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東京アートシーンのリアルな生態系を目撃せよ!「EASTEAST_」がアートフェアの先に描くもの

2023年2月17日から19日まで、約24のギャラリーなどと150以上のアーティストやコレクティブが集まるアートフェア「EASTEAST_TOKYO 2023」が開催される。作品の展示のみならず、ライブやトーク、フードまで、狭義の「フェア」にとらわれずジャンルを超えて広がるプログラムはいかに生まれたのか。EASTEAST_の中心メンバーである中野勇介、渡邉憲行、黒瀧紀代士、倉沢琴に尋ねた。

アートフェアからプラットフォームへ

──2020年に始まった「EASTEAST_」は今年から「プラットフォーム」として再始動するそうですね。どういった経緯で今回の「EASTEAST_TOKYO 2023」が行われることになったのでしょうか。

中野勇介(以下、中野) 2020年に行われた前回の「EASTEAST_TOKYO」には、7つの近しいギャラリーが集まっていて、ぼく自身も単なる来場者として会場を訪れていました。その後、主催を務めるログズの武田(悠太)さんから、感性の近いギャラリーの集まりを超えた、もっと広い場をつくりたいと相談を受け、ぼくがディレクターに就任することになったんです。いわゆる「アートフェア」のように作品の売買を目的としたイベント設計ではなく、どうすればギャラリーのコミュニティやアーティストたちの価値観を大切にしながら、これから活躍していくアーティストをサポートしていけるのか考えるなかで、プラットフォームという形へ自然とまとまっていきました。

──運営体制もそれまでとは大きく変わったのでしょうか?

中野 最初はぼくが中心となってチームを編成しましたが、ぼく自身、ギャラリー側の立場がよくわからなかったこともあり、ノリくん(編注:渡邉憲行)とキヨシくん(編注:黒瀧紀代士)にアソシエイトディレクターとして参加してもらい、ギャラリーとのコミュニケーションを担当してもらいました。同じくアソシエイトディレクターの琴さん(編注:倉沢琴)にはコンセプトの議論から参加してもらいつつ、ウェブサイトやイベントなども含めた見せ方とコミュニケーションを担当してもらっています。

──2020年と比べると、規模もかなり拡大しています。

中野 アーティストやその作品の背景にあるコンテクストやコミュニティを提示するには、ある程度の規模が必要でしたし、現代美術以外の文化も重なり合うような環境を創出したいと思っていました。会場となる科学技術館は建物としても面白いし、異なるコミュニティの人々の集まる“広場”のような場所をつくりたいという観点から、東京のど真ん中にある北の丸公園に建っているのもコンセプトと合致すると考えました。

「アート」にとらわれないから見えてくるもの

──今回出展者として参加するギャラリーはどのように選定されたのでしょう?

渡邉憲行(以下、渡邉) まず、メンバーそれぞれが声をかけたいギャラリーを直感的にリストアップしたところ、50〜60ほどの名前が挙がりました。そこからはひとつのコミュニティやテイストに偏ってしまうことのないよう、各ギャラリーの性質や出自、所在地などをマッピングしながら絞り込んでいきました。すべてを網羅できているわけではありませんが、ぼくらがリアルだと感じる、東京を中心としたアートシーンの生態系を提示できるラインナップになったと思います。

黒瀧紀代士(以下、黒瀧) 実際のコミュニケーションはノリくんとふたりで分担しながら進めていきました。ぼくは普段、デカメロンというオルタナティブスペースの運営に携わっているのですが、デカメロンで育まれつつあるコミュニティとノリくんのコミュニティやアーティストとのつながりが、それぞれ違うんです。

渡邉 ぼくが主にコミュニケーションをとっていたのは、開廊して数年の若手ギャラリーや、「美術」の外から来たタイプの人たち。ファッションやデザイン、ストリートカルチャーと呼ばれる領域からやってきて、ギャラリーなどを切り盛りしている方々です。ぼくも同じです。それから、結果的に自分が繋がりを持っていなかったベテランギャラリストさんたちと接する機会を持てたことも、うれしかったです。

