NADAニューヨークのベストブース5選。“水平にこだわる”、“NFTなんてクソ食らえ”ほか
NADA(New Art Dealers Alliance〈ニュー・アート・ディーラーズ・アライアンス〉)によるアートフェア、NADAニューヨークが5月5日~8日に行われた。2018年以来4年ぶりの開催だったが、120ものギャラリーが集結した。
今回は、かつての会場だったピア36に戻っての開催となった。一時、ウエストサイドに移転していたが、そこが2018年にグーグルに買収されたためだ。NADAのディレクター、ヘザー・ハッブスは、「ピア36でスペースを確保するのも大変だった」と5月5日のオープニングで述べている。
企画を担当したのは、新進気鋭のキュレーターでギャラリストのケンドラ・ジェイン・パトリック。会場には小さなセクションが設けられ、その中では以下5つの個展も行われた(アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。
Joeun Kim Aatchim/Harper’s(ジョウン・キム・アチム/ハーパーズ)
Teresa Baker/de boer(テレサ・ベイカー/デ・ブール)
Elliot Reed/anonymous gallery(エリオット・リード/アノニマス・ギャラリー)
Elif Saydam/Franz Kaka(エリフ・サイダム/フランツ・カカ)
Quay Quinn Wolf/Jack Barrett(キー・クイン・ウルフ/ジャック・バレット)
ディレクターのハッブスは、「キュレーションされたセクションは、来場者に何を伝えようとしているかが分かりやすい。これを続けていけば、ギャラリーが出展申請する際の参考にもなるだろう」と言う。
パトリックの企画はもちろん、フェアにはほかにも見どころが満載だ。今年のNADAニューヨークの中で特に優れた5ブースをARTnewsが選んだ。
Rachael Browning/Moskowtiz Bayse(レイチェル・ブラウニング/モスコウィッツ・ベイズ)
レイチェル・ブラウニングの写真は、地面やサボテンの茂みなど様々な風景を撮影しているが、被写体とカメラのバランスを水平にしてから撮影することにこだわる。ブラウニングは、そのための道具を積み込んだピックアップトラックで全米を回り、撮影の際には気泡水準器の泡が真ん中で静止するくらいまで水平にしている。ギャラリーの共同経営者、アダム・モスコウィッツによれば、「解決するための問題は自ら作り出す」のだ。モスコウィッツの見方では、ブラウニングの作品には1970年代のランド・アーティストたちがマチズモ(男性的な力の誇示)によって周囲の環境に大規模な破壊を加えたことへの批判が込められているという。それに対し、ブラウニングは自然への影響を最小限に留めながら、大きなインパクトを生み出すことを意図している。
Luke Parnell/Macaulay & Co.(ルーク・パーネル/マコーリー& Co.)
ニスガ族とハイダ族の血を引くカナダ人アーティスト、ルーク・パーネルは、「人は自分の文化とトラウマを背負っている」というコンセプトのもと、マコーリー& Co.のブースに3つのボックスドラム(箱型の太鼓)で構成される作品を出展。子どものお祭り用に作った太鼓を再利用したもので、中央の太鼓には背負いひもが取り付けられている。最も良い響きを生むとパーネルが言う一番大きな太鼓は、自らの文化と祖母たちの象徴で、彼はその重みを背負うことを喜びとする。これに対して、一番奥にある小さな黒い箱は、カナダ全土で先住民女性が行方不明になったり殺害されたりしている危機的状況など、自らのコミュニティにおけるトラウマを象徴している。「黒い箱が一番小さいのは、これ以上大きいと背負うには重すぎるからだ」とパーネルは言う。背負いひもを取り付けた中央の太鼓が表すのは、他の箱とのバランスを取るための支点に見立てたパーネル自身なのだ。
Oluseye/Patel Brown Gallery(オルセイ/パテル・ブラウン・ギャラリー)
ナイジェリア系カナダ人アーティストで、最近トロント現代美術館でも作品が展示されたオルセイは、パテル・ブラウン・ギャラリーのブースで「Plowing Liberty(自由を耕す)」シリーズの作品を数多く発表した。これらの作品は、オルセイが米国やカナダのノバスコシア、オンタリオで収集したホッケー用スティック、農具などを素材とし、米国独立戦争でカナダに逃れた王党派(英国を支持した一派)の黒人コミュニティ、プレストンの知られざる過去をテーマとしている。カナダに定住した王党派の黒人たちは、耕すことのできない荒地を与えられ、食うや食わずの生活を強いられた。「Plowing Liberty」シリーズでは、重労働を象徴する農具と、カナダで長年にわたって黒人選手が活躍してきたにもかかわらず白人が支配的なスポーツの象徴であるホッケー用スティックを対比している。
Jeremy Couillard/Denny Dimin Gallery(ジェレミー・クイヤール/デニー・ディミン・ギャラリー)
デニー・ディミン・ギャラリーは、ニューメディアアーティストのジェレミー・クイヤールによる作品の販売に、“革新的”な方法を採用している。クイヤールの作品《Fuzz Dungeon(ファズ・ダンジョン)》は15レベルのゲームで、ライブストリーミング配信プラットフォームのTwitch(ツイッチ)上で年中無休・24時間配信されている。歌や会話で混沌としたゲームは、私たちが絶え間なく体験しているコンテンツの無限の流れを映し出すものだ。今ではNFTとして販売されそうな作品だが、ギャラリーはゲームをダウンロードしたパソコンでの販売を選択した。ギャラリーの共同経営者、ロバート・ディミンは、「私はモノが好きなんだ」と説明し、「NFTなんてクソ食らえ」と付け加えている。クイヤールの版画2点、シイダ・ソレイマーニーとスティーブン・ソープの作品も展示された。
Florencia Escudero/Kristin Lorello(フロレンシア・エスクデロ/クリスティン・ロレロ)
アルゼンチンの彫刻家フロレンシア・エスクデロの作品は、柔らかな素材を主に用いているが、樹脂やガラス、金属の鎖やスピーカーを組み合わせていることからずっしりとした印象を与える。クリスティン・ロレロのブースで展示された4作品のうち、特に目を引いたのが《Gitana(ヒターナ)》(2021)だ。ヒターナとは、ジプシー(ロマ)の女性を意味する。デジタルプリントされたサテンでできたキノコのような形の像で、キノコの太い茎から、樹脂でできた顔がのぞき、その他にも様々な器具で飾られている。ブースではさらに、メキシコのアーティスト、ルシア・イノホサ・ガクシオラによる樹皮、石、枯葉などの自然素材とブリキのバケツ、キーボードを組み合わせた実験的なサウンドアートも展示された。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月5日に掲載されました。元記事はこちら。