アフリカで暗号通貨取引が1200%増。NFTアートが急拡大
アフリカでNFTアート市場が活発化している。人口とGDPがともにアフリカ最大のナイジェリアを中心に、デジタルアーティストの活動に注目が集まり、さまざまなコミュニティが生まれているのだ。しかし、そこにはアフリカ特有の課題もある。アフリカのNFTシーンの現状と可能性についてリポートする。
西アフリカ最大のアートフェア、アートXラゴス(Art X Lagos)は、NFTマーケットプレイス大手のスーパーレア(SuperRare)と提携し、2021年11月に「Reloading...(リローディング…)」展を主催。ナイジェリア、モロッコ、南アフリカ、セネガルなどのアーティストが参加したこの展覧会は、アフリカにおける初の本格的NFT展の1つとなった。開催後、西アフリカ事情に詳しい関係者から、アフリカのデジタルアーティストの活動に世界の注目を集める大きなきっかけになったと評価された。
当時、アートXラゴスの創設者トキニ・ピーターサイドは、「この展覧会によって、アーティストの自由度と主体性、そして選択の幅が広がった」とロイター通信に語っている。
一方、今年3月には、ラゴス現代アートセンターが、バイコインズ・アフリカの共同設立者トミワ・ラセビカンの司会でNFT入門のデジタルワークショップを開催。4月には、アフリカン・デジタル・アート・ネットワークが、NFTマーケットプレイスのナンディ(Nandi)を立ち上げた。共同設立者のチネドゥ・エネクウェは、暗号資産メディアのデクリプトに、「参加企業やクリエイターが報酬を得るためのエコシステム構築を目指す」と説明している。
「Reloading...」展などの取り組みが話題になる背景には、暗号通貨とデジタルアートが、ナイジェリアを中心としたアフリカ全域で既に大きな存在感を示していることがある。そして、そのトレンドは勢いを増す一方だ。
ブロックチェーン関連のデータプラットフォーム、チェーンアナリシスの3月のリポートによると、2020年7月から21年6月の1年間に、アフリカでは暗号通貨による決済が1056億ドルに達し、前年比1200%増という驚異的な成長を示したという。ちなみに、ナイジェリア、ケニア、南アフリカの3カ国は、世界の暗号通貨導入インデックスのトップ10にランクインしている。
ただ、普及が進んでいるように見えるアフリカのデジタルアートにも、まだ克服すべき課題が残されている。
ナイジェリアでは、2021年2月に中央銀行が金融機関に対し、暗号通貨取引関連の銀行口座サービス提供の禁止を通告したため、利用者の間にパニックが起きた。同国は今月初め、規則改正による規制緩和を発表したが、アルジェリア、エジプト、モロッコ、チュニジアなど、アフリカの十数カ国では依然として暗号通貨は全面的に禁止されている。
暗号通貨の禁止は、デジタルアートの環境整備に不利に働く。ナイジェリアのテック関連ジャーナリスト、ビクター・エクウィラーは、テクノロジーに詳しい一部の利用者は規制を回避できたものの、多くのナイジェリア人は何カ月もNFTアートへの投資を阻まれたと言う。
ティシラット・ユスフのNFT作品《The Boys(少年たち)》 Taesirat Yusuf
ティシラット・ユスフのNFT作品《At Peace(心穏やかに)》 Taesirat Yusuf
南アフリカのNFTコレクターで、アフリカン・テクノプレナーズの創設者、ダリソ・ンゴマは、「アフリカ人アーティストの多くは、作品を買ってくれるコレクターが見つからないので、私に直接作品を売り込んできますよ」と話す。
また、ラゴスの現代アートギャラリー、トライブス・アート・アフリカのオーナー、ロドニー・アシクヒアは、「アフリカのNFTアーティストは、他の国のアーティストと比べてパトロンからの支援が不足している」と指摘する。
この問題は、アフリカのアーティストのデジタルアート作品を買うコレクターが、ほぼ国内に限られるという状況から生じている。アフリカには、国際競争力のある価格でNFTを収集できる富裕層が少ないため、エコシステムの拡大を続けていくことが難しい。作品が世界中のコレクターに受け入れられ、支持されれば、アフリカ全体でデジタルアートの成長が促進されるだろう。
エコシステム構築のもう1つの障壁になっているのは、アフリカ諸国の経済力の弱さだ。NFTをミント(生成・発行)するには、1回あたり数ドルから数百ドルのコストがかかる。実際にいくらかかるかは、どのNFTプラットフォームを使うかにもより、ミント時のガス代(暗号通貨の取引手数料。変動が激しい)にもよる。
しかし、テック系ニュースメディアのザ・バージによると、アカウントを開設するだけでも、ほとんどのプラットフォームで約60~70ドルの費用がかかる。ナイジェリアやケニアなど、最低賃金が月100~130ドルの国では、多くのアーティストが作品をミントするための収入を得るのにも苦労している状況だ。
