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ガザ危機で分断深まるドイツ・アートシーン。反ユダヤ主義への警戒と言論の自由をめぐる複雑な事情

イスラエル・ガザ戦争による人道危機が続く中、パレスチナへの連帯を示すアーティストは少なくない。しかしドイツにおける抗議行動は、特有の複雑な環境に置かれている。イベントのキャンセルや辞任騒動などに揺れるドイツのアートシーンをリポートする。

Photo: Thomas Lohnes/Getty Images; John MacDougall/AFP via Getty Images, Halil Sagirkaya/Anadolu via Getty Images, Michel Setboun/Corbis via Getty Images, Mahmud Hams/AFP via Getty Images, Till Cremer

激震に見舞われたドイツの文化セクター

2023年10月以来、ドイツの文化セクターは混乱を極めている。イスラエルパレスチナの間で続く危機は、この国で最もデリケートかつ喫緊の政治的議論に火をつけ、展覧会やイベントのキャンセル、資金援助の打ち切り、ボイコット、辞任騒ぎなどを引き起こした。一夜にして議論の渦に巻き込まれた文化施設の中には、反ユダヤ主義やユダヤ人の生活、人種差別、移民問題、外国人排斥、ホロコーストの歴史など、ドイツにとって最も本質的な問いに向かい合うため、我先にと論争に加わったところもあれば、そうせざるを得ない状況に追い込まれたところもある。

ロシア出身でアメリカに移住したユダヤ人作家マーシャ・ゲッセンのハンナ・アーレント賞受賞をめぐる騒動(*1)、ドクメンタ16の芸術監督選考委員全員の辞任、フランクフルト・ブックフェアで予定されていたパレスチナ人作家アダニア・シブリを称えるイベントの中止など、ここ数カ月で大きく報道された出来事は、ドイツ国外からも注視されている。


*1 ゲッセンは、ハンナ・アーレント賞の受賞が決まった後にニューヨーカー誌に寄稿した記事の中で、現在のパレスチナはナチス占領下の東欧のユダヤ人ゲットーのようだと書いた。この賞を設立したドイツのハインリッヒ・ベル財団はこれに反発し、授与式から撤退した。

そんな中、1月にはベルリン市が文化活動の助成金申請に「反ユダヤ主義条項」を導入すると公表し、一気に緊張が高まった。ベルリン市の文化担当幹部のジョー・チアロはこの中で、申請者は国際ホロコースト記憶同盟(IHRA)による反ユダヤ主義の定義を受け入れると正式に同意しなければならないとした。その定義には、「現在のイスラエルの政策をナチスの政策と比較すること」や「イスラエルという国家の存在が人種差別的だと主張するなどして、ユダヤ人の自決権を否定すること」が含まれている。どちらも、イスラエルとパレスチナの関係や、ガザでの戦争についてドイツ国内で議論される際に浮上する問題だ。

しかし大きな反発を受けたチアロは、その後間もなく「反ユダヤ主義条項」に従うことを申請者に義務付けないと発表。理由は「法的な懸念」とされている。

だが、ベルリンの地元メディアは、文化団体の「オユン(Oyoun)」が市政府から資金援助を打ち切られたことを大きく報じた。「中東における公正な平和のためのユダヤ人の声(略して〈ユダヤ人の声〉)という団体と共同で「追悼と悲しみ」の集会を計画したことが支援打ち切りの原因だった。ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を行った2023年10月以来、ベルリンでパレスチナ支持を訴えてきた「ユダヤ人の声」は、反シオニズム(*2)を掲げる「平和のためのユダヤ人の声」のパートナーではあるが、付属団体ではない。


*2 パレスチナにユダヤ人の民族国家を建設しようとするシオニズム運動(イスラエル建国につながった)に反対する立場。

「沈黙のアーカイブ」という名のインスタグラムのアカウントは、人々から寄せられた情報をもとにドイツでのキャンセル事例をGoogleスプレッドシートにまとめて共有しているが、そこには4月上旬時点で127件の「中止されたイベントや沈黙させられた人物」などが記録されている。

