「バナナによってアルバムはエロティックなアートに」──ウォーホル作品が史上最高のアルバムジャケットに決定!
8月7日、米ビルボード誌が史上最高のアルバムジャケット100選を発表。第1位の栄誉に輝いたアルバムに施された「アートな仕掛け」を紹介しよう。
アンディ・ウォーホルがプロデュースしたアルバムが第1位に
史上最高のアルバムジャケットに選ばれたのは、ロバート・メイプルソープがパティ・スミスを撮影した『ホーセス』でも、ピーター・ブレイクと妻のジャン・ハワースが共同制作したビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』でも、カニエ・ウェスト(Ye)がジョージ・コンドに依頼したものでもない。
100選のトップに立ったのは、1967年のアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』。ジャケットアートを手がけたのはアンディ・ウォーホルだ。
ロックを少しでもかじったことがある人なら、これは議論の余地のない結果だと思えるだろう。しかし、ソーシャルメディアでは「トップがバナナって本気?」と疑問を呈する投稿が複数あったことから、ビルボードのランキングをめぐる論争が巻き起こった。
アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』が不人気だった時代があるなど、今では考えられないかもしれない。だが、実際のところ、1967年の発売当初は鳴かず飛ばずだった。しかし現在は、攻撃的なサウンドと破壊的な歌詞が、その後の音楽シーンに登場したさまざまなトレンドの先駆けになったとして高く評価されている。
ウォーホルは、このアルバム制作の舞台裏でも大きな役割を担っていた。そもそも、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのメンバーに、シンガーソングライターのニコを引き合わせたのがバンドのマネージャー役を務めていたウォーホルなのだ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとニコは、ウォーホルがプロデュースした大規模イベント「Exploding Plastic Inevitable」にも出演したが、商業的な成功には至らなかった。
ウォーホルの伝記を書いた美術評論家ブレイク・ゴプニックによると、『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』はビルボード200チャートで最高171位にとどまり、1967年から69年までの印税額はわずか2万2000ドル(現在の為替レートで約320万円)にすぎなかったという。
さらにマネージメント会社であるウォーベルによって5分の1が徴収されたため、当時の金銭価値からしてもわずかな報酬額にしかならなかった。ちなみに、1982年にブライアン・イーノが、このアルバムは最初の5年間で3万枚程度しか売れなかったと発言している。
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』は、数多くのラジオ局に放送を拒否された。歌詞に含まれる麻薬取引やSM行為に関する部分が不適切と見なされたからだ。それがアルバムの売れ行きが振るわなかった一因だが、アルバムジャケット自体も理由の1つだろう。バナナというポップなイメージの裏には、暗示的な意味が溢れている。
アルバムジャケットに意外性を持たせたアートな仕掛け
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』のジャケットには、表面からはわからない仕掛けがあった。ウォーホルは、デザインにインタラクティブな要素を持たせたのだ。実は、バナナの皮はシールになっている。ヘタの部分には小さく「ゆっくりと剥いてから見てください」と書かれていて、シールをはがすと下からピンク色の果肉が出てくる。
ゴプニックはこれを包皮を剥くことになぞらえ、このジャケットが「ウォーホルのファクトリー(スタジオ兼サロン)が体現する明確なクィアカルチャーと、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの世界を合致させた」と評した。一方、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのフロントマン、ルー・リードは、「バナナによって、アルバムはエロティックなアートになった」と表現した。
実際、ウォーホルはほかにも「エロティックなアート」をミュージシャンのために制作している。ローリング・ストーンズの1971年のアルバム『スティッキー・フィンガーズ』のジャケットは、ジーンズをはいた男性の股間のクローズアップ写真で、片側にふくらみがはっきりと見える。また、本物のジッパーが付いていて、下ろすと下着が見えるようになっていた。なお、後に再発売されたときにはジッパーはなくなり、ウォーホルが撮影した写真だけが使われている。
『スティッキー・フィンガーズ』は『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』とは対照的に発売当初から大評判となり、ウォーホルはデザイナーのクレイグ・ブラウンとともにグラミー賞にノミネートされた。また、アルバム自体もビルボード200チャートの第1位に輝いている。(翻訳:清水玲奈)
from ARTnews