NFT売上は77%減。Web3イベント「NFT.NYC」が告げるブームの終焉
ここ数年のうちに勃興したNFT市場だが、昨年の売上げは77%も減少した。今月、ニューヨークで開催されたNFTコミュニティが一堂に会するパーティに漂っていたのは、ブーム終焉の空気だった。
売上激減の中で開催されたイベントに漂う暗い影
4月11日夜、ニューヨークのロックフェラーセンター内にあるイベント会場、レインボールームで、世界最大規模のWeb3カンファレンスであるNFT.NYC第5回の幕開けとなるNFT100ガラが開催され、世界中のNFTコミュニティが一堂に会した。同カンファレンスは2019年に始まって以来、暗号資産市場の景気のバロメーターとして注目されてきた。
NFT100ガラを主催したWeb3メディア、nft nowの共同創設者であるマット・メドヴェドは、65階にある会場からの眺望を背に、「ここはかつてフランク・シナトラが歌を披露した場所ですが、今の時代に最も重要な人物は、ここに集まっているみなさんです」と声を張り上げた。だが、それもカラ元気のように聞こえてしまう。
空席が目立つ会場で、数少ない参加者たちは目の前に迫っている納税申告のことを暗い顔で語り合い、オープンバーに登場した今年のスペシャルカクテルには、「ベア・マーケット(下落相場の意)」という名が付いていた。「確かに、今は状況が悪いように見える。でも、実のところ状況はずっと悪かったのかもしれない」というのが、参加者たちの現在の共通認識だ。
「この2年間、ここにいる誰もが自らの選択を笑われてきました。『他の誰にも見えないものが私には見えている』と胸を張って言うには、勇気が必要です」
壇上からそう語りかけたのは、nft nowのもう1人の共同設立者、アレハンドロ・ナビアだ。ナビアが「Web3は単なる産業ではなく、人々の生活を変えた新しい経済です。NFTのおかげで生活できている人がどれだけいることでしょう」と続けると、会場には気まずい沈黙が流れた後、力ない笑い声が広がった。NFTによる価値創造を積極的に推し進めようとしてきた楽観主義と情熱は、ついに限界に達したようだ。その現実を率直に受け入れるときがきたのだ。
過去1年間にNFTの売上げは77%減少し、熱心なデジタルアーティストと暗号経済の盲信者を中心に形成されてきたNFTコミュニティは、ベンチャーキャピタルの投資家が一時的に参入するだけの場所になった。つまり、ブーム前の状態にまで縮小してしまったのだ。
US版ARTnewsの編集長、サラ・ダグラスは金融危機がアート市場に与えた打撃を象徴する事象として、2008年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチ開催に際してメインスポンサーのUBSが開いたディナーの席に、キャビアが出なかったことを度々引き合いに出す。今年のNFT.NYCは、まさにそのこと思い起こさせる内容だった。
2021年に感じたNFTブームの「終わりの始まり」
2021年11月に開催されたNFT.NYCでは、サザビーズとWeb3マーケティング会社のセロトニンが主催するパーティのライトに照らされ、少しやつれたように見えるジョーダン・ベルフォート(映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のモデルになった元株式ブローカー)の姿が見られた。ベルフォートの存在は、NFTブームというちょっと恥ずかしい流行が、歴史に残る重要なものになった証だと思わせた──NFTブームのてん末が、いつか映画になるかもしれない、という意味で。また別のパーティでは、インディーポップの人気者、キャロライン・ポラチェクやラッパーたちがWeb3関係者のためにライブを行っていた。確かに、それなりの金が動いていたのだ。
一方、金の流れが止まるのも早かった。2022年6月下旬に開催された第4回の参加者は、前年より5000人以上増え、1万5000人にまでなったが、会場にはピリピリした空気が流れていた。その頃、ビットコインは2万ドルを切るところまで暴落し、ピーク時の6万9000ドルとは比べものにならないほど低迷していたからだ。
しかし、1500人を超えるスピーカーが登壇する中、暗号資産の愛好家たちは、「暗号通貨の価値が大幅に下落したのは、グラフの線が長期的に横ばいに落ち着くことの予兆ではないか?」「冬が来た後には必ず春が訪れるはずではないか?」と、平然を装っていた。開会の挨拶では、暗号資産のベンチャーキャピタリスト、デヴィッド・パクマンが「まだゼロにはなっていない。終わってはいない」と語気を強めていた。
しかし今振り返れば、NFTの華やかなブームに終わりが近づいていることは明らかで、パーティも盛り上がりに欠けていた。
その数週間後、死の予兆が現れた。NFT取引プラットフォームの最大手、オープンシーのデビン・フィンザーCEOがレイオフを発表したのだ。業績がすぐに好転しないと見たオープンシーは、長い冬の時代に向けて準備を始め、フィンザーは不況の5年間を乗り切るだけの資金があるとの見通しを示した。
しかし、暗号通貨が夢見た輝かしい未来が完全に消失したわけではない。2022年12月のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチで、マイアミ市長のフランシス・スアレスは、Web3のポップアップブースに彩られた大通りと旧シティナショナル銀行ビルを会場に開かれた、NFTアートの期間限定展示イベント「The Gateway」の開幕に出席し、自分の顔に向けられたスマホに向かって「あなたも来なくては」と笑顔を見せていた。一方、Web3 NYC Galleryは、Web3初の実店舗という触れ込みでマンハッタンのミッドタウンにオープンしたものの、どうやらすでに閉店してしまったようだ。
輝かしい友愛の精神で結ばれていたかつてのNFTコミュニティに、皮肉や嫌味、冷笑的な態度など存在しなかった。しかし、状況は一変している。nft nowのナビアが11日夜のガラでスピーチした内容は、あまりにもタイミングをはずしたものだった。今、誰もが一斉にブームに乗ろうとしているかのような言い方に、苛立ちを覚える人は多いだろう。
ガラで同席したWeb3アーティストは、「私は仕事を見つけに来ただけです」と打ち明けた。NFTブームは終焉し、枯渇寸前の甘い汁を奪い合うような局面が来ているようだ。(翻訳:清水玲奈)
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