こうした一連の騒動は国外でも物議を醸し、反ユダヤ主義を断固として封じ込めようとするドイツの強硬政策の悪例、またはその乱用ではないかとの声が上がった。ドイツでは、反ユダヤ主義的な言葉や行動(鉤十字を掲げることやナチス式の敬礼など)は法で禁じられ、違反すれば逮捕される。

特に前述の反ユダヤ主義条項は、ドイツの公的機関が支援対象のアーティストに特定の政治的立場を押し付けたとして一部の人々の怒りを買った。その一方で、2017年以降台頭してきた極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大きく支持を広げ、昨年の秋以降、反ユダヤ主義的な事件が激増する中、「言論の自由」をめぐるこうした議論はユダヤ人の身に迫る危険を軽視するものだと感じている人々もいる。

特有の歴史的背景がもたらす論争や対立の複雑さ

ドイツ政府は他国と比べて非常に手厚い芸術支援を行っている。2020年には145億ユーロ(直近のレートで約2兆3800億円)が文化領域に割り当てられたが、これは10年前の文化関連支出から55%以上もの増加を示している。

2019年にドイツ歴史博物館で行われた「ドクメンタ:政治と芸術」展の共同企画者である美術史家のユリア・フォスは、あるインタビューでこう語った。

「私たちの文化事業のほとんどは、公的機関の資金によって賄われています。『資金は最大限の自由とともに与えられる』とされていますが、今議論されているのはその点だと思います。果たして最大限には限度があるのか、それが争点になっているのです」

しかし昨年、不況が続いていることを理由に、ドイツ政府は2024年の文化予算に対して2億5400万ユーロ(約417億円)の大幅削減を行うと発表している。

政治的なアート作品をいかに有意義な形で見せるかは難しい課題だ。そして今日のドイツにおける激しい論争は、現代アートの核心的な要素である政治的批評を、イスラエル、パレスチナ、ガザでの戦争をめぐる国民的な議論にどうつなげていくかという問題に関わっている。ドイツの文化施設が削減された予算でやり繰りを迫られる中、言論の自由や検閲・偏見への批判に関する議論の白熱は、ドイツの文化と政治に内在するいくつもの亀裂を露わにしていった。

ただ、ドイツの文化事業がロデオのような手綱捌きを要求されているのは、今回が初めてではない。たとえば、2022年のドクメンタ15(ヴェネチア・ビエンナーレと同年にドイツのカッセルで開催)は、幅広い地域からさまざまな人種のアーティストたちが参加し、これまでのドクメンタで最も多様性に富む展覧会となった一方で、反ユダヤ主義疑惑に翻弄された。この年のドクメンタで最も人々の記憶に残ったのは、その点ではないかと思えるほどだ。

ドクメンタ15が反ユダヤ主義的だという指摘のうち、一部は広く議論され、賛否が分かれた。親パレスチナ運動の「ボイコット・投資撤収・制裁(BDS)」を支持するアーティストを排除すべきだという主張や、イスラエルの兵士をロボットのように描写したことなどがそれにあたる。しかし、展覧会のオープニング時に会場の中央広場で披露された壁画は、反ユダヤ主義的な偏見だと断定された。問題となったのは正統派ユダヤ教徒を揶揄した部分で、もみあげを巻き髪にして牙を生やし、ナチス親衛隊の記章をあしらった帽子をかぶった人物が描かれていた。

ドクメンタ15で反ユダヤ主義的と黒幕がかけられ撤去されたタリンパディの壁画。Photo: Wikimedia Commons

ドクメンタでの論争は、ドイツに広がる厄介な言説を反映したものでもあった。それは「輸入された反ユダヤ主義」という考え方で、ドイツに住むユダヤ人にとって最も危険な脅威は移民、具体的にはイスラム教徒やアラブ人、有色人種だとされる。だが、これが正しくないことは統計が証明している。2022年の警察の報告書によれば、ドイツでのユダヤ人に対するヘイトクライムの83%はネオナチによるもので、2019年にそれは90%に達した。

そもそも反ユダヤ主義とはいったい何だろう? ユダヤ人社会の中でさえ、その定義はまちまちだ。イスラエルとパレスチナの間で危機が高まる中、国際社会で浮き彫りとなった最大の対立軸は、反シオニズムが反ユダヤ主義的な偏見と見なされるかどうかだった。

