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#ドクメンタ/Documenta

概要


ドクメンタとは、ドイツのカッセルで行われる国際的な現代美術の祭典。5年に一度開催されるこの国際美術展はアーティスト、キュレーター、美術史家から高い評価を得ており、世界の美術を語るうえで最も重要な展示のひとつと言われている。1955年に第1回展が開催され、これまでに15回展示が行われている。


開催時期


5年に一度、例年6月ごろから始まり9月の末頃まで開催している。開催日数が100日間であることから「100日間の美術館」とも呼ばれている。2022年に開催したドクメンタ15はヴェネチア・ビエンナーレアートバーゼルと時期が重なり一度に回ることができた。


開催場所


ドクメンタは通常、ドイツ中央部に位置するヘッセン州の年カッセルで行われる。2022年に開催したドクメンタ15ではカッセル最古の建築物でもあるフレデリチアヌム美術館をはじめ、32会場で展示が行われてた。また、2017年のドクメンタ14ではカッセルだけでなくアテネでも展示が開かれ、2012年のドクメンタ13ではアフガニスタンのカブール、エジプトのカイロ、アレクサンドリア、カナダのバンフで部分開催されており、カッセル以外でも展示が行われるケースもある。


出展方式


ドクメンタの総合ディレクターは選考委員会により一名選ばれる。その総合ディレクターがキュレーターを選出してチームを作り、展示するアーティストを選考するという行程で行われている。ドクメンタの総合ディレクターは長い間白人の男性ヨーロッパ人であったため参加する作家も欧米に大きな偏りを見せていたが、1997年開催のドクメンタ10ではカトリーヌ・ダビッドが初の女性総合ディレクターに選ばれた。2022年のドクメンタ15はインドネシアのアーティストコレクティブ、「ルアンルパ」が総合ディレクターを務め、ディレクターポジションの多様化が進んでいる。


ヴェネチア・ビエンナーレとの違い


ドクメンタと同じく国際的で影響力のある美術展としてヴェネチア・ビエンナーレがあげられるがその二つの違いとしてまず選定方法の違いがある。ヴェネチア・ビエンナーレは各国がパビリオンを持っているように、展示に参加する作家は国別で選ばれる。一方ドクメンタは、毎回指名されるひとりの芸術監督が自らテーマを決め、全てのアーティストを選考するという方法がとられている。また、ヴェネチア・ビエンナーレには見られる賞制度がドクメンタにはない。国別展示や賞制度を持つヴェネチア・ビエンナーレは比較的マーケットに近いと言われることがある一方で、ドクメンタは一人の総合ディレクターが確固たるテーマを掲げ、市場原理とは離れ、より実験的な作品を多く展示する傾向にある。


2022年のドクメンタ


2022年に開催されたドクメンタ15、総合ディレクターにはインドネシアのアーティストコレクティブ、ルアンルパが選出された。ルアンルパはインドネシア、ジャカルタを拠点に活動するアーティスト、クリエイター10人によるコレクティブであり、ユニットが総合ディレクターを担当するドクメンタ初の試みであった。展示の核を担うテーマである「ルンブン」はインドネシア語で収穫物の余剰を一つの倉に入れて共同体で共有するの米倉庫を意味する言葉であり、集団性や他者とのコラボレーションの精神を表している。合計67組のアーティストやコレクティブが参加し、日本からは原子炉を模したスチームサウナ「元気炉」を制作した現代美術家、栗原隆と逗子海岸映画祭を作り上げたシネマキャラバンが選ばれた。ドクメンタ15で最も論争が巻き起こったのは反ユダヤ主義的作品の展示だ。インドネシアのアーティストコレクティブ、タリンパディの壁画作品にはユダヤ人を風刺した過激な描写があり、パレスチナのグループ、クエスチョン・オブ・ファンディングは親パレスチナ運動を支持しているとしてユダヤ人団体から批判を受けた。これらの騒動によりドクメンタ15の総監督を務めるザビーネ・ショルマンが辞任することとなった。


歴史


1955年、アーティスト、教授、キュレーターであるアーノルド・ボーデの提唱により開催された第1回のドクメンタは、ナチス政権下で退廃芸術として否定されていたモダンアートの復権を目指して行われた。展示では1920,1930年代の抽象作品を中心に展示され、アンリ・マティスパブロ・ピカソ、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、ゾフィー・トイバー=アルプなどが扱われた。第5回目となった1972年のドクメンタではスイス人キュレーター、ハラルド・ゼーマンが総合ディレクターを務め、ハプニングやコンセプチュアル・アートをこれまでの絵画や彫刻と同等の位置づけにするひとつの転換点となった。フランスのカトリーヌ・ダビッドによってはじめて女性がディレクターを務めた1997年のドクメンタ10では、アフリカ、アメリカ、アジア地域のアーティストに門戸が開かれなかったという批判の声も多かった。一方、世界中の著名人や知識人を毎日ゲストに迎え講義を行う100 Days – 100 Guestsシリーズは大きな反響を呼んだ。2002年のドクメンタ11は、ポストコロニアルの観点から真にグローバル化した回と言える。ヨーロッパ人以外からは初の総合ディレクターに任命されたナイジェリア人のオクウィ・エンヴェゾーは、学術的な登壇の場を4大陸で開催することで、ドクメンタのグローバル化を進め、従来の形式を根本的に拡大させた。


公式ページ


(Text: Atsushi Suzuki)

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