廃墟となったイタリア刑務所の文化拠点計画が進行中
18世紀にサント・ステファノ島に建てられ、今は廃墟となっている刑務所がイタリア政府によって改修される。改修計画は、博物館の新設を含む大規模プロジェクトの一環。この取り組みは、欧州議会議長を務めたイタリア民主党のダビド・サッソリ氏にちなんで名づけられている。サッソリ氏は1月に肺炎の合併症のため65歳で死去した。
イタリア政府は、サント・ステファノ島および近隣の沿岸部にある遺構の修復に7000万ユーロ(約90億円)を投じる。サント・ステファノ島では、この地の暗い過去を伝える野外博物館、庭園、そして文化や政治に関するセミナーやイベントに利用できる会議場が建設される。
プロジェクトを統括しているのは、シルビア・コスタ政府委員とダリオ・フランチェスキーニ文化相だ。コスタ氏は声明の中で、ヴェントテーネ島とサント・ステファノ島で進められるプロジェクトの一環として、「人権・人間の尊厳・正義について学びを得ることのできる『高い理念を持った思考の場』」を設立するとしている。また、同氏はThe Art Newspaper(アートニュースペーパー)の取材に対し、人里離れたこの場所は創作活動のインスピレーションの源になると語り、少人数のアーティスト・イン・レジデンスを実施するとしている。
ナポリ王フェルディナンド4世が1789年に建設したサント・ステファノ島の刑務所は、コロッセオのような建物の内側に独房がぐるりと並び、収容された囚人たちを中央の監視塔から常に監視できる構造をしている。第二次世界大戦中、イタリアのファシスト政権は反体制派をサント・ステファノ島とその隣のヴェントテーネ島に追放した。その中で、アルティエロ・スピネッリとエルネスト・ロッシが、欧州連邦の創出を訴えるヴェントテーネ宣言を起草。これは後の欧州統合の礎となっている。サント・ステファノの刑務所は1965年まで現役で使われていた。
フランチェスキーニ文化相は、イタリアと欧州諸国がコロナ危機から脱却するうえで、この修復プロジェクトを進めることが急務だとしている。2020年12月の声明では、「かつてここで新たなヨーロッパが構想され、今ここで未来のヨーロッパが構想される」と述べ、新設される施設が 「思想や文化的魅力を醸成する場」になることを政府は目指しているとつけ加えた。
この場所の歴史的価値を生かそうとする取り組みの一つとして、文化省は5月にサント・ステファノ島に関するアーカイブの復元計画を発表した。1860年から1965年まで収監されていた囚人の通信記録や行政ファイルなどの文書で構成されるこの資料は、デジタル化され、最終的には一般に公開される予定だ。
イタリアのアンナ・マリア・ブッツィ公文書局長は、声明の中で次のように述べている。「これらは非常に重要な文書です。前世紀の自由への闘いについて研究し、それを記憶に留めるために文書を保護し、学術研究者や一般市民が利用できるようにすることを目標としています」(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月1日に掲載されました。元記事はこちら。