バンクシーの「盗まれた新作」は、誰かへのクリスマスプレゼント? 窃盗犯は逮捕、作品は行方不明
バンクシーは12月22日、ロンドン南部の交差点にたつ道路標識に新作を描いたことを自身のインスタグラムで発表した。しかしその直後、二人の男性によってこの作品は持ち去られた。男たちはすでに逮捕されたが、作品はまだ見つかっていない。新作発表から現在までの出来事を振り返る。
バンクシーの新作を男2人が持ち去る
22日正午頃、バンクシーは自身のインスタグラムアカウントで、ロンドン南部のペッカム地区に新作を描いたことを画像とともに発表した。それは、「STOP」と書かれた道路標識をキャンバスに軍事用ドローンに似た航空機3機を描いたもので、発表されるや否や、ガザ地区での停戦を呼びかけるメッセージなのではないかといった解釈や、この標識が盗まれ、オンラインで売られてしまうことを心配する声など、多数のコメントが寄せられた。
事件が起きたのは、その直後だった。新作の場所を特定した人々が作品を一目見ようと現場に向かう中、2人の男性が白昼堂々、自転車とチェーンなどを切断するボルトカッターを持って登場したのだ。アレックスという名の目撃者は、「二人のうちの一人が自転車のサドルに登って手で作品を叩き落とそうとしたところ、転落していた」とサン紙に語ったが、二人はその後、作品が描かれた部分をポールから切り離し、持ち帰ることに成功した。
12月23日、容疑者を逮捕
同日遅く、地元のサザーク区議会は標識の返却を求めてロンドン警視庁に通報。地元警察は、道路利用者の安全のため新しい交通標識を設置した上で、窃盗事件として捜査をはじめた。
そして新作発表から一夜明けた12月23日、ロンドン警視庁は20代と40代の男2人を窃盗と器物損壊の疑いで逮捕した。うち20代の男は釈放されたが、40代は今も拘留中。バンクシーの作品は見つかっていない。
一方、地元のストリート・アーティストたちはクリスマスイヴの24日、新しい交通標識の下に、行方不明のバンクシーの新作レプリカを設置した。
バンクシーが新作に込めた意味とは?
ハイデルベルク大学のストリートアートの専門家、ウルリッヒ・ブランシュはBBCの取材に対し、バンクシーの新作に描かれていたのは軍事用ドローンであり、発表の場に「Commercial Way(直訳すると、商業的な道・やり方、という意味)」と名付けられた道路を選んだこと、この道が葬儀屋の近くであったことから、世界的な武器貿易への批判を示唆しているのではないか、との見解を示した。また、二人の男からこの作品を受け取った人は、その入手経路が公になっているため売るのは困難だろうと述べている。
あるギャラリーのオーナーは、この作品は50万ポンド(約9000万円)の価値があると見るが、エセックスのギャラリーでバンクシーの作品を販売しているジョン・ブランドラーはこう話す。
「メディアの注目を浴びたことで、もっと価格が高くなる可能性は十分にあります。もしかするとバンクシーは、それも見越した上で、誰かへのクリスマス・プレゼントとしてこの作品を発表したという解釈もできるかもしれません」(翻訳:編集部)
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