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フェミニズム、植民地主義、人種差別──社会問題に一石を投じる気鋭アーティストらが「天才賞」を受賞。

2022年のマッカーサー財団「天才賞(Genius Grant)」フェローシップの受賞者25人が発表された。このフェローシップでは、1人あたり5年間で80万ドル(1億1000万円超)の特別研究費が給付される。今年受賞したアーティストを紹介する。

ポール・チャン《Khara En Penta(Joyer in 5〈5人のジョイヤー〉)》(2019) Courtesy the artist and Greene Naftali

2022年のマッカーサー財団フェローシップに選ばれたアーティストは、ポール・チャン、スカイ・ホピンカ、タヴァレス・ストラチャン、アマンダ・ウィリアムズ、ミュージシャンで学者でもあるマーサ・ゴンザレス。ゴンザレスは、フェミニズムのアクティビストとしての自身の活動はアート制作の一形態だと表明している。

マッカーサー財団のフェローシップは幅広い分野を対象とするものだが(今年の受賞者には数学者や歴史人口統計学者、電子音楽の作曲家などもいる)、その特別研究費の金額が米国のアート界では最高レベルであることから、美術関係者の大きな関心事になっている。

今回選出されたポール・チャンは、「Breather(ブリーザー)」という名の風で動く布の立体作品や、物が落下しているように見えるライトプロジェクションで批評家から高い評価を得ている。11月には、ミネアポリスのウォーカー・アート・センターで回顧展が開かれる予定だ(会期:2022年11月17日〜2023年7月16日)。

2009年以降は、主に自身の出版社バッドランズ・アンリミテッドを中心に活動しているが、今年初めにニューヨークのグリーン・ナフタリ・ギャラリーで発表した絵画作品が賛否両論の反響を呼んだ。これは、21年1月6日に起きたワシントンD.C.の議事堂襲撃事件を描いた、幅4メートルを超える大作だ。

マッカーサー財団はチャンの作品を、「アートという手段で人間の経験を批評的に考察し、社会変革をもたらすことができるか果敢な挑戦を行っている」と称えた。

ネイティブアメリカンのスカイ・ホピンカは、ホーチャンクネーションの一員で、ルイセーニョ族のペチャンガバンドの子孫でもある。彼は過去10年、実験的な映像作品やインスタレーション、写真などを数多く制作してきた。

彼の作品には、文化的記憶、先住民の歴史、風景に見られる神秘性などをテーマにしたものが多い。たとえば、2016年の映像作品《I’ll Remember You as You Were, Not as What You’ll Become(私は過去そうであったあなたを思い出すだろう。あなたの未来の姿ではなく)》は、アニシナアベ族・チェメフエヴィ族の詩人、故ダイアン・バーンズに挽歌として捧げられたものだ。抽象的な表現を交えたこの作品は、美術館の展覧会でも中心的な存在になる。

ホピンカの映像作品に対しマッカーサー財団は、「先住民の世界観を表現するための新しい戦略」を提供するものだと評している。

タヴァレス・ストラチャンが、アフリカ系アメリカ人として初めてNASAの宇宙飛行士となったロバート・ヘンリー・ローレンス・ジュニアの24金の胸像を宇宙に送り出して話題となったのは数年前のこと。このプロジェクトは、イーロン・マスクのスペースX社と共同で行ったものだ。

タヴァレス・ストラチャンの作品

ただ、彼の作品はこうした派手なものばかりではない。そのインスタレーションや絵画には、科学知識の限界と植民地主義が科学に与えた影響についての考察が多く含まれる。マッカーサー財団は彼を「アートの可能性を広げ、歴史の中で疎外された人々の貢献が見て見ぬふりをされてきた事実に光を当てた」と評価している。

ビジュアルアーティストで、建築家としても活躍するアマンダ・ウィリアムズは、人間にとって色がどんな意味を持つのかを探求する抽象的な作品で知られている。

ウィリアムズは、黒人としての体験に根差す色を使うことがある。たとえば、彼女の故郷であるシカゴで取り壊し予定の家を、濃い赤と鮮やかな青で描いたシリーズがそうだ。最近では、ニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで、アート評論家のアントワン・サージェントがキュレーションした展覧会を開催している。

マッカーサー財団のウィリアムズ評では、その作品が「公共空間を再考し、構築された環境における文化的・経済的価値と人種との複雑な関係を明らかにする」プロセスだと述べられている。

マーサ・ゴンザレスは、自らを「artivista(アーティビスタ)」と呼ぶメキシコ系アメリカ人のミュージシャン。メキシコの伝統的なサウンドをベースに、現代的なアプローチを取り入れたバンド「ケツァル」で活動している。マッカーサー財団は、その活動を「国境を越えた絆を深める」ものだと称賛した。(翻訳:石井佳子)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年10月12日に掲載されました。元記事はこちら

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