──実際に候補を絞り込んでいくうえではどんなことを意識されていたのでしょうか。

黒瀧 ぼくは、既存の大きなアートフェアとは別の軸であることを意識しながら、どのようなアーティストへバトンを渡せるかを意識しながら構成を考えていました。

渡邉 素朴に、自分が作品や展示を見て感動したことのある人たちに声をかけた側面もあります。「リアルな」という言葉は、本物か偽物かみたいなことではなく、自分たちが本当に心を動かされたもの、という意味で使っています。それから、このイベントはビジネスの場でもありますが、作り上げる過程ではそれ以外の話もできる方々と一緒にやりたかった思いもあります。

コミュニティを越境するプログラム

──「EE_Exhibition: About Validity」のように、通常の展示と切り分けられたプログラムも数多く用意されています。

中野 既存の「アートフェア」のフォーマットにはないような体験を提供したくて、ギャラリーの垣根を越えたプログラムを考案しました。「About Validity」は、キヨシくんが中心となって企画しています。

黒瀧 「About Validity」は、自身でスペースの運営も担うアーティスト、または、デュオやコレクティブといった形態で活動しているアーティストを中心に、「“妥当性”について」というテーマを据えた企画です。クライアントワークとアーティストワークを両立させながら自分たちの視座を築いているアーティストもさらに増えている中で、そのような要素も語ることができたら、と話し合っていたら、いつの間にか企画が増えていました。たとえばアーティストデュオのMESはクラブシーンでも活動しているなど、確立したうえで、

渡邉 企画ってそんなにたくさんあるかな?

中野 多い(笑)。個人的には、パーティが必須だと思っていて。美術や音楽、ファッションなど、異なる業界の人たちが集まる場を用意すると考えると、クラブみたいな場所がすごく機能しますし、業界の垣根を超えて交流できるほうが面白いと思うんです。また、アーティストと来場者の自然な交流を促すにはホワイトキューブみたいな空間より食堂のようなフランクな場があった方がいいし、普段は出会ったり話したりしない人同士が話せるトークイベントがあってもいい、というように広がっていきました。

倉沢琴(以下、倉沢) わたしはキヨシさんやアーティストの篠田ミルさんと一緒にトークプログラムの企画にも携わりました。どのプログラムにも共通することですが、アートのあり方やそこにどう人が関わっていけるのか、その機会を広げるようなスイッチをつくれるといいなと思っています。

黒瀧 琴さんが担当している、グラフィックデザイナーの岡﨑真理子さんによるデザインやコミュニケーションを見て、改めてデザインの重要性も実感しました。アーティストって、未開拓の土地にたくさんのアイデアを育てているわけですが、それだけではうまく人に伝わらないことも多い。デザインの力によって、アーティストのやりたいことをもっとうまく伝えたり実現したりできるんだな、と。

“フルスイング”してもらう場をつくる

──実施に向けてさまざまな企画や準備を進めるなかで、印象に残ったことはありますか?

渡邉 たくさんあります。新しいチームで、新しいプロジェクトに取り掛かるのは簡単ではありません。現在の社会全体としては、組織より個人を中心とした動きが重視されがちですが、言葉の捉え方や使い方、コミュニケーションについては、前提が違うと進める上でいろんな齟齬が出てくる。そうならないために、ベースを共有しながら揃えていくことが大事だな、と。アートそのものの話というよりは、人が集まって何かをつくることの、スタイリッシュじゃない側面が印象的でした。それから、ある打ち合わせで、アート作品とアートではないもう一つの事柄のどちらを優先するか、と議論する機会があったのですが、ある大先輩のギャラリストが「アート至上主義でいきましょう」とおっしゃったんです。その言葉にハっとさせられて、すぐに解決。すごく印象的でした。

──新たなプラットフォームをつくることは、そういった共通言語を整備することでもあるのかもしれません。きっと今回参加されるギャラリーのみなさんも、それぞれ異なる問題意識やビジョンをもっていますよね。