オシナチ、ヤング・ケブ、ケビン・カマウといったアーティストたちは、最初のNFTをミントする資金をアーティストに提供すれば、参入を促進できるという考えている。そんな中、一部のアーティストは非公式に別のアーティストを支援。NFTアートの世界を拡大し、より多くの参加者を受け入れられるよう活動している。
しかし、アーティストの相互支援だけでは不十分だろう。アフリカのNFT界には、既存のアートマーケットと同じレベルのインフラ構築が必要だ。アーティストがNFT作品を制作し、ギャラリストやアートディーラーがそれを宣伝・販売し、コレクターが購入するという自立したエコシステムを作るのだ。また、美術関連の公的機関は、アーティストの支援、育成、維持や、NFTアートの成長と普及に努めることが求められる。デジタルアートの世界にもしっかりした組織と制度を整備すれば、経験豊富な業界人や関心を持つ人々を幅広く引き寄せ、アフリカ全域でデジタルアートを成長させることができるはずだ。
ナイジェリアを拠点とするアーティストでデザイナーのチュマ・アナグバドによるNFT作品《Mgbaji ((ウエストビーズ))》(2022) Chuma Anagbado
チュマ・アナグバドのNFT作品《Nne n' Nwa(母と子)》(2022) Chuma Anagbado
こうした展望のもと、ナイジェリアでNFTアートのコミュニティを立ち上げようと、デジタルアートのコレクターでキュレーターでもあるチャールズ・ムバタと、アーティストで起業家のチュマ・アナグバドは、アーティストやアートファン、文化人の輪を作りつつある。
その一環として創設されたナイジェリアNFTコミュニティは、より広く、よりグローバルな認知を得られるようなプログラムを企画するとともに、NFTアーティスト同士のコラボレーション促進に努めている。たとえば「Ape of Lagos(ラゴスのサル)」などのコレクションを通じて、イーサリアムのブロックチェーン上でNFTを制作するアフリカ人アーティストに光を当てる試みがある。また、ナイジェリアのデジタルクリエイターのためのVR展「3rd Dimension(第3の次元)」も実施した。今後も同様の展覧会として、ニューヨーク、ナイロビ、ラゴスで「Metanoia(メタノイア)」の開催が予定されている。
NFTコミュニティ、ブラックNFTアート、ネットワーク・オブ・アフリカンNFTアーティスツといった他のコミュニティも、アーティストがより多くの売上、展覧会、批評家の関与を得られるよう支援を行っている。また、NFTに関心を持つアーティストをはじめとしたクリエイター向けの講座開催や情報発信にも取り組んでいる。
NFTブームは、アートの質ではなく金銭が目的だとよく言われるが、そうした面は確かにある。たとえば、ビープルのNFT作品がクリスティーズで6930万ドルもの高値で落札され、アフリカではオシナチのNFTが8万ドルの価格を達成したことは、コレクターの投資意欲を刺激し、一部のアーティストに一攫千金の期待を抱かせたことは否定できない。
しかし、NFTで本格的な制作に取り組むアフリカ人クリエイターもいる。ナイジェリアのグラフィックデザイナー、マヨワ・アラビ(別名シュタバグ)は、今年初めのインタビューで、壮大なストーリーを語るようなデジタルアートを制作したいと語った。また、ヨハネスブルグ在住のアートディレクター、ファトゥワニ・ムケリは、NFTのおかげで国際競争の場が平等で開かれたものになり、アフリカのアーティストがこれまでリーチできなかった人々にも作品を見てもらえるようになると考えている。トルコの公共放送、TRTワールドのインタビューでムケリは、NFTによって「アフリカのアーティストが世界と競争できるようになる」と述べた。
一方、作品をより幅広く届けられるようになったことで、アフリカのアーティストやアート関係者は、世界に発信するアートの質に注意を払うことの重要性を認識するようにもなった。アフリカの現実やアイデンティティと真剣に向き合うアートが必要なのだ。
アフリカのデジタルアートのエコシステムは、現在直面している課題を克服する努力によって、さらに成長できる。経済面や暗号通貨規制などの問題を解決するには時間がかかるかもしれない。しかし、理解を広げるための教育活動を行い、新しく多様なコレクターを取り込むためのインフラを整備することはできる。さらに、アーティストへのトレーニングを通じて、進化を続ける市場での作品の位置づけを考えながら、芸術的ビジョンを発展させていく道を開くことができるだろう。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月4日に掲載されました。元記事はこちら。
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