ドイツでは、ホロコーストの「特異性」が国の精神に深く刻み込まれている。それは、ホロコーストは他に類を見ない残虐な出来事で、過去から現在にかけて世界中で行われたいかなる行為とも比較できないとする見方だ。しかし当然ながら、こうした見解が生れた当初から、世界中の歴史家たちの間では議論が続いてきた。新語の多さで知られるドイツ語には、これを指す「Historikerstreit(歴史家論争)」という言葉もある。そしてホロコーストの特異性という考え方は、ベルリン市政府が提案した反ユダヤ主義条項の中核をなすもので、そこでもナチスの残虐行為を他の事象と比較することを明確に禁じている。

過去の暗い影は文化施設の組織内にも

ドイツの現代アートの歴史とそれを取り囲む文化には、ナチスの存在が深く刻み込まれている。そこには、ドイツの有力コレクターたちが受け継いだ富や、強制収容所に送られたユダヤ人から略奪された何十万点もの美術品などが含まれる。ドイツの文化をリードする権威ある組織や施設についても同じことが言えるが、そちらの暗い過去はより見えづらい。

たとえば、著名な美術史家のヴェルナー・ハフトマンが、ナチ党との関わりについてをついていたことを研究者が明らかにしたのは2019年になってからのことだ。ナチスとの関わりはなかったというハフトマンの主張とは裏腹に、彼はナチ党員に登録され、ヒトラーの準軍事組織である突撃隊(SA)のメンバーでもあった。しかもイタリアでは、「レジスタンスのメンバーを探し出して拷問し、処刑した」戦犯として指名手配されてもいた。

そのハフトマンは、ヒトラー政権が崩壊した10年後の1955年に、ドクメンタの共同設立者として立ち上げの中心的な役割を果たし、1967年にはドイツで最も有名な現代アートの美術館、新ナショナルギャラリー創設時の館長となっている。

「世界文化の家(Haus der Kulturen der Welt)」のボナヴェンチュール・ソー・ベジェン・ンディクン館長など高い地位にいる人物も含め、現在ドイツの文化施設で働いている人々は状況を悲観的に見ている。自分たちの職場に意味のある変化、つまり表面的なものではなく、神聖視されがちな文化施設に残る暴力的な部分を構築し直すような変化を起こすのは、不可能とは言わないまでも難しいと感じているのだ。

そうした施設で働くフリーランスのパウル(本人の希望により仮名)が語ってくれたところによると、ドイツの文化施設は厳格な規則に縛られた恐ろしいほどの縦社会で、「カフカ的」という言葉がぴったりだそうだ。

パウルいわく、ドイツの文化施設の平均的な労働者は、官僚主義の複雑な網の目の中で不条理なほどの「不安と恐怖」を感じながら「説明が一切ない」環境で働いている。彼はしばしば、「誰が権力を握っているのだろう? 今何が起きている? 私は頭がおかしくなったのだろうか? それとも頭がおかしいのはこの人なのか?」と自問自答するという。

フリーランスは特に、パフォーマンスを上げなければというプレッシャーを感じやすい。比較的不安定な立場に置かれ、仕事を続けられる保証がなく、契約を解除される可能性もあるからだ。ドイツの文化施設は、そこで働いているスタッフに疎外感を抱かせる環境だとして、パウルはこう言った。

「混血のドイツ人である私は、必ずしもこの国やこうした施設の不可欠なメンバーとは見られていません。私の視点は興味深いけれど、この国にとって大切なものではないと思われているのです」

やはり仮名を条件に取材に応じてくれた美術館職員のエミールによると、同僚の中にはイスラエル、パレスチナ、ガザに関する政治的意見を「密室でなら」抵抗なく話せるという人や、仕事に支障をきたすことを恐れずにデモに参加できるという人もいる。ただし上層部は、インスタグラムのような公の場では発言したがらない。

「キュレーターの中には、ほかの部門のスタッフも巻き込んで何か行動を起こさねばと考える人もいます」とエミールは語る。しかし、広報や館長の関与が必要な場合、話は複雑になる。そのため、慎重派の同僚たちは「自分たちの政治的立場は企画に反映すればいい」と考えているという。

