韓国アート市場の若返り、なぜ起きた? 国際的アートフェア「キアフ・ソウル」ディレクターに聞く

2024年9月頭に開催された「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL/キアフ)。会場やその周辺では、若いコレクターやアーティストが目立った。その要因を、キアフと出展ギャラリーのディレクターに訊いた。

Photo: KIAF

「会場にいる人たちが若い」

9月頭、ソウルで開催された「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL)、通称キアフ・ソウル(Kiaf Soul)で話を聞いたギャラリストやメディア関係者は、みな揃ってそう口にした。

今年22年目を迎えるキアフは、韓国最大のアートフェアだ。2024年は韓国国内のギャラリー130軒、国外のギャラリー76軒の計206軒が参加。2022年からはフリーズ・ソウルと同時期・同会場での開催となったこともあり、注目度は増している。さらに、期間中はソウル市内のギャラリーや美術館、飲食店でアート関連のイベントが多数開催されており、半ばサーキット型イベントの様相を呈していた。

そうした関連イベントも含め、来場者も関係者もアーティストも若い世代が目立つ。
「アート関係者だけでなく、ファッションブランドや政治家といった他領域のプレイヤーも、何かしらアートにかかわろうとしています。これが韓国のアート界を盛り上げているように感じます」と、キアフに出展したソウルのArario Galleryのディレクター、ソジョン・カン(Sojung Kang)は話す。

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購買力は限られているものの…

「今年は若い来場者、特に韓国のMZ世代(ミレニアル世代+Z世代)の増加が顕著でした。これは、韓国のアートシーンの人口動態の大きな変化を示しています」と、キアフのディレクターであるユニス・ジュン(Eunice Jung)は語る。

ジュンは若い世代をアートに惹きつける主な要因について、①オンラインアートプラットフォームが拡大したことで、アートを購入できる場が増えたこと ② アートをコレクションするK-POPスターなどの有名人が増えていること ③ サムスングループの2代目会長の「李健熙コレクション」など、著名人による大規模な寄附がアートシーンを盛り上げていること ④ SNSの活況の4つを挙げた。

「以前は韓国のアート市場も主に中高年コレクターによって牽引されていました。しかし近年、アートフェアや関連イベントでは若い来場者の参加や熱意が顕著に増え、現代アートへの関わりがより広範かつ多様になっています。キアフの参加者の変化もそれを反映しています」

Arario Galleryのカンもこう話す。「この4、5年で若いコレクターが間違いなく増えています。購買力は限られているものの、作品やアーティストについてよく調べ、展覧会にも何度も足を運び、真剣に作品を選んで購入しているのです。その点を踏まえると、韓国のアート市場の成長に期待がもてます」

ちなみにArario Galleryはキアフとフリーズ・ソウルの両方に出展している。「キアフとフリーズでは客層や購入額が異なります。キアフでは若手のアーティストを多めに、フリーズでは国際的に知られているアーティスト多めに扱っています」

Photo: KIAF

若返りを支えるエコシステム

コレクターだけでなく、アーティストやギャラリーの側でも若返りが進んでいるとカンは語る。韓国ではこの数年で海外ギャラリーの進出や新進ギャラリーの新設が進み、若い芸術家を対象としたファンドも増えている。「そうした資金援助を得て、新しいギャラリーや小規模のギャラリーで展示を行なうというように、若手アーティストにとって制作や発表の機会が以前より開かれているのです」と、カンは説明する。

若手・中堅アーティストを対象としたアワード形式の展示「Kiaf HIGHLIGHTS Award」と新進気鋭のギャラリーを取り上げる「Kiaf PLUS」など、キアフもそうした新進気鋭のギャラリーやアーティストを積極的にフィーチャーしている。

「かつて韓国のアートシーンは、1970年代の「単色画」運動が排出したリ・ウファン(李禹煥)や鄭相和(チョン・サンファ)といったアーティストが牽引していましたが、現在はより多様な世代や作風のアーティストたちが国内外で活躍しています。この多様性へのシフトは、最近特に顕著です」

鶏が先か卵が先かの問題でもあるが、こうした韓国のアートシーンの興隆には、こと現代アートを支援しようとする政策も大きく影響している。

芸術作品の寄贈に対する税制優遇措置の導入や文化遺産に関する法律の緩和、「再販権」などについて定めた2023年の芸術振興法の制定、そしてキアフやフリーズに対する行政の関与など、補助金のみならず制度上も現代アートを推進しようとする動きはこの数年で加速しているとジュンは語る。

VIPプレビューの日にはソウル市の呉世勲(オ・セフン)市長を始め、政府関係者も開場を訪れていた。Photo: KIAF

勢いが生む競争と利益

そんな勢いに吸い寄せられるように、売る人も買う人も世界から集まってくる。

今年のキアフの参加ギャラリーは206軒。ソウルや東京、バンコク、シドニー、テヘラン、ヨーロッパ各国から、36軒が初めて参加した。コレクターやキュレーター、財団や美術館などの関係者は世界40カ国から集まっている。

2024年の来場者数は80000人と前年とほぼ同程度だが、顕著なのはVIPの増加だとジュンは語る。その結果、ほとんどのギャラリーは売り上げた昨年と同等、あるいはわずかに上回ったという。なお参考としてアジアの主なアートフェアの来場者数を示しておくと、2024年のアートバーゼル香港が75,000人、アートフェア東京が55,000人、台北當代が35,000人だ。

こうしたソウルのアートシーンの興隆は、人を集め、競争も生む。

「フリーズとの提携や海外ギャラリーの参加は、間違いなく韓国のアート市場の競争を劇化させました」と、ジュンは語る。「しかし、これは同時に、キアフが異文化間の対話のプラットフォームとしての役割を果たし、韓国のアート市場の指標となることで、国内のアーティストやギャラリーの成長のきっかけにもなっていることを示します。多数の国際的なコレクターや美術館のキュレーターがソウルに集まり、その流れは当然キアフにも及び、市場全体に利益をもたらすパートナーシップが生まれ、韓国の芸術的才能の豊かさを示すことにもつながているのです」

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