスで取引された約5万点のリピートセールス作品(複数回売買された作品)を分析している。対象となったのは、世界各地のオークションで1970年以降に初めて購入された作品だ。

US版ARTnewsの取材にモーゼスはこう答えている。

「私たちの方法論はとてもシンプルです。アート市場を研究する最も良い方法はリピートセールスを見ることだと私たちは考えています。この手法では、市場でどの程度のリターンを得られるのか、事実に基づいて分析することができます。つまり、収益だけを見るのではなく、投資で得られたリターンを見るのです」

過去2年のオークション売上高は、概観しただけでも精彩に欠けるとわかる。その低調ぶりを具体的な数字として詳しく示したのが、ファインアートに関する複数の指標を2016年にサザビーズに販売した実績を持つJPメイ&MAモーゼス・アートマーケット・コンサルタンシーの報告書だ。

同報告書では、個々のリピートセールス作品について、購入から売却までの価格変動の年複利収益率(CAR)を算出。それによると、この春に取引されたリピートセールス作品の平均リターンはほぼゼロで、2000年以来最低だという。これまでの最低記録は金融危機の最中にあった2009年の0.02%で、最高記録は2007年の0.13%だった。報告書には「この春に売れた作品の平均リターンは、ほぼゼロの0.01%で、今世紀最低の水準だった」と書かれている。

2024年春期オークションの結果が振るわなかったのは、オークションハウス各社が作品の値付けを誤ったからではなく、市場に出る作品が多すぎるからだとモーゼスは考えている。

「歴史的に見て、市場に出回る美術品の量は劇的に増え、平均価格も大幅に上昇しています。オークション各社はある意味、自らの首を絞めかねないほどの勢いで価格を高騰させているのです」

アート市場が反落——昨今の言い回しでは調整——すると、投資家はより大きなリターンが期待できる別の資産クラスに惹かれるようになるとモーゼスは言う。

「たとえば、S&P500は目を見張る勢いで高騰しています。ここ4、5年のリターンを見れば、人々がそちらに投資したいと考えるのも当然でしょうし、ほかにもさまざまな要因があります。以前とは環境が変化してきているので、オークションハウスが戦略を変えるのは理にかなっています。需要がこれまでと同程度なら、供給を減らさなければなりません」

同報告書では、半期ごとのセルスルー率も調査している。それによると、2023年は競売にかけられた全作品の24%が売れなかったが、2024年は3分の1の作品が売れ残り、2006年以来最悪となった。

調査を行ったモーゼスは、この結果をどう見ているのだろうか?

「これほど悪いとは思っていませんでした。アート市場が低迷していると認識はしていましたが、2000年と比較してみて、改めて相当ひどい状態だと驚かされました」(翻訳:野澤朋代)

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