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ラファエロによる聖母子像? 顔認識技術で30年来の研究に光

顔認識技術を用いた解析で、「de Brécy Tondo」と呼ばれる聖母子像の作者が、イタリア・ルネサンス期の画家、ラファエロである可能性が非常に高いことが判明した。イギリスのノッティンガム大学とブラッドフォード大学の研究グループによる成果だ。

ラファエロの祭壇画とコンピュータ解析で照合した結果、ラファエロ作品である可能性が非常に高いとされた「ド・ブレシー・トンド」。Photo: Courtesy of De Brécy Trust

研究グループは、この絵に描かれている聖母子の顔が、ラファエロの祭壇画《システィーナの聖母》のものとほぼ一致していることを明らかにした。デジタル画像解析で両作品に描かれた2人の人物を比較したところ、顔の特徴の合致率は聖母が97%、子どもが86%だったという。

ノッティンガム大学名誉研究員のクリストファー・ブルック博士はBBCの取材に対し、このデータは「同一の作者による作品である統計的確率が非常に高い」ことを示していると回答している。

デジタル画像解析の専門家であるブルック博士は、この分析結果に関する研究論文を、ブラッドフォード大学のハッサン・ウゲイル教授(ビジュアル・コンピューティング)、ハウエル・エドワーズ教授(分子分光学)、ジョージ・レスター・ウィンワードの絵画コレクション管理団体、ド・プレシー財団の名誉会員で美術研究者のティモシー・ベノイと共同執筆した。論文は、カンボジアのプノンペンで開催された国際会議で発表され、1月末に出版予定。

人間の目よりもはるかに高い精度で、画像や映像のパターン識別ができるAI顔認識システムを開発したのはウゲイル教授だ。「ド・ブレシー・トンド」については、使われている顔料を分析した2004年の先行研究があるが、今回の新たな顔認識技術による分析は、このときの結果にさらなる信ぴょう性を与えている。

2004年の研究では、エドワーズ教授による分子分光法を用いた解析の結果、絵に使われている顔料が1700年より前のルネサンス初期に典型的なものであることが判明し、ヴィクトリア朝時代に模写された絵である可能性は低いとされていた。

「今回の研究成果は、今後の美術品分析に大いに役立つ画期的なものだ」と、ブルック博士はBBCに述べている。

「ド・ブレシー・トンド」は、実業家でアートコレクターだったジョージ・レスター・ウィンワードが1981年に購入したものだ。ウィンワードは亡くなる2年前の1995年に、自身のアートコレクションを保存し、さらなる研究のために利用できるようド・ブレシー財団を設立した。

「ド・ブレシー・トンド」に関する研究には30数年間におよぶ歴史があり、1991年にマードック・ロージアンがリバプール大学の博士課程研究で行ったケーススタディなどが知られる。2000年に、イギリスの保存修復師ハリエット・オーウェン・ヒューズが、初めてこの絵を「ラファエロ作品の可能性がある」としている。(翻訳:清水玲奈)

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