渡邉 まったく違うし、それでいいと思っています。ぼくらとしては、EASTEAST_という機会を用意する。そこで、それぞれの120%のフルスイングを見てみたい、という気持ちです。同じ場所でみんなで一気に思いっきりスイングしたら、すごい風が吹くんじゃない!? と。

──今回のアートフェアに限らず、今後も継続的に活動を展開されていくのでしょうか。

中野 会期終了から1カ月後くらいに、改めて関わった人たちと集まって話をするミーティングを開きたいと考えています。イベントを終えて散り散りになるより、周囲からの反響や自分の中の思考が整理されるころに、もう一度話し合うことでより大きな収穫があるんじゃないかな、と。夏には『EASTEAST_MAGAZINE』と題した雑誌も刊行し、今回のEASTEAST_を通じてぼくらが見てきた生態系を、雑誌という形でパッケージして海外にも発信していく予定です。

倉沢 具体的な話にはなりますが、今回来られなかった人にもわたしたちの取り組みを理解してもらえるように、終了後もウェブサイトを更新していく予定です。

フィルターバブルを突破するために

──今回のEASTEAST_は、東京のメインストリームのアートシーンというよりも、若々しくリアルな生態系を俯瞰できる機会になりそうです。みなさんは東京のアートシーンやコミュニティに、どんな印象を抱かれていますか?

渡邉 個性的なコミュニティがあって面白いなと思う反面、界隈を行き来するような交流はあまりないんだなと感じていました。フィルターバブルってこういうことかな、と。なので、冒頭に中野が話していたような“感性が近いところ”を集めるだけでなく、文脈やテイストを超えた集まりにすることに意義とやり甲斐を感じていました。

 わたし自身はこのプロジェクトに携わるまで、東京のギャラリーシーンとのつながりは少なくて。クラブイベントやライブでデザインや出版、音楽などの表現の分野に関わる人には会う一方で、アート関係者やアーティストと知り合う機会もほとんどなかった。みんなどこで遊んでるんだろう? と不思議でした。もちろん単につながればいいわけではありませんが、分野を越えた交流がもっと増えれば、さらに面白くなるんじゃないかと思います。

黒瀧 アート業界に限った話でもないですが、ブラックボックスな部分も多分にあると感じています。過去にもアーティストランスペースや、デカメロンのようなオルタナティブスペースがありましたが、何かが変わる時にそれらが立ち上がったという歴史をみると、今がそうなのかなと思います。その多くは、“中央”となる存在に集約されたり淘汰されて数年でなくなっていきますが、そのプロセスも、中央が可能性を広げるためには必要不可欠なのだな、と。EASTEAST_のようなアートイベントが既存のフェアに対してどのような機能を担えるか、気になるところです。

──今回のイベントをきっかけに、新たな動きが生まれると面白そうですね。EASTEAST_を通じてみなさんが長期的に挑戦したいことや実現したいことはありますか?

倉沢 EASTEAST_みたいな存在をきっかけとして、これまでにないアートの生態系が生まれたらいいなと思います。西洋の制度化されたアートや美術館、作品のあり方に対して、オルタナティブな可能性が提示されることを期待しています。

中野 EASTEAST_としても、ぼくらが運営に携わり続けるのではなく、新陳代謝を起こしていきたい。同じメンバーでずっと続けていたら、どうしても権威化してしまいますから。メンバーは入れ替わりつつも、プラットフォームとしての強度が上がっていくといいですね。

渡邉 ぼくは種を蒔くような感覚でEASTEAST_に取り組んでいます。5〜10年後に繋がっていくような機会を作りたい。と言いつつ、最高の休日を約束するのでぜひ来てください!」と言いたいです(笑)。

黒瀧 100人以上のアーティストが参加してて、美味しい食事とお酒もある。デートにもぴったり(笑)。

渡邉 公園も気持ちいいし。

中野 確かに、まずはそれが一番大事!

EASTEAST_TOKYO 2023
日程:2023年2月17日~2月19日
会場:科学技術館(東京都千代田区北の丸公園2-1 )
公式サイト 

Text: Shunta Ishigami Photos: Kaori Nishida Editor: Maya Nago

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