実は熱心なアートコレクター! トム・クルーズはいかにして膨大なコレクションを築いたのか【アートを愛するセレブたち Vol. 14】

自宅を一歩出れば人だかりができ、常にパパラッチに追われるセレブリティたち。気軽にギャラリー巡りもできない彼らは、一体どうやってアートを収集しているのか。トップ中のトップセレブリティ、トム・クルーズの場合を見てみよう。

今年7月、ニューヨークで行われた『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のプレミアに出席したトム・クルーズ。Photo: Reuters/Aflo

「僕が映画を作りたいと思ったのは4歳のとき。飛行機に乗って冒険をしたいと思っていました。アクションヒーローのようにパラシュートで落下するシーンを体験したくて、ベッドのシーツを使って屋根から飛び降りたことも。ただシーツを汚しただけで終わってしまいましたが(笑)」

2022年、『Observer』誌にこう語ったのは、言わずと知れた世界のトップ俳優のトム・クルーズだ。20237月に最新作『ミッションインポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のプロモーションで25回目の来日を控えていたが、ハリウッド映画俳優組合のストライキの煽りを受け、惜しくも中止となったことも記憶に新しい。

1981年の『エンドレス・ラブ』で映画デビューを飾って以来、『トップガン』シリーズや『ミッション:インポッシブル』シリーズ等の代表作にも恵まれ、今や世界の映画界の頂点に君臨するクルーズは、ビンテージカーから世界大戦中に実際に使された戦闘機まで、自身の琴線に触れるものを収集する熱心なコレクターとしても有名だ。しかしその一方で、実は本格的なアートコレクターでもあることはあまり知られておらず、『Observer』誌のインタビューでは、こうも話している。

「私は自分を追い込んで、常に映画の役に立つことを念頭におきながらいろいろな技術を磨き、様々なものを収集してきました。これは、一見すると強迫観念のように思われるかもしれません。しかし調べてみると、実は“Art”の語源には“Skill(技術)の意味があることを知りました。つまり技術の習得とモノの蒐集には関連性があり、私がやっていることもあながち的外れではなかったということです」

1985年、マドンナの結婚式にアンディ・ウォーホル(左から2番目)やキース・ヘリング(左から3番目)らと向かうトム・クルーズ(中)。Photo: mptvimages/Aflo

熱心なアートコレクターとしての顔

クルーズは2015年に『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のプロモーションで訪れたロンドンのメイフェアでギャラリー巡りをしているところをキャッチされるなど、アートに対しても並々ならぬこだわりを見せてきた。そんな彼をアートアドバイザーとして支えているのが、バーバラ・グッゲンハイムだ。すでに30年超にわたる付き合いだという二人は、二人三脚で独自のコレクションを築き上げてきた。

コロンビア大学で美術史の博士号を取得したグッゲンハイムは、大学で教鞭をとる傍ら、ホイットニー美術館で講義を行い、オークションハウスのサザビーズとクリスティーズに勤務した経験を持つ。その後、パートナーのアビゲイル・アッシャーとともに自身のアート・コンサルタント会社「グッゲンハイム・アッシャー・アソシエイツ」を創設。コカ・コーラやソニー等の大企業から、トム・クルーズやスティーブン・スピルバーグ等セレブリティのプライベートコレクション構築をサポートしてきた。

「トム・クルーズとは長い付き合いですが、非常に力強く躍動感に満ちたポジティブな作品を好む傾向があります。彼のコレクションは、確立された伝統的なアーティストによるものから、現代アートの王道まで、とてもバリエーション豊か。以前はトムと一緒にギャラリーやオークションに出かけていたのですが、ある時、車からたった“10歩いただけで300人超の人々に囲まれてしまったんです。彼に限らず、ほとんどのセレブリティはオークションやギャラリーに気軽に足を運ぶことができない。だからこそ、私のような代理人が必要なのです」

こう語るグッゲンハイムは、守秘義務からクライアントであるクルーズのアートコレクションの詳細を一切明かすことはないが、そのミステリアスなコレクションの数はかなり膨大だという。

今年8月、ニューヨーク・アカデミー・オブ・アートのイベントに出席したバーバラ・グッゲンハイム(写真中)。アーティストのレベッカ・モーゼス(左)とデザイナーのダナ・キャランとともに(右)。Photo: bfa.com/Aflo

アート好きなDNAを受け継いだ娘イザベラ

そんな彼のDNAは、ニコール・キッドマンとの間にもうけた娘のイザベラベラに確実に受け継がれている。彼女は、トムとニコールが12年間の結婚生活にピリオドを打った2001年、メイクアップアーティストを目指してヴィダル・サスーン・アカデミーに入学したのと同時にロンドンに移住。以降、常にスポットライトを浴びる両親とは真逆の普通の生活を送っていた。しかし、2021年にミュージシャンで俳優のコートニー・ラブが主催したアート展にスターゲストとして自らの作品を展示したことを機に、現在はアーティスト活動を精力的に行っているという。

自身の芸術を掘り下げるストイックな求道者

1985年にはアンディ・ウォーホルの手がけた自身の肖像画がInterview』誌のカバーを飾り、2022年には全世界で5千万人を超えるプレイヤーとファンを持つトレーディングカードゲームソフトマジック:ザ・ギャザリング」のキャラクター、ツーヘッドゾンビの着想源にもなるなど、常に多方面のクリエイターの芸術心を刺激し続けるトム・クルーズ。そんな彼は、自身の追求する芸術(映画)について、20237月にCNNのインタビューでこう語っている。

「私たちはこれまで、映画づくりでは世間をあっと言わせるようなことを多数してきました。ですが、何事にも卓越性を追求する私は、常にもっとうまくやれると信じて止まないのです。これからも私は常に有能な存在であり、自分の技術を世界に分かち合えるような存在であることを示さなければならない。そのためには、これからもただ自分を追い込み続けるだけです」

Text: Masami Yokoyama Edit: Maya Nago

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