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  • 2022.02.10

訃報:カルト的人気を誇った“盗撮写真家”吉行耕平が死去

東京で繰り広げられる享楽的なナイトカルチャーを撮影し、戦後日本の独特な感性を象徴する作品を生み出した写真家、吉行耕平が76歳で亡くなった。

吉行耕平「公園」シリーズから《無題》(1973) Courtesy Yossi Milo Gallery, New York

吉行が長年所属していたニューヨークのYossi Milo Gallery(ヨッシ・ミロ・ギャラリー)は、1月29日に訃報を発表。「吉行の写真は、私的なものと公的なものの対立がいつの時代にも存在し、私たちが人生のあらゆる局面で向き合わなければならないことを気づかせてくれる」と評した。

吉行は1970年代、35mmカメラを片手にナイトライフの片隅で撮影を続けた。代表作の「公園」シリーズは、街中の公共の場で密かに行われるセックスを記録したものだが、多くの作品では、その光景に興奮しながら近くに身を潜める男たちに焦点が当てられている。きちんと服を着た男性が性交中のカップルをのぞき見ている写真、ズボンのボタンを外したり手を伸ばしたりしている写真もある。カップルが自分たちを見ている人物をどれくらい意識しているかは分からない。

吉行耕平「公園」シリーズから《無題》(1973) Courtesy Yossi Milo Gallery, New York

吉行の写真は、必ずしものぞき見を批判するものではない。彼の関心は、監視とプライバシーの間にある緊張感や、見知らぬ人に見られることの不安感にあった。吉行は暗闇の中に被写体を求め、人々がのぞき見をする理由を探ろうとした。

2007年に吉行は、ニューヨーク・タイムズ紙にこう語っている。「自分の意図は公園で起きていることをカメラに収めることだったので、彼らのような『のぞき魔』ではありません。でも、ある意味、写真を撮る行為自体がのぞき見のような気がするんです。私は写真家だから、のぞき魔なのかもしれない」

吉行は1972年に週刊新潮でのぞき見のシリーズを発表した。婚前交渉や同性愛は当時の社会で容認されていなかったので、その写真は異例かつ過激なものだった。1979年には駒井画廊(東京)で、「公園」の作品を偽名で展示。等身大でプリントされた作品は、薄暗いギャラリーで懐中電灯を頼りに見なくてはならず、誰もがのぞき見をしている状態になった。

瞬く間にカルト的な人気を得た吉行だが、国際的な写真界から認められることはなかった。しかし2006年に英国の写真家マーティン・パーが、様々な写真集を紹介した大著『The Photobook, A History, Volume III(写真集の歴史、第3巻)』に「公園」を収録。パーはこの作品を「社会派ドキュメンタリーの傑作」と称賛した。

2007年頃、ニューヨークのYossi Milo Galleryが作品を展示し始めると、たちまちアートシーンから注目を浴びるようになる。2010年にはテート・モダン(ロンドン)の展覧会「Exposed: Voyeurism, Surveillance, and the Camera(露出:覗き見、監視、そしてカメラ)」、2011年にはメトロポリタン美術館(ニューヨーク)の「Night Vision: Photography After Dark(夜のビジョン:日が落ちた後の写真)」、2013年にはヴェネチア・ビエンナーレのメイン会場で、それぞれ作品が展示されている。

現在、吉行の作品は、ニューヨーク近代美術館ヒューストン美術館サンフランシスコ近代美術館などに所蔵されている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年1月31日に掲載されました。元記事はこちら

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