「美術館で働いているスタッフやキュレーター、館長は、必ずしも政治的アクティビストではありませんから」

エミールによると、ドイツの文化施設は「とにかく仕事のペースが遅い」ため、「公的な文化事業の枠組みの中で政治的な変化に適切に対応したり、備えたりすることは非常に難しい」のだという。「2年先まで予定が決まっているので」と彼は言いつつ、これは単にお役所的な仕組みの問題だけではないと付け加えた。

さらに、「不毛な対立や論争を煽るリスクを犯すことなく対応するには、(ドイツとガザの両方における)複雑な状況を理解するのに十分な知識、認識、理解」が必要だと彼は言う。その上で「アートの世界にはクレイジーな人々が大勢いて、そういう人たちが権力を握っている」ことも問題をさらに複雑にしていると明かした。

「反ユダヤ主義」の烙印を押されることへの不安

パレスチナとシリアにルーツを持つ詩人ガヤス・アルマドゥーンのような人物にとって、状況はより深刻だ。10月に「詩の家(Haus für Poesie)」で予定されていた詩集の出版記念イベントがキャンセルされた彼に取材を申し込んだとき、アルマドゥーンはある懸念を示した。それは、この記事がドイツでの論争を両論併記で取り上げ、一方で「キャンセルされた」アーティストの声を紹介しながら、他方ではドイツの文化施設で働く人たちの立場と心情を示し、その決断をやむを得ないものと思わせるような内容になるのではないかという点だった。

自分が直面している問題は検閲であり、いかなる正当化もできないと彼は言う。

「もしあなたが2つの立場を紹介する記事を書こうとしているのであれば、私たちはどんなゴールにも辿り着けないでしょう。人々を沈黙させることの是非について、私とあなたの間で議論の余地はないはずです。私はガザに住む100人以上の親族を失いました。私たち家族は85人(の子どもたち)を失いました。ところが、これについて話すことは許されないのです。ドイツでは反ユダヤ主義的だとみなされてしまいますから」

2008年までシリアに住んでいたアルマドゥーンにとって、現在のドイツの状況はもはや民主主義ではないという。

「秘密の集まりに参加するようになりましたが、最後にそんな集会に出ていたのはシリアでのことです」

彼が参加しているのは、徹底した暗号化でプライバシーを守るメッセージアプリ、シグナル(Signal)上の「恐竜(時代遅れの人々)」と呼ばれるグループの集まりで、メンバーはベルリンのカルチャーシーンで比較的高い地位にある面々だ。彼らは今の状況を「何とかしたい」と思いつつ、「上司や部下に知られたら」職を失いかねない懸念があるため匿名で意見交換をしている。

アルマドゥーンからすれば、左派のユダヤ人グループと連携したベルリンの文化団体オユンに対する資金援助の打ち切りは、文化領域で活動する人々を「脅す」ためにドイツ政府が発したメッセージだという。つまり、「我々の方針にそぐわない左派ユダヤ人に発言の場を与えたら、あなたをキャンセルしますよ」というわけだ。現に、自身がユダヤ人であるアーティストや知識人でさえ、ドイツ政府から「反ユダヤ主義的だ」と糾弾され、さまざまな形で不利益を受けている。

前述したマーシャ・ゲッセンのハンナ・アーレント賞受賞をめぐる騒動は大きく報道されたが、そのほかにもキャンディス・ブライツ、マイケル・ロスバーグ、デボラ・フェルドマン、バーニー・サンダースといったユダヤ系の文化人や政治家が、イスラエルやパレスチナ、ガザ戦争に関する発言を理由にキャンセルされたり、排斥されたりしている。アーティストのヤエル・ローネンや歴史学者のイラン・パペもユダヤ系イスラエル人だが、ドイツ国内で母国政府を批判したためにペナルティを受けた。フェルドマンとサンダースはホロコーストの犠牲者と生存者の子孫で、パペの両親はナチスの迫害を逃れて1930年代にドイツからイスラエルに移住している。

