ピカソにルシェ、ウォーホルまで名作が勢揃い! NYの女性慈善家のコレクションがオークションへ
「アメリカン・アートの軌跡を語る上で、最も包括的で時代を定義するコレクション」と称されるニューヨークの慈善家、故エミリー・フィッシャー・ランドーの遺品が、この秋、大きな期待とともにオークションに出品される。
この秋、ニューヨークの慈善家であった故エミリー・フィッシャー・ランドーのコレクションが、大きな期待とともにサザビーズに出品される。ランドーが集めた120点の作品群の中には、パブロ・ピカソ、エド・ルシェ、ジャスパー・ジョーンズ、グレン・ライゴン、マーク・タンシーなどの作品も含まれ、その価値は、総額4億ドル(約590億円)を超えると見られる。
11月8日と9日に開催される今回のオークションで目玉とされているのは、パブロ・ピカソが1932年に描いた《Femme à la montre》だ。彼の有名な被写体の一人であり、ピカソの若き愛人として歴史的に知られるマリー=テレーズ・ワルターの肖像画で、これまでのオークションでもワルターを描いた作品は高値で落札されてきた。サザビーズ・アメリカの印象派・近代美術部門責任者ジュリアン・ドーズは、本作を西洋美術史における「決定的な作品」と賞賛している。
ほかにも、エド・ルシェの《Securing the Last Letter(Boss)》(1964年)やマーク・ロスコの無題の作品(1958年)などが出品される。後者は、ロスコがニューヨークのシーグラム・ビルにあるレストラン「フォーシーズンズ」の依頼で制作した有名なシリーズに属するもの。各作品の見積もりは、希望者のみに開示される。
また、1968年に制作されたジャスパー・ジョーンズの《Flags》と題された別の作品は、3500万ドル(約51億円)から4500万ドル(約66億円)の値がつくと予想されている。アンディ・ウォーホルがキャンバスにアクリル絵具とシルクスクリーンで描いた《Self Portrait》(1986年)も主要な出品作品の一つで、予想落札価格は1500万ドル(約22億円)から2000万ドル(約29億円)。一方、ウィレム・デ・クーニングとジョージア・オキーフの作品は比較的低価格帯の300万ドル(約4億4000万円)から600万ドル(約8億8000万円)となる見込み。
ニューヨークのホイットニー美術館の元管理委員であった彼女は、今年3月に102歳で死去。1960年代からコレクションを始め、ルシェ、ロスコ、ジョーンズがニューヨークのアトリエで精力的に制作していた時代に、個人的に知り合った。その後ランドーは、アンリ・マティス、ピエト・モンドリアン、ジャン・アルプ、マーク・ロスコ、フランツ・クライン、パウル・クレー、ルイーズ・ネヴェルソンなど、近現代の主要アーティストの作品を積極的にコレクションするようになる。2010年までに、彼女はホイットニー美術館に300点以上の作品を寄贈している。
ランドーが育てた大物アーティストの作品も出品される。その一つが、グレン・ライゴンの1991年の作品《I Lost My Voice, I Found My Voice》。白木のパネルに油彩とジェッソを使って黒い文字のブロックを並べたこのライゴン作品は、2011年にホイットニー美術館で開催された回顧展「Glenn Ligon: America」で紹介された。サザビーズは本作の見積もり額を開示していないが、担当者は、今回の落札価格がライゴン作品の新基準となるだろうと話す。ちなみにライゴンのオークションでの最高記録は、2014年にサザビーズ・ニューヨークのイブニングセールで落札された《Untitled(I was Somebody)》(1990年)の390万ドル(現在の為替レートで約5億7000万円)だ。
1987年に描かれたマーク・タンジーの《Triumph Over Mastery II》と題された絵画も新記録を樹立する可能性が高い。赤を基調とした背景にシャツを着ていない人物を描いたこの油絵の予想落札価格は、800万ドル(約11億8000万円)から1200万ドル(約17億6000万円)。タンジーの現在の最高価格は、2018年にサザビーズで落札された油彩画《Source of the Loue》(1988年)の750万ドル(約11億円)。
サザビーズの美術部門グローバル責任者であるブルック・ランプリーは声明の中で、ランドーが遺したコレクションの最大の魅力は、アメリカの最重要アーティストを年代順に紹介してきた実績だと述べている。また、この作品群は「アメリカン・アートの軌跡を語る上で、最も包括的で時代を定義する物語の一つ」と位置付けている。
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