#バンクシー/Banksy

世界中のアートファンから注目を集めている正体不明のアーティスト。彼の正体についての情報は少なく、公式HPでも年齢などの基本的なプロフィールすら掲載されていない。


バンクシー自身について

バンクシーはTwitterやFacebookを使っておらず、どの団体にも属していないと明言している。確実な情報は、HPとInstagramのみで、その中にも、これといって彼自身の特定的な情報はない。公式に発信されているものは、どれも彼の作品に関する情報が主である。

彼の作品が発見されたエリアやルートは辿れるが、国をまたいで活動していることもあり、プロフィールに直接繋がる情報ではない。現在提示できるバンクシーの情報は、「1990年以降に反権威的なストリートアート作品で脚光を浴び始めた」という事実と、「1974年生まれでイングランドのブリストル出身」という噂程度のものだ。

出身については確実な情報ではなく、バンクシーの正体を追求する人々が出した研究結果で、あくまで有力説に過ぎない。この議論では、たびたびロバート・バンクスとロビン・ガニンガムの名前が挙がるが、特に支持を集めているのはガニンガム説だ。ガニンガムは2000年頃にイングランドからロンドンへ移住しており、彼の移動とバンクシーの作品出現ルートが重なっている。さらに、2016年には、ロンドン大学クイーン・メアリー校の研究チームが、バンクシーの正体を突き止めたと報告している。彼らは、犯罪学を元にした統計的な捜査方法であるジオグラフィック・プロファイリングという調査の結果、彼の正体は、ガニンガム本人で間違いないと結論付けた。しかし、本人はこの説を認めていないため、あくまで有力説に留まっている。


バンクシーの作品

現在最も注目されているバンクシーの作品は、壁に描かれたスプレーアートで、小さなものから大きなものまで、サイズに統一性はなく、そのどれもが、誰にも知られないうちに市街の壁などに残されてきた作品だ。突如として街に現れるアート作品は、周辺のみならず世界中の人々の驚きや好奇心を集めている。

技法としてはステンシルアートという手法を用いており、壁への描写自体にはそれほど時間はかからない。あらかじめ切り絵のような型紙を用意し、その型紙を壁に当ててスプレーを吹きかける。準備には時間はかかるが、型紙を作成してしまえば、あとはスプレーを吹きかけるだけで、短時間でのゲリラペインティングが可能になる。

バンクシーの代表作は、《Girl with Balloon》(2002)や《Love is in the Bin》(2018)が有名だろう。《Girl with Balloon》は2002年、ロンドン市内にある漁港の防波堤コンクリートに突如現れたものだが、当時はバンクシーの作品は違法な落書きとして削除された。

2004年にテムズ川にて再び作品が現れるも撤去。テムズ川の《Girl with Balloon》には「There is always hope(いつだって希望はある)」という一文が添えられていたが、これは第三者によるものとされている。さらにその後も場所やデザインを変えながら、パレスチナやシリアなど世界中に《Girl with Balloon》が出現していった。

《Girl with Balloon》は2018年にオークションにかけられ、104万2000ポンド(約1億5800万円)で落札されたが、落札直後、額縁に仕掛けられていたシュレッダーで裁断されてしまう。この事件は瞬く間に世界中のニュースメディアに取り上げられたものの、どうやらバンクシー本人による仕掛けだったようだ。同作は事件後《Love is in the Bin》と改題し、新作認定を受けた。2021年には再びオークションに出品され、バンクシー作品の中で最高額となる1858万ポンド(約28億8000万円)で落札された(2022年12月時点)。

他にも《Love Is In The Air/Flower Thrower》(2003)も有名な作品の1つだ。この作品は、パレスチナとイスラエルを分断する壁に描かれ、火炎瓶の代わりに花束を投げる抗議者風の人物が描かれている。また、バンクシーは、ロシアのウクライナ侵攻のさなかにもウクライナを支援する行動を見せている。作品50点の抽選販売を行い売上を支援団体へ寄付したほか、キーウなどで新作7点を制作、ウクライナの人々との連帯を強調した動画も公開した。その後、この壁画は窃盗されそうになったものの、数人が現行犯逮捕され、ウクライナ当局は、作品は良好な状態だと発表している。

日本では、2019年にバンクシー作品と思われる小さなネズミの絵が発見され注目を集めたが、作品は混雑予防のため発見早々に撤去された。現在は、日の出ふ頭船客待合所でこの作品が公開されている。

バンクシーの作品はスプレーアートだけではない。英国議会をテーマにした《Devolved Parliament》(2009)やクロード・モネの《睡蓮の池》(1899)を再構成した《Show Me the Monet》(2005)などの油彩画作品もある。現代社会への挑発的なメッセージが感じられるという点では、いくつかのスプレーアート作品と思想的には共通している。特に《Show Me the Monet》は挑発的作品として高い評価を受けており、社会批評家としての彼の地位を築いた作品である。

代表作を中心に世界中から注目を受けているバンクシーだが、彼自身は公式HPや著書で「copyright is for losers(権利は弱者のためにある)」と明言しており、作品を個人的に閲覧するのみでなく手を加えることについても推奨する姿勢を見せている。「破壊すら芸術だ」という思想は、先述の《Girl with Balloon》のシュレッダー事件にも現れている。


オークションでの入札額

バンクシー作品はたびたびオークションで高額落札されており、2022年12月時点でのオークション最高入札額は《Love is in the Bin》の1858万ポンド(約28億8000万円)。次いで《Game Changer》(2020)が、1675万8000ポンド(約25億円)で落札されている。《Game Changer》は新型コロナウイルスによるパンデミック第1波がイングランドを襲った時期に、サウサンプトン大学病院にて飾られていた作品だ。マスクをした看護師のフィギュアを、ヒーローに見立てて遊んでいる少年が描かれ、医療従事者への感謝とリスペクトを表現しているとされている。

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