アーティストのブライツは、US版ARTnewsのメール取材にこう回答した。

「何百万人ものユダヤ人を殺した人々の子孫が、反ユダヤ主義が再び台頭しないよう警戒し、重い責任を感じ続けているのは妥当なことです。ただし、近年のドイツのように、そうした責任感が考えなしの単なる教条主義に変わると危険ですし、逆効果です。ドイツの行き過ぎた『反・反ユダヤ主義』の下では、進歩的なユダヤ人やイスラム教徒、アラブ人は、存在するだけで反ユダヤ主義者と見なされてしまいますし、この風潮はパレスチナ人に最も残酷な形で影響を与えています。証拠もないままに反ユダヤ主義的だと言いがかりをつけ、知識人や文化領域で働く人々を糾弾する風潮が生まれている理由は、ユダヤ人の身の安全を本気で守りたいからではなく、深刻な反ユダヤ主義の末に大量虐殺に至った過去を克服した前向きな国であるというイメージを押し出したいからではないか。この国の進歩的なユダヤ人の多くは、そう考えるようになっています」

耳を傾けられないユダヤ人の声も

とはいえ、これはベルリンに住むユダヤ人の間でも議論が分かれる問題だ。世界ユダヤ人会議(ニューヨークに本拠を置くユダヤ人の国際組織)によれば、ベルリンのユダヤ人コミュニティは約1万人で、ドイツ国内最大だという。しかし、ドイツのユダヤ人中央福祉委員会で働くユダヤ系ドイツ人作家のラウラ・カゼスによると、現在の議論で聞こえてくるユダヤ人の声は偏っており、最近ドイツに移住した特権的な立場にある人たちの主張ばかりが目立つという。彼らはアメリカや南アフリカ、イスラエル、南アメリカ諸国などから来たアッパーミドル層の「外国人」(筆者の呼び方で、彼女はそう表現していない)で、ドイツにおける反ユダヤ主義の深刻さが身に染みておらず、依然としてドイツ政府が注意深くユダヤ人の生活を守らなければならないことを理解していないというのが彼女の主張だ。

「反ユダヤ主義は1945年にドイツから消えたわけではありません。この国の言葉を話さなければ、それを100パーセント理解するのは難しいでしょう」

イスラエルとパレスチナの問題や言論の自由をめぐるドイツの議論について、カゼスはフラストレーションを感じるという。ドイツ国内のユダヤ人で最も多いのは主に旧ソ連から来た労働者階級の移民だと指摘した上で、彼女はこう説明した。

「彼らの声はまったく聞こえてきません。ドイツで実際に起きていることを理解するためには、彼らの話に耳を傾けることが重要なはずです。ドイツ国外からやってきて、出身国で身につけた言語を使い、深く理解していない国について語る人々の話を聞く方がいいのでしょうか?」

ガザで戦争が始まって半年が経過した今も、ドイツアート界の多くの人々は、反ユダヤ主義者と呼ばれることを恐れ続けている。アルマドゥーンが話していたように、一度そう呼ばれてしまえば、さまざまな機会を失うことになり、経済的にも将来を見通せなくなるからだ。パレスチナ人にとって、この問題はさらに深刻なものがある。出自という変えることのできない単純な事実がしばしばその罰を重くし、反ユダヤ主義者的と呼ばれる直接の原因になることさえあるからだ。

先日アルマドゥーンから送られてきたメールにはこう書いてあった。

「ドイツでは、私のような立場にある多くの人々が、アイデンティティの本質的な部分を不当に危険視され、政治的に正しくないとされます。私たちは敵として扱われ、歓迎されていないのです」

それでも「ドイツでキャンセルされることは金メダルを貰うようなものだ」とアルマドゥーンは考えている。

「ユダヤ人の友人が落ち込んだ様子だったので理由を聞いたら、『キャンセルされない僕はどうかしているのかもしれない』と言うのです。なので、『大丈夫、君はすばらしい人だ。時間の問題だよ。いつか君もキャンセルされるから』と慰めました。ドイツでキャンセルされないということは、今や恥ずかしいことにすらなっています」

さらに彼はこう続けた。

「キャンセルされた人たちは誰かというと、占領下にある人々の側に立つユダヤ人の左派、イスラエルの思想家の中でも最高峰のイスラエル人左派、ヨーロッパの最高の思想家たち、パレスチナの最高の思想家たち、言論の自由を本当に信じている最高の人たちです。パレスチナ人である私たちは、ユダヤ人の友人たちの助けなくしては、ドイツでは何もできません」(翻訳:野澤